第11話 苦手なこと
「麗華どうしたの?顔が赤いよ?」
「……」
言葉に詰まる。葵は囁きと吐息のことについて、何とも思ってない……らしい。気付いてすらいないみたいだ。
「ごめん、暑かった?」
「…違う」
少し拗ねたみたいな言い方になってしまう。拗ねているわけじゃない、葵の無意識で何をしたか全く気付いていないことにそんな言い方になってしまった。
葵の方は怒ったような雰囲気はなくなっていて、いつもみたいに落ち着いた様子に戻っていた。
「なに?こういうの恥ずかしい?」
「・・・・・・気にしなくていい……ちょっと、耳元で囁かれたりするの苦手だっただけだから」
葵がのぞき込むように確認してくるから手で顔を覆ってそう答えた。そう、恥ずかしかったんじゃない。耳元が苦手だってだけだ。
それだけ。
葵が好きだからっていうのと、そのせいか緊張したというのも多分にあると思うけれど、言えるわけがない。葵には好きな人がいて、失恋したばかりで、私は慰めているだけだから。それを思い出してグサっと現実が胸に刺さる。
「……」
1人であれこれ考えている間、隣にいる葵がなにも言ってこないのに気づく。
何も言葉を返してこない葵が気になって顔を上げると、葵がこちらを見つめている。
「ど、どうしたの?」
「ねぇ、麗華。それは、苦手なんじゃないよ。たぶん」
「ん?」
私は首を傾げて、説明を待ったのにその続きはなくて、葵はただ私を見つめたままだった。だから居た堪れなくて目を逸らした。
「麗華……」
「ん?」
私は目を逸らしたまま返事をする。
「ねえ、麗華」
今度は肩に手を置かれて名前を呼ぶから、しかたなく葵の方を向く。
「なに?」
「私、麗華に慰められるのすごく落ち着くよ」
「そ、そう」
改まってわざわざ言わなくてもいいのに。こちらを向いた葵は、優しくてまっすぐな目でそんなことを伝えてくる。
「だから……」
そして、葵は何かを言おうとしたけれど、口を閉じてしまった。
「だから?」
気になって続きを促した。
「だから…ねぇ、麗華。……私の失恋が癒えるまで、また慰めてよ」
どこか遠くを見ていた葵の瞳に、はっきり私が映っている気がした。
それは気のせいだろうか。
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