第2話 行くところが無いなら
年齢は20代前半くらい? 若い女性だ。
髪型はボブで、少し脱色している。
モスグリーンのワンピースに季節物のカーディガンを着こなして、スラッと伸びた背が、まるでモデルさんみたい。
顔が・・・・聡子ちゃんにそっくりっだった。
目つきが聡子ちゃんよりもキツい印象を受けるけど、パーツの構成は聡子ちゃんと同じに見える。
全く同じではないけど、彼女が成長したら、きっとこんな風に美人になっているんだろうなって。
唯一違うのは、長いストレートの髪型ではない事だ。
私は、あの頃の聡子ちゃんに憧れて髪を伸ばした。
でも実際に伸ばしてみると、日本人形のように真っ黒で重たい質感は、聡子ちゃんのそれとは似ても似付かない。
聡子ちゃんの髪は、もっとフワッと軽くて、優しいブラウンだった。
それでも、似ている。
目の前の女性、聡子ちゃんにしか見えない。
「あの・・もしかして、聡子ちゃん?」
「あら、ごめんなさい、聡子は私の妹なの。あなた、
え、聡子ちゃんのお姉さん・・・・あれ? お姉さんなんていたかしら?。
でも、この顔も仕草も、聡子ちゃんとよく似ている。多分、姉妹というのは本当なんだろう。
でも、どうしてお姉さんがここに?
いや、そんな事よりも、聡子ちゃん! 聡子ちゃんに会いたい!
転校してから連絡も出来なかったし、どこへ引っ越したかも調べられなかった。
明らかにおかしな転校だったんだ。
その手がかりが、今目の前にいる、それもそっくりなお姉さんが!
「あの、聡子ちゃんは今、どこにいるんですか?」
「・・・・そうね、その話を・・する前に、あなた、これから行くところあるの?」
え? なんでそんな話を聞いてくるんだろう。
私はもう聡子ちゃんに会えれば、この世に未練なんてないのに。
「いえ、自宅に帰れば私、多分殺されると思いますし、それに私なんて」
私がそう言い終わる前に、彼女は私を強く抱きしめてくれた。
え? なんで? どうしてお姉さんが私を?
それでも、あとは死ぬだけだと思っていた私は、お姉さんの温もりを感じた途端、涙が止まらなくなってしまった。
恥ずかしい話だけど、院内に響きわたるほどの声を張り上げ、私は大泣きした。
そんな私を、優しく諭すようにお姉さんは私の髪を撫でた。
「ねえ、あなたが嫌でなければだけど、行くところが無いなら私の所に来ない? 一人暮らしにしては結構広いんだよ」
聡子ちゃんよりも目がつり上がっていて、少し怖い印象だったけど、こうして話すと優しい所や面倒見の良いところが聡子ちゃんによく似ていると思った。
意識がまだはっきりとしない中、私はお姉さんの提案を受け入れた。
そうして私は、何一つ解決していないと言うのに、安心して深い眠りについてしまったのだった。
お姉さんのコロンの香りが、まるで誘眠効果があるように。
私が次に目を覚ましたのは、乗用車の助手席だった。
運転しているのは・・・・さっきのお姉さん。
良かった、夢じゃないんだ。
ここ、どこだろう。随分都会に見える。
さっきまで富士山麓の病院に居たはず。なんだか今日は寝て起きて、目まぐるしいな。
「あら、起きた? 今、私の家に向かっているの。お腹空いてるでしょ」
「いえ・・・・なんだか胸が一杯で」
そう言うと、私はさっきまでお姉さんの胸で大泣きしていた事を思い出し、赤面してしまった。
それを横目で確認すると、クスリと笑う仕草が、大人の女性っぽくて見取れてしまう。
道路の標識を見ると「世田谷」と書いてある。
都心だな。
私の実家とは、大分離れている。良かった。
「まだ名乗っていなかったわね、私、小島 弘美、そう言えば会ったことないね」
「はい、聡子ちゃんとは、あまり家で遊んだりしなかったですから」
車が高速道路を降りて、住宅街に入る。それでもマンションが立ち並ぶ都会の一角だ。
お姉さん・・弘美さんは、お仕事なにしている人なんだろう。
「あの、聡子ちゃんは、一緒に住んでいるんですか?」
「・・・・一緒じゃないわ」
なんだろう、聡子ちゃんの話をすると、少し間が開くのはどうして?
喧嘩でもして、仲が悪いのかな。
たくさん寝たからか、私は段々意識がはっきりしてきて、疑問が多くあることに気づいた。
「あの、どうして私を訪ねてくれたんですか?」
運転する弘美さんの横顔が、少し悲しそうに見えたのが不思議だった。
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