第14話 沙矢とお昼休みの出来事

 百合ヶ崎ゆりがさき高は今日も平和で何より。それはつまり、私の日常もお変わりなくお過ごしということを指す。


「ねぇねぇさやッチ!そのキャラ弁って『まほミク』のミクじゃない!」

「す、素晴らしい……!今や世界で人気の魔法少女アニメをキャラ弁に……!流石は時代の先端を行くアニメー!」


 変わったことといったら、それまで智景ちかげと共にお昼休みを過ごしていたものが、彼女の部活仲間にして私の新しい友達となったアンちゃんこと暗藤あんどう 笑理えみりちゃんも加わったことよ。


 二人は私の望んでいないアニメのキャラクターを海苔やふりかけでえがかれたお弁当を興味津々きょうみしんしんになりながらまじまじと見つめている。


 二人は漫画同好部だからこそ私の弁当に大興奮しているようだけど、漫画やアニメの知識が乏しい私にとっては何故あそこまで興奮しているのかついていけない。


 そもそもこの弁当を作ったのは生粋のオタクな母なのよね。もし母が私くらいの年代で二人とつるんでいたら、現状以上にやかましいお昼になっていただろう。


 と、というか食べづらい……。そんなに見つめられちゃ口に含んでいる物が喉を通りづらいわ……。


 私は口に含んでいる物をジュースで流し込んで、二人にこんな質問をぶつける。


「あ、あのさ。この『まほミク』って凄いの?」

「えっ⁉」

「うぅっ⁉」


 私の素朴な疑問に、二人は大きなショックを受ける。


 えっ?何で?私の質問がそんなに禁断だったの?


「ちょ、ちょっと!『まほミク』を知らない人なんてマジで言ってるの!?アニメに詳しくないクラスメイトも必ず観ているんだよ!世の学生は学校の授業以上に必須項目だよ!」

「ま、『まほミク』を観ないとか……、国民の義務をぞんざいに扱ってるのと一緒……!」


 智景とアンちゃんが鬼の形相を作りながら私の疑問にショックを受けている。これほどまで『まほミク』とやらの影響が凄まじいということなの?


「わ、分かったわ。実は私のお母さんも観ているから今度観るよ」

「……約束だよ。さやッチ」

「オタクなら観て当然!」


 私の理解を促す言葉に、二人はふくれっ面を作りながら約束を取り付ける。


 ま、私はこの前、ひじり先輩の隣でその『まほミク』というアニメを観たけど、確かに凄かった。画力が特に。


 ストーリーに関しては全く頭に入っていなかった。隣に聖先輩がいるとだけあって、その緊張がまさって思い覚えていないのかも。


「うっ!!うぅ……」

「ど、どうしたのアンちゃん!?」

「急に悶え苦しんで!?」


 アンちゃんが何の前触れなく箸を落としては、頭を抱えて唸り始めた。


 一体何があったのよ!?別に病気という感じでもないのに……。


「か、か、感じる!ドアの方から私たちを睨んでいるような禍々まがまがしさ溢れるオーラを!」


 顔を上げてから窓の方向を見ながらおののくアンちゃんに、私と智景はそのドアの方を見る。


「うわっ!」


 智景は紫と黒の混色オーラをまとう生徒を見て、具現化して眼前に幽霊が現れたような驚き方を見せる。


 パープルカラーのストレートロングの髪が乱れるように宙を舞い、目つき眼光鋭く、尖った歯を見せて怒りがあらわになっている。


 当然その正体は幽霊ではない。


 聖先輩と同じ部活に所属する松村まつむら先輩よ。


「ちょ!ちょっとさやッチ!あの人何だか私たちを八つ裂きにするぞ!的な目つきでこっちを睨んできてるんだけど!?」


 インパクトの大きさに、なんにでも平気な智景でさえ脚がガタガタと震えている。それほど恐怖の象徴と化している。


 私は二人に申し訳ないことをしたと自省する。


 私が聖先輩と同居していることに怒りを覚え、数日前に私の前に現れては一方的に私のことを聖先輩を取られたと勘違いしている。


「ご、ごめんね二人とも。あの人、私の知り合いだからちょっと離れるね」

「えっ!?あの怖い人、さやッチの知り合いなの?」

「えっ!?ま、まぁちょっとね……」


 二人が松村先輩の放つオーラに気圧けおされ、身動き一つ取れなくなった責任を背負った私は、彼女の元へ向かう。


「はぁ~……。先輩、何かご用ですか?」


 深いため息をついてから、二人が更に怯えないよう教室のドアを閉めて、怒り心頭気味の松村先輩と会話を始める。


「はぁ?ご用も何も、アンタを監視しているだけじゃない」

「なんのためにですか?」

「それは……、アンタが愛しきひじ――女神さまとつるんでいないか心配になっただけよ」

「そんな……。確かに私は先輩と同居はしています。ですが、学校内ではこのことは秘密なので敢えて関わっていません。この説明で満足しましたか?」


 松村先輩は未だ聖先輩と校内でイチャコラしていると思われているみたいで、私は反論をぶつける。百合ヶ崎高内では聖先輩のことを女神さまと呼称するんだ。そこに関してはわきまえているわけね。


「ふぅ〜ん。ホントかなぁ?」


 そう言い残して松村先輩は、きびすを返してそのまままっすぐ歩いた。


 そっか。午後の授業の開始まであと五分か。


 次の授業は移動教室だし、そろそろ準備しなきゃと教室に戻る。


「さやッチー!無事だった?」

「えぇ。ただ普通に話し合っていただけだから……」


 智景は泣きながら私にだきつき、アンちゃんに至っては……何だか呪詛のようなことばをボソボソ呟いては合掌している。


「カツアゲされなかった?恫喝どうかつは?怪我は?」

「大丈夫よ!大丈夫っ!何もされていないから!そこまでエラい目には遭っていないから!」


 不良漫画の読み過ぎなのかなぁ?智景はかなり過激な表現で心配をする。


「あ、あのさやッチ。あの陰キャ増し増しなオーラを放つのは誰なのぉ〜!?」


 うん。アンちゃんも心配してくれてありがとう。だけど、あなたの口から陰キャというワードが出てくるのは想定外だわ……。


「あぁ。あの人はバイト先でお客さんとして入ったこの学校の先輩よ。ちょっとお金に困っていたからバイトしたいっていう相談だったの」


 ま、これは私がついさっき思いついたばかりの嘘なんだけどね。


 あの先輩だって聖先輩と同じバレー部だからバイトは難しいけれど、二人はそんな関係性とか知らないからこんな嘘をついても納得するだろう。


「それだったら何であの先輩はさやッチのことを睨んでいたの?」

「えっ!?」


 いつもなら軽く受け流す智景が珍しく矛盾を指摘し、私は動揺してしまう。


「あ、そ、それは――。私が先輩に気づくのを遅かったからじゃないのかなぁ?」


 まさかの不意打ちに、私は取ってつけたような言い訳をする。


「い、いや!そんなはずはない!」


 私の言い訳に、アンちゃんが急にビシッと否定する。


「あんな感じのオーラは、どこか迎合していない感じがする!まるでさやッチのことを敵視しているみたい……!」


 鋭いアンちゃんの指摘に、私は血のが引くくらい動揺する。


 そんな私を助けるように、予鈴のチャイムが教室に響く。


「あ!ほ、ほら!もう午後の授業が始まるから、アンちゃんは別のクラスでしょ!?わ、私たちはこれから移動教室だから今すぐ行かなきゃ!」

「あ!そうだ!確か化学だっけ?あの先生は時間に厳しいから急がなきゃ!」

「あ!じゃ、じゃあ私はこの辺で……」


 私と智景は化学の教科書とノートを引き出しから取り出し、そのまま移動する。


 そしてアンちゃんは自分の教室へ戻るため、幽霊のように消えていった。


 こんなにも慌ただしい昼休みは初めてだった。


 そしてこのままあの先輩が私の前に現れないことを願うばかり。


 ま、そんな願いは即座に崩壊するのは目にみえているけどね。

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