優秀オメガと一途なアルファ

@matcha1010

本編

「瑠璃さぁん、そろそろお仕事休みましょうよ…!そのお腹じゃ大変なんじゃないですか?お医者さんにも…」

「黙れ。俺はまだ働ける」

「瑠璃さん…(泣)」


この世界には第一次性の男女の他、第二次性のα、β、Ωがある。

βは第一次性の特徴以外持たないが、αは男女関係なく男性器を持ち、Ωは男女関係なく子宮を持つ。そのためαとΩであれば、α女性やα男性ががΩ男性を孕ませることが出来る。

朝倉瑠璃と遠野奏多はΩとαであり、学生時代から続く奏多の猛アプローチによって三年前に結婚した。そして現在、来月に出産を控えているのにも関わらず仕事を続ける瑠璃をどうにかして引き留めようと奏多は必死になっている。


「瑠璃さん、本当に無理しないでください!」

「無理なんかしてない。大体、言っただろ。今は仕事に集中したいって。なのに育児は全部やりますからとか俺との子供が欲しいとかって無理矢理孕ませやがって…」

そう、こいつはこっそり生で突っ込んで、ある時から続く日中の眠気に悩んでた俺に妊娠検査薬を渡してきた最低な男だ。

「それ、言わないでください…何も返せません」

「ならはやくそこをどけ。仕事に行ってくる」

「せめて送っていきますから、ほんとに、ゆっくり、ゆっくり歩いてくださいね?」



「朝倉部長お腹苦しくないですかー?」

「妊娠しても仕事効率変わりませんねぇ」

「当たり前だ。産前休暇は否定していないしなんなら他の人はどんどん取れと思っているが、俺は働きたいんだ。」

「朝倉さんの旦那さんめちゃくちゃ過保護な人でしたよね?そこのところ大丈夫なんですか?」

「毎朝毎朝引き止められて困ってる」

「「そりゃそうですよ」」

実は、ギリギリまで仕事をするのは無理矢理孕ませてきたあいつへの当てつけでもある。九割は俺がそうしたかっただけなんだけど。

「部長か真面目なのはみんな知ってるから、休んだって信頼が落ちるとかないですよ」

「そうですよ、赤ちゃんのためにもそろそろ旦那さんの言う通りにした方がいいんじゃないですか?」

「…それもそうかもしれない」

潮時か…


「瑠璃さん、今日一日体調は大丈夫でしたか?あ、夜ご飯はオムライスですよ。瑠璃さんへの愛情たっぷりなんで!」

「奏多、来週から休暇とることにした」

「…え?」

「しっかりサポートしろよ」

「瑠璃ざぁぁん、やっとですかぁぁ!?もちろん何から何まで全部俺後やりますから、お願いなんでほんとだらだらしててください…」

「出産までな。」



「はぁー、いつ出てくるのかなぁ」

「お前に似てのんびり屋さんなんだな。まあゆっくり待てばいい」

出産予定日を過ぎてもなかなか出てくる気配のないお腹の中の子。

「出産予定日から少しズレたって、全然正常の範囲内だって、医者も言ってたしネットにも書いてあった。だから…」

「大丈夫、ですよね。瑠璃さん、俺も一緒ですから!」



パチ。

なんか、腹が痛ぇ…

スマホを見ればまだ朝5時。隣で奏多も寝てる。

どうしようか…とりあえず落ち着くためにも水を飲みに…

バシャ

「あ…」

ヤバい、これ、破水した。

「…あれ、瑠璃さん?起きるのはやくないですか…え?ちょ、瑠璃さん、それ」

「破水した」

「な、なんでもっとはやく言わないの!?ちょ、そこから動かないで!!!」

今破水したんだよ!と言いたいところだが、奏多のあまりの焦り具合に思わず閉口する。

「えと…はい、今破水して…はい。はい…分かりました。瑠璃さん、今から病院いきましょう。立てますか?」

「うん。」

奏多が電話してる間に、痛みはおさまった。


「陣痛の間隔がもう少し短くなるまで、ここで待機ですね〜」

「分かりました」

…やばいどうしよう。怖くなってきた。

痛いのは大嫌いだ。でもこの子を産むためなら頑張るしかない。妊娠が分かって産むと決めた時に覚悟もしてる。…だけど、この子が産まれてきたとして、本当に俺でいいのかな…?

「…さん、瑠璃さん。こっち見て」

悪い考えに耽っていたら、目の前に奏多がいた。

「瑠璃さん。俺が世界一大好きで大好きで愛してたまらないのは、貴方だから。」

あぁ、そうだ。

こいつがいるんだった。




オンギャァ、オンギャァ

「瑠璃さん、赤ちゃん産まれましたよ!抱っこします?」

「あぁ、お願いします」

腕に抱かされた小さい命。

良かったな。

「旦那さん外で待ってるみたいです」

お前のパパ、すっごい良い奴だよ。






「瑠璃さん、良かった、無事で」

「無事に見えるか?」

「え、いや…でも意識がなくなったって言われてたからほんとにどうなるかと思って…」

「冗談だよ」


俺がベッドに横たわっているその横で、奏多が昨日生まれたばかりの赤ん坊を抱いている。

その手つきはぎこちなく、だけどものすごく気を使っているのが分かる。

「名前、結局どうしましょう」

「陽向、はどうだ?」

「ひなた…?」

「暖かい感じがして良いだろ。生まれた時に浮かんできたんだ」

「いい名前ですね。陽向か…」

妊娠が分かったときから二人でずっと考えてたけど、全然決まらなかった子供の名前。なのにたった今簡単に決まってしまった。

陽向、と名前を呼びながら腕の中を見つめる奏多は、子供が愛おしくて堪らないといった父親の顔をしていた。


[完]

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