第2話(佐藤ライカside①)
There is a sin of omission, not only one of commission.
することによる罪だけでなく、しないことによる罪もある。
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私、佐藤ライカは目の前の男、
私自身、理不尽だとは思う。彼に非は全くないといってもいい。
だから、この感情は単なる私の八つ当たりだ。
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ことの切っ掛けは、昨日の夜まで
私は小結祭の準備を終えて、一人で家に帰っていた。
同級生の皆は、実行委員から割り振られた仕事で忙しそうで、とても一緒には帰れなさそうだったからだ。
でも、私が配属されている備品の部署の先輩は
「一年生は何もしなくていいよー。もう、ほとんど仕事ないしー」
と言ってくれた。
たぶん、先輩たちが気を利かせて私たちの代わりに頑張ってくれているんだろう。
そのおかげで、いや、そのせいで私は一人で家に帰ることになった。
私がお母さんから買ってきてと頼まれた牛乳をコンビニで買って、コンビニを出たとき。
手をつかまれた。
「よう、こんな夕暮れに一人っきりってのは感心しねえなあ。誘ってんのか、人魚姫さんよお?」
「いや、どう見ても誘ってるっしょ!これはwww」
長身で痩せている二人組。同級生の間でも話題のガラの悪い先輩たちだ。
噂では町の不良グループとも伝手があるらしい。確か名前は…。
「堂上先輩、田野先輩、手を離してもらえませんか?」
相手を刺激しないように慎重に問いかける。
「あの人魚姫さんに名前を覚えてもらえているなんてなあ。俺らにも案外、脈があるんじゃねえか?」
「二歳下の後輩っしょ?そんなわけねえじゃんwww」
…全然、話を聞いてくれない。ていうか、人魚姫っていうあだ名、嫌いだからやめて欲しいんだけど…。
「帰らせてください。いい加減にしないと警察に通報しますよ」
そう言って、無理やり手を振りほどこうとするけれど、全然動かない。
それどころか、ニヤニヤと笑いながら手を握る力を強めてくる。
こわい。ここに至ってようやくその感情が、私の胸の中に実感をもって湧き上がってきた。
「つれないこと言うなよ…。お前のこと三年の間でも人気なんだぜ?」
「そうそう、1-Aの演劇の主役にして笑顔がまぶしい人魚姫ってな。ほら、俺らにも笑いかけてくれよ!!」
ダメだ。この人たちは何も話を聞いてくれない。早く警察に通報しなきゃ。
――えっ?
「ようやく気づいたのか。お前のケータイは俺らがもうパクってんの」
「へへへ、盗みの腕前だけはアニキにも褒められたしな」
「――っ」
ただただ、こわい。
助けて、と本来叫ぶべき声は震えて形になってくれない。
いつも、皆と一緒に帰っていたときには、こんなことはなかったのに。
そのとき、私と同じ紺色の制服を着た青年がコンビニから出てくるのが見えた。
目が合った。身勝手ながら、これで助かったと思った。
「……」
でも、彼は私から目をそらして走り去って行った。
絶望した。なぜ助けてくれないのか、理解ができなかった。
ただ、彼が何かを耐えるような、こらえるような、そして何より――泣き出しそうな顔をしていたのは、なぜかよく覚えている。
その後のことはあまりよく覚えていない。
たぶんだけれど、コンビニの店長が彼らを追い払ってくれたってことは、かろうじて記憶の中に残っている。
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そんなことがあったから、家に帰ったらお母さんに心配された。
「ライカ、大丈夫?なんかボーっとしてるわよ。今日は帰ってくるのも遅かったし、なにかあったの?」
「ううん。ちょっと考え事をしていただけ、気にしないで」
「そう、ならいいけど。あなた、帰ってきたとき顔色がすごい悪かったから何かあったのかなって思っちゃって」
お母さんに嘘をついたのは心苦しいけれど、考え事をしていたというのは本当だ。彼のことを考えていた。私を見捨てた、そしてとてもつらそうな表情を浮かべながら私の前を走り去って行った、青年。
その彼のことを家に帰ってからずっと考えている。
自慢じゃないけれど、私は小結学園の皆の顔と名前を一致させている――つもりだった。そう、彼の名前が私には分からなかったのだ。
どこかで見たことがある気がするから、たぶん同級生のはずなのだけれど…。
二、三分考えても分からないので、入学式の時に配られた同級生のアルバムを部屋の棚から引っ張り出して彼の名前を確認してみた。
1-B
それが、私が彼について分かった情報の全てだった。名前と所属クラス、それだけしか彼について分かることはなかった。
当然、あんな顔をしていた理由などわかるはずもなかった。
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そして今朝になった。
昨日あんなことがあったから学校に行くのはためらった。
でも、行くことに決めた。お母さんに昨日のことを何でもないって言ったから、というのもある。
けれども一番の理由は、また別にあった。
小結祭本番まであと一週間を切っているのに、主演の私が練習に参加しない。
そんなことをほかの誰よりも私自身が許せなかったからだ。
私の友人は全員、人魚姫の演劇を期待してくれている。
ならば私はその期待に応えないといけない。
これが一番の理由だ。
それに彼、下沢善に昨日のことについて聞かなくてはいけなかった。
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――そして、場面は冒頭に戻る。
「あんたに善意ってのは無いの!?」
「ああ、僕は善意では行動しないって決めているんだ」
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会話文って難しいですね!
すぐに投稿スケジュールを変えて申し訳ないのですが、拙作をフォローしてくれる
人がいて嬉しすぎたので、続く限り連日投稿します。
なので、一週間に二回投稿は最低目標にします。
これからもよろしくお願いします。
出来たら★での評価お願いします。
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