ep.3 古代文字を、呼び覚ますために――

 「ここか」


 辿り着いた場所は、コロニー周辺より少し盛り上がった丘にある林。

 その林に囲まれる様にしてそびえ立つ、大きなログハウス。ここがケイオスの家だ。サリイシュが不安そうに見ている中、礼治がコンコンと玄関ドアをノックする。すると数秒後、


 『誰だ!? 話す用などない、帰れ!』


 開かない玄関の奥から、男性の激昂が鳴り響いた。

 ただノックしただけなのに、そんな怒鳴る事なくない? こりゃ相当心に何か問題を抱えているとみたぞ。サリイシュは「ひっ」と身を震わせ、僕は気まずくなった。

 礼治はなお、冷静である。


 「いとこの女王に、そちらがずっと一人でこもっていて心配だときいた。少し話があるんだ」

 『うるさい! 女王だのいとこだの、そんなもんどうでもいい! ガキ共が、さっさと帰れといってるんだ!』

 「「ふぇ~」」

 「くっ…! 何もそこまで言わなくても」

 「まて」


 サリイシュが更に怯えだし、僕が痺れを切らし前に出ようとした所を、礼治が腕を伸ばし制止した。

 すると礼治、一旦ふうと呼吸を整えてから、記憶の一部を思い出すようにしてこう告げる。


 「『危なくなったら荒野へ逃げろ。グリフォン達が皆を守ってくれる』」

 『…!?』


 あれ? それって、確か礼治が謎の象形文字の正体を速記だと気づいて解読した、あの宝箱から出てきた石板のやつ!?

 という僕の疑問視を横に、玄関の奥から爺さんの感嘆符が上がった。礼治は更に続ける。


 「『だが、くれぐれもグリフォン達の誇りである「姫様」に危害が加わらぬよう、気を付けてくれ。もし、そんな事になったら… 彼らは、皆に牙を向けるだろう』 ――母神様と称されるヒナが海底から拾い上げた、石板に刻まれていた古代文字だ。俺が解読した」

 『っ…!』

 「その隻眼は、グリフォン達に目を食いつばまれた痕なのだろう? アゲハから話は伺っている。態々そんな危険な場所に赴いたからには、その『姫様』について、何か知っているからじゃないのか?」


 爺さんの激昂が、途端に止んだ。すると数秒後、


 ギーッ

 「なぜ、それを?」


 まさかの! 僕達より少し小柄の、しわが濃いハーフリングの爺さんがゆっくりドアを開けて顔をのぞかせたのだ。この人がケイオスか。確かに右目に黒いアイパッチをしている。

 これにはサリイシュも驚きの表情。まさか本当に出てくるとは思っていなかったのだろう、ここまでの道のりがとても大変だった事がうかがえる。ケイオスも「信じられん」とばかり、目の前にいる礼治に怪訝な表情を浮かべていた。



 ………。



 「――古代文字が存在する事は、考古学に触れる前から何度か耳にしていた。俺はその謎を解明したく、暗黒城となりの火山地帯へ足を運んだんだ」


 ケイオスがそういいながら、歯痒い顔で俯く。

 あの後、玄関前に出てくれたこの爺さんを筆頭に、僕達は近くの大きな切り株を机にし、静かに話を聞いていた。

 曰く元トレジャーハンターというケイオスの口からは、次々と衝撃的な話が出てくる。


 「あの火山の下には、人為的に掘られたトンネルがあって、その先へ進むと大きな遺跡が建てられている。壁画には古代文字をはじめ、グリフォンに関する抽象的な絵がびっしりと描かれていた。『姫様』として崇められし、一際小さいグリフォンの絵もそこにはあった」

 「!」

 「だが俺が解読しようとしたその瞬間、どこからかマグマが大量に流れ込んできた。

 想定外だった。急いで避難したものの、遺跡はあっという間にマグマに満たされ、唯一の道であるトンネルでさえマグマの海に沈んだ。今はもう、誰もその遺跡に行く事はできない」

 「…」

 「帰ってから遺跡の存在を教えても、信じてくれる者は誰もいなかった。構造物があった形跡ごと、マグマに飲まれたのだからな。

 皆からは『ホラ吹き』だと揶揄やゆされた。悔しかった。だから、なんとしても遺跡の存在を信じてもらう為に、いっそのこと荒野へ行って、何かしら手がかりを得ようと思ったんだ。

 妻と息子は俺が心配だと、一緒についてきてくれた。だけど、その選択が間違いだった」


 妻と息子―― 僕はとても嫌な予感がした。ケイオスの下唇と拳が、震えている。


「荒野に到着してすぐ、グリフォン達が一斉に襲いかかってきた。その瞬間、俺はもう『姫様』に何かあった後・・・・・・だと悟ったさ。だけど、逃げ切る事ができなかった… 俺は右目を食いちぎられ、妻と息子は… 最後に見た時には、もう…!」



 聞いているだけで、心が痛くなる。

 ケイオスの左目から、涙が溢れ出ていた。そんな辛い事があったんだな。しかも2回も。


「ホラ吹きの蔑称べっしょうだけでなく、大黒柱の勝手な行動で、何の罪もない家族が犠牲になったとまで陰口を叩かれ… もう、何も信じられなくなった。あぁ、皆の言う通りだ。全部俺のせいだ。だったらもう、誰とも会わずに一人で野垂れ死んでやる! …そう決めたのだよ」

 そういうケイオスの震えが、徐々に収まってきた。サリイシュが泣きそうになっている。

「かわいそう。私、ケイオスさんにそんな過去があったなんて、全然知らなくて」

「ふん。お前達はまだ小さかった。知らなくて当然だ」

 ケイオスがそうぶっきらぼうに言うと、礼治がここで腕を組んだ。

「だが、そう1人で引き籠る決意をしたわりには、ここ数日前から2人の家の前を覗きに来ているそうじゃないか。本当は、まだ諦めきれていないんだろう?」

「なっ…! そ、それは」

「あーいたいた。おい礼治ぃ、そこで何アブラ売ってんだよ?」



 その声は、マゼンタか。


 礼治を探し、ここの匂いを嗅ぎつけてきたのだろう先代魔王トップの女性が、僕達の元へ歩いてきたのであった。礼治が呆れ気味にいう。

「そういうマゼンタはなぜ俺に尋ねてきた?」

「あのジョナサンがあんたを探してたんだよ。早く約束の場所へ連れて行かなきゃ! てね」


 約束とは、礼治がこんど仲間のジョン・カムリ、マイキ、そしてヒナの4人で行く荒野探索の件だ。さっき上がった石板の内容をヒントに、台地の下に何かあるかもしれないと見越しての事である。礼治はそれを思い出した。


「あーあれか。だが、まだそんな日時ではない。あいつは何を急いでるんだ?」

「さぁ。また何か嫌な未来でも見えたんじゃねぇの? …ところで、そちらの方は?」


 と、ここでケイオスへと目を向けるマゼンタ。僕達はここまでの経緯を一通り話す事に。



 ……。



「なるほど、火山地帯の遺跡がマグマ溜まりで先へ進めないと。確かに気になるな、ソレ」


 事情を把握したマゼンタが、真っ先に興味をもったのは例の遺跡の件だった。てっきりケイオスの辛い過去に同情するだろうと思っていたが、どうやら僕の思い違いみたい。


「速記だっけ? そいつが沢山書かれているのなら、さっさと解読してこっちの強みを伸ばしていった方が得策だろ?

 ならやってやろうじゃないか。遺跡のマグマ、全部抜いてやる」

「「「えぇ!?」」」


 僕とサリイシュの目が点になった。今、とんでもない事を言い出したぞこの先代魔王。

 マグマを抜くって、どうやって!? マゼンタがその疑問に気づいたのか、途端に呆れた表情を浮かべた。

「おいセリナ達、私のこと見くびんなよ? これでも鉱石魔法を遠隔で発現し、それで埋め尽くしてマグマを押し上げる事くらい朝飯前なんだ。伊達に魔王を務めたガラじゃねぇ」

「なんと… そんな素晴らしい能力をお持ちの方がいるとは!」

 と、ケイオスも驚いている。マゼンタは悪い気がしなかったようで、フッとしたり顔を浮かべていた。




【クリスタルの魂を全解放まで、残り 5 個】

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