ep.16 陽の光の下で、仲直りを。

 「儀式」を終えた後の聖女の泉は、とても静かだった。


 アゲハと共に歌っていたラビット達は、マナという青い光の粉を沢山放出したからか、みなその場で腰を下ろしくつろいでいる。中には寝ている子もいた。

 そしてヒナはというと…


 「っ――」


 力を放出した影響か。泉の中央で、手の平を掲げたポーズのまま、意識が遠のいていった。

 このままだと気を失い、泉の底に沈んでしまう!


 「はっ…!」

 ザバーン!


 礼治が動いた。

 彼はすぐにヒナの異変を察知し、泉へとダイブしたのだ。これには僕もアゲハも驚きの表情を浮かべ、トンネルの奥に見える小さな島の出現に目を奪われている場合ではなくなる。

 礼治は泳いで泉の中央へ辿り着き、気を失ったヒナが溺れない様に抱えた。


 「大丈夫?」

 と、サンドラが泉の縁から声をかける。礼治は縁へ向かって泳ぎながら答えた。

 「あぁ。気を失っているだけだ。すぐ王宮へ戻って安静を取りたい」

 「あの… ここで眠っているラビット達はどうすれば?」

 と、イシュタが不安そうに質問する。ついては、サンドラが安心の意を込めて頷いた。

 「もし急ぎでなければ、ここで暫く休んでいいわよ。衣食住はグロウバイオームで確保できるし、外部から怪しい者が近づいてきたらすぐ、私と食虫植物達が追い払うから。全員目が覚めたら、アゲハ達には私から、ガラケーで連絡するという方法でどうかしら?」

 「ホントですか… すみません! それであれば。サリバ、どうする?」

 「うん、私もお言葉に甘えようかな。あの! ありがとうございます」


 サリイシュは揃ってサンドラに一礼した。マリアもそれに続いて

 「私もそれまでここに残っていいかな? あの解放された孤島、フェブシティ側からだと雲がさえぎってて見えなそうだけど… 見つかったらどうなるか、心配だからね」

 と、トンネルをチラ見しながらいう。サンドラは快く頷いた。


 こうしてアゲハ、礼治、ヒナの3人は立場的に王宮を離席し続けるわけにはいかないので、一旦戻るのは確実として、僕もこのあと礼治達の様子を見るため、一緒に帰る事にした。

 ここにはマリアとサンドラがいるし、サリイシュも能力を覚醒済だから、流石に僕達がいなくても戦えると思ったからだ。

 泉に入ってびしょ濡れになった礼治とヒナだけど、そこは礼治が操る黒焔魔法によるものだろう、お姫様抱っこで縁に上がった頃には既に2人とも乾いていて、眠っているヒナの肌質も元の人間に戻っていた。



 「今、儀式で疲れた人がいる状況でいうのもなんだけど、アゲハ… 歌、素敵だったわよ」


 というサンドラの言葉を背に、振り向いたアゲハが「ありがとう」といって帰路についたのが、とても印象的だった。




 ――――――――――




 僕達がグロウバイオームを抜けるまでの間、森が意思を持って動く様子はなかった。

 森の地面移動は、本当に不規則だ。それも最近はサンドラが食虫植物達を牛耳っているからか、頻度は減ったけど、もしかして先のトンネル形勢が関係しているのだろうか?

 まぁ、まだ儀式を終えて間もないわけだし、もう少し様子を見なきゃ何とも言えないな。


 ♪~

 「もしもし?」

 『アゲハ、すぐに戻ってこれるか!? 広場周辺が、ちょっとした騒ぎになってるんだ』


 帰路の途中、アゲハのガラケーにマニーからの着信が入った。

 その内容は僕達からも聞こえるくらい大きな音で、先方がかなり焦っている様子が見てとれる。「騒ぎ?」とアゲハが反芻すると、マニーが次に衝撃的な事をいいだした。

 『ドワーフ達が、一斉に…!』



 ………。



 礼治はヒナを部屋に連れていく関係で手が空いていないため、王宮に戻ってからは僕とアゲハが広場へ向かった。

 空は快晴。広間の隅に等間隔で設置されている四阿あずまや以外、太陽の日差しを遮るものがないから、日光に弱いドワーフ族が対策なしに外へ出ようものなら、簡単に石化するだろう。

 が…


 「あはははは! まてー♪」

 「こっちよー♡ うふふふふ」

 「わぁ、太陽ってこんなに眩しいんだ。えへへ」


 「「え!?」」


 なんと! その日中の広間に、多くのドワーフ族が笑顔ではしゃいでいるではないか!

 しかも顔も肌も晒した状態で、リリーやルカから貰えるであろう植物の傘も何ももっていない。なのに彼らは石化する様子もなく、余裕で日光を浴びているのである。


 「ヒック。おーこれはこれは、女王陛下じゃ~ありやせんか! へへへ、太陽ってこんなにも温かいものだったんですなぁ」

 こちらへ歩いてきたのは、ブーブだ。僕が最初に出会った飲んだくれの老ドワーフで、あのマリアのチャームを売って金にしようと内緒で持ち歩いていた――。

 「なんで、みんな太陽を浴びても石化しないんだ!? 一体、何が起こっている?」

 「なっ… ふん! 白い若造にはきいとらんわい」


 ムッ! このジジイ、まだあの時のチャーム奪還の件を引きずってるのかよ!?

 なんて内心思ったけど、ここは突っ込まないでおいた。確かにブーブが声をかけたのは、僕ではなくアゲハに対してである。アゲハが質問した。


 「自分達が太陽を浴びても大丈夫だと知ったのは、いつ?」

 「それがですな~陛下! 驚くなかれ、実はあっしが最初にそれに気づいたんでさぁ!」

 「ブーブさんが?」

 「ですです! いやぁ酔った勢いで外出たときに転んでしまいましてな~、わー日光にやられる~! と思って身構えていたんですが、暫く待っても石化しないもんでヒック! たまたま近くにいたハーフリング族が『空の色が変わった!』なんて言ってたんですが、あっしの姿を見た他のドワーフが次々と外に出てみたらこれですよ~!」

 「空の色が変わった…」


 アゲハが思い当たる節を反芻した。

 僕も同感だ。心当たりは明確にあの「儀式」による空の波紋。つまり今の空は、ドワーフが日光を浴びても平気な状態になったのだろう。アゲハが真剣な表情で、こう続けた。


 「アーカイブにあった真の力とは何か。曖昧な表現だったけど、漸く意味が分かったよ。

 今はもう少し様子見だけど、場合によってはきたる開戦に向けて、従来の方法から変えていく必要がある。マニーやヘルと相談し、軍の編成や救助優先度トリアージの見直しを申し出よう。法政ギルドにも、軍事費用の調整と協定の追加作成を一案しなくては。暗黒城との連携も」

 「アゲハ… なんだか、目に闘争心が」

 「いたぞ! みんな!」



 その時、別の方向から野太い男の声と、それについていく民衆の姿があった。

 あの面子… ミハイルと、コロニーの住民達じゃないか。しかもその中にはクリスも同行していて、本物の酋長の遺体を無事埋葬した後だと推測できる。にしても長かったな。



 「みんな。どうしてここに?」

 アゲハが考える仕草を下ろし、広場へやってきたコロニーの住民達へ目を向けた。


 今の彼らに、以前の様な威厳はなく… 悲しみの裏に、大きな決意を抱えている表情だ。



 「じょ… 女王様。この度は数々のご無礼を働き、大変、申し訳ございませんでした!」

 「「申し訳ございませんでした!」」




 ミハイルを筆頭に、続く兵士や住民達が一斉に、アゲハに深く頭を下げたではないか。

 襲撃以来、事実上の国交断絶状態だったコロニー。酋長に化けた悪魔がいなくなった今、彼らは漸く自由の身となり、ずっと願っていたアガーレールとの復縁を申し出たのである。


 「国民として、あるまじき行為を働き続けてきたのは百も承知です。せめてものお詫びとして、我々にできる事があれば、なんでも致します!」


 と、ミハイルが泣きそうな表情で謝罪する。

 アゲハは至って冷静だった。


(つづく)

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