第35話 俺がこの汚い街で出会う人間は、みんな孤独だった。

 

  カッター君とスリ男A君が、礼儀を知る男君を2人で運ぶ。


 「礼儀を知る男君」

 「起きて自分で歩いてくれないか」

 「俺達はあのおっさんを警戒しなきゃいけないんだ」


 「いいよそんなの」

 「しても無駄」


 いくら警戒しても、おっさんがその気なら。

 礼儀を知る男君が正気に戻って4人がかりだろうと瞬ひねりだ。


 今はおっさんを警戒するより、疑うより。

 飯食わせてもらって、強くならなきゃいけない。

 技か。

 相棒に頼りっきりじゃ、あの魔法銃カウンターを使う少年には勝てるわけがない。


 あいつも魔法銃使うくせに、魔法銃カウンターってなんなんだよ。


 おっさんが汚いアパートに入っていく。


 「おい、こんな汚いアパートになんの用だ」


 スリ男A君は相変わらず警戒してる。


 「何って、おもてなししてあげて、技まで教えてあげるんだよ」


 「随分、汚いアパートに住んでるんだな」

 「そんなに強いのに」


 「うまくやれないんだよ」


 「そうか」


 「そういうお前さんはどうなんだ」


 「俺?俺なんてアパートも住む家もないよ」


 「それでよく汚いアパートなんて言えたもんだね」


 言われてみるとその通りだ。

 俺は、汚いアパート一室借りる事もできていない。


 おっさんの後についていき、アパートの一室に入る。


  う、おっさんの加齢臭が部屋に充満している。


 部屋も、小汚い。


 なんだか見ていて悲しくなる光景だ。


 「今飯の準備してやるから」

 「適当にくつろいでなさい」

 「家捜ししてくれてもかまわんぞ」

 「盗られるようなものもないからな」


 「やったね」

 

 スリ男A君が喜んで家捜しを始める。


 いったい、この小汚い部屋から何をスリるつもりなのか。

 盗む価値のあるような物がこの小汚い悲しい部屋にあるとは思えない。


 何を盗んでもいいよと言われても、この部屋を物色したくない。

 とにかく、悲しくなる部屋なんだ。

 この部屋からは、おっさんの孤独が。

 座っているだけでいやようにも伝わってくる。


 誰かとのなにかとか。


 そんなものは、何も感じられない。


 飯の準備をしてるおっさんは、どこか嬉しそうだ。


 孤独、か。


 孤独なのは、おっさんだけじゃない。


 スリ男A君も、カッター君も。

 礼儀を知る男君も。

 花壇の花を食ってる青年も。

 人間程度の重さのものをふっとばしている男も。

 ふりふりふりこ男君も。

 突然殴りかかってくる男達も。


 俺がこの汚い街で出会う人間は、みんな孤独だった。


 この汚い街で、スリ男A君もカッター君も礼儀を知る男君も。


 皆面識はなかったようだ。


 俺が来るまで、誰かと誰かがつながることはできなかったんだろう。


 けど、今はもう俺がいる。


 お前達は1人じゃない。


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