第14話

 ドン・ジョゼ・ジアフォーネ。今の所俺はそう名乗っているが、ほとんどの人間は俺を呼ぶときにボスと呼ぶ。シンジゲート『グリナスヘッズ』を率いるがためだ。何でも屋に近いが、黒い仕事をすることも多いので、地下組織になっている。

 そんな俺の元に一人やって来たのはちっぽけな少女だった。どうやって居場所を突き止めたのかは知らないが、おそらくは組織を抜けた人間にコンタクトでも取ったのだろう。最近なら紅文稔辺りだろうか。日本に行って、帰って来た時には憑き物が落ちたような顔で穏便に退職したいと言ってきた。代わりに渡したのは中国での教員免許だ。何をするつもりなのかは分からないが、新しい人生を見付けたのだろう。


 それは良い。ちゃんと奴は相場以上の金を置いて行った。銀行口座も凍結したし、何も持たずに元殺し屋が教師になったのだ。おそらく腕も鈍っているだろう。あいつはもう使えない。ならばいらない。それが組織の方針だ。怪我もしていたようだったし、優秀な殺し屋を失うのは痛かったが、殺人班にもまだ勢力は残っていたので良しとした。


 一番優秀なのはやはり『ツバサ』だろう。ただあいつは壊しすぎるし殺しすぎるので、最後の手段と言っても良い。ワンマンアーミーだと言った奴もいたが、確かに戦力としてはそれが近いのかもしれない。ただ、手加減はないが。それでも最近はビルを一つ二つ崩す程度の能力に落ち着いている。

 拾った十六歳の時はガスタンクを爆発させるほどだったから、落ち着いて来たのだろうか。そのままターゲットだけを『事故』に巻き込む程度になれば丁度良いのだが。


 話を戻して少女のことにしよう。黒いワンピースに茶色っぽい髪と目。誰かに似ていると思えば、拾った頃の『ツバサ』だった。霧玄。確か奴には妹がいたはずだ。同じように人を殺す能力を持った妹が。一度誘拐しようと思ったが、誘拐チームは総崩れで死んだ。

 霧玄には単独行動だと言っておいたが、連中何か言ったのだろうか。ごくりと喉を鳴らすと、少女はローファーを鳴らしてつかつかと歩み寄って来た。そしてにっこり笑い、スカートを持ち上げて礼をする。


「初めまして、ボス。黒鳥霧玄の妹、玄霞と申します。どうぞお見知りおきを」

「名前と顔は知っていたが、声は確かに知らなかったな。ジョゼ・ジアフォーネだ。……ここへはどうやって来た?」


 日本に用事があるので訪日してはいたが、現地で買った別荘には常時ガードマンが配置されている。俺の部屋に入るまでには何人もだ。英字新聞を潰してサイドテーブルに置き、いつでも銃を取り出せるようにしておくと、あら、と彼女は笑う。


「『ツバサ』の妹だと言ったら、皆さん逃げるように道を空けて下さいましたわ。兄さんの名前って案外使えるんですね、この組織。広域指定シンジゲート『グリナスヘッズ』」

「――何の用だ」

「私を雇っていただきたいんです」

「雇う?」


 思わず素っ頓狂な声を出すと、はい、と玄霞は笑う。


「日本にいる間だけでも家政婦として置いて頂けませんでしょうか。お給料はいりません。兄さんがどんな組織で働いているのか、見てみたいだけですから」

「……本当にそれだけか?」

「はい」

「旦那様、止めた方がよろしいかと――この娘も能力の制御は不十分でしょう」

「だが最近日本で目立った殺人事件は首相暗殺ぐらいだろう? こんな子供にそんな能力があるとは思えない」


 くふっと、少女が笑った。


「確かに琴弾首相の暗殺には絡んでいませんわ。ええ、彼女には。最近は通信教育で外にも出ませんから能力も落ち着いておりますの。それでも怖いですか? 私が」


 怖い?

 くすくす笑う少女のそれに苛立ちが増して、俺は銃を取りそれを彼女に向ける。

 彼女は微動だにしなかった。

 M500なんか実用で持ってる兄に比べたら、こんなものはこけおどしにもならないのかもしれない。にっこり笑って俺を見るだけの少女に背中から汗が吹き出し、手が震えた。こんなに筋肉が硬直していては、反動で自分と椅子が吹っ飛ぶだけだろう。

 銃を下すと、身体中が嫌な汗にまみれていた。


「能力の制御は出来ます。どうか私を雇い入れて頂けませんか? ドン・ジョゼ」


 それは断ったらシンジゲートのボスとしての資質を問われるような、そんな響きを含んだ誘惑だった。


「良い、だろう。ただし一週間だけだ。霧玄も一週間程度では暴発しなかったからな」

「それは重畳。では私はキッチンで軽食でも作ってきますわ。アレルギーや好き嫌いは?」

「サンドイッチならからしマヨネーズのからしが苦手だ。マヨネーズだけで頼む」

「了解いたしました、ご主人様」


 そうして少女は真っ向から、俺の懐に入り込んできた。



 遺伝子研究班が着くまでが一週間、と言うことで、俺は玄霞と過ごすことになった。秘書のアウレリオだけを傍に置き、他の警備班には休暇を与えた。もしも銃を持った連中が玄霞の能力に惑わされれば、危険だと判断したからだ。兄には内緒で。怒られてしまいますから。くすっと笑って口元に指を立てた少女は、可憐だったと言って良い。

 あんな可愛らしい顔をして、余罪百二十五件だとは思えない。彼女の関わったとされる事件の総数がそれだ。と言うことは表沙汰になっていないものはもっと多いだろう。ぞっとしたが、食事は美味かった。ステーキ、シチュー、パスタ、どれも食べなれた料理だったがひと匙加えているのかどれも美味い。ピザも作れると言うのでオーブンを貸したが、これも絶品だった。


 霧玄は案外と良い暮らしをしているのかもしれない。もっとも年の半分は俺が指示した都市で居座り、事故を起こすのだが。その為に一人でいることが多くメニューとバリエーションを増やしていったのかと思えば、自分も中々いい仕事をしたな、と思える程度だ。

 掃除に洗濯も手際が良い。晴れた日は外に洗濯物を干すのだが、日向の匂いのするそれらは心地よかった。乾燥機だけでは得られない感触だろう。掃除も隅まで行き届き、俺が『商談』のために出かけている間にすべてを終わらせてくれる。最初の二日は部屋に鍵をかけていたが、三日目からは自分の部屋だけ埃っぽい気がして開けていくようになった。


 どうせ見られて困る書類は持ち出すか金庫に入れてある。鍵はいつも懐だ。問題ない。PCも必要なくなった現在、覗かれる心配はなかった。タブレットにはパスコードも仕込んでいるし、間違えたら即ロックだ。寝ている間に見られると言うことも無いだろう。


 そう、何も困っていない。困っていないことが逆に恐ろしく、早く遺伝子研究班について欲しいと言う願いでいっぱいだった。DNA検査をすればもしかしたらこの少女の特性に気付けるかもしれない。霧玄の時は奇形の遺伝子が奇跡のバランスを保っている、と言うだけで、その能力がどこから来ているのかは分からなかった。だがそれより進化した世代の彼女なら、もう少し分かりやすくなっているかもしれない。


「アウレリオ。コーヒーを入れてくれないか」

「玄霞嬢には頼まないのですか?」

「お前の入れるのは絶品だからな。それに玄霞もさすがに、豆の焙煎方法は知らないだろう」


 そんな理屈を付けながら、俺は秘書の入れるコーヒーを待つ。するとドアが開いた。玄霞である。トレイの上に皿を載せて、テーブルにそれを置く。香ばしいアーモンドの匂いがする、細長いクッキーのようだった。


「カントゥッチーニ、と言うイタリアのクッキーです。コーヒーに漬けて柔らかくしてから食べると美味しいですよ」

「そ――そうか。気が利くな、お前は。お前の兄が俺に拾われた時は、ただ自分を使って金を稼げ、としか言わなかったものだが」

「兄さんらしいですね」


 くすっと少女は笑う。心底からおかし気に。こんな少女の何がそんなに怖いのか、自分でもよく分からなかった。黒いワンピースに白いエプロンはまるでメイド姿だ。事実彼女は住み込みのメイドのような生活をしているから構わないだろう。

 なんだか力が抜けてほっとする。昔話ぐらいしてやるかと、霧玄のことを思い出してみた。


「初仕事でガスタンクを爆発させた時は驚かされたな。こんな確率を操るなんて恐ろしいとすら思ったが、別に操っているわけではない。……のだったか?」

「はい。兄さんはただ最悪に持って行くだけです」

「おかげでその辺り一帯は真っ黒こげ、買収するのも簡単に済んだ。そこを中心にビル街を建てて、俺は地主として成功することが出来た」

「すごいですね」

「すごいのはこの場合お前の兄だがな。それから敵対勢力の人間が乗った飛行機落とし。一人でパラシュートを付けて降りて来た時は、迎えに行っていた俺たちも唖然とした」

「ああ、私の同級生の兄が乗っていたんですよ、それ。それが理由でずいぶんいじめられたなあ」

「そうか、虐待があるんだったな、この国は。生徒同士で」

「ええ、いじめって片付けないところが嬉しいですね、ボス。私もそんな軽い言葉で片付く目に遭ってはいませんでしたから」

「最近なら東京都知事から受けた、目突き魔の事件が派手なところか。となりのビルを倒してアパートごとぐしゃり。現場検証で多数の目玉が発見され、被疑者死亡で送検された」

「私も狙われました」

「そうなのか。危なかったな。あとは邪魔な企業の本社ビルを文字通り潰したり――色々と世話になっている。お前の兄には」


 本当、最初の事件――『事故』さえ起らなければ、俺はちんけな地上げ屋で終わっていたのかもしれない。何もなくなった土地を買収していくのは容易かった。しかも相場以下で。その上にビルをどんどん建てて行った。南米のニューヨークとまで呼ばせる都市に、育てていった。

 そこに霧玄の存在は大きい。出来れば敵対したくはない、だからこそこの妹の申し出も受け入れた。もっとも妹を巻き込むなと怒られてしまう可能性もあったが、今は俺の方が立場も上だ、そんな事は言わせない。その自信が、自分にはある。


 どんなに組織に貢献してくれていても、あいつは一構成員でしかないのだ。いざとなったら銀行の口座を凍結するし、そうすればあいつはにっちもさっちもいかなくなって、結局俺にこうべを垂れることになる。扶養家族が一人増えたと聞いているし、おそらくあいつは『グリナスヘッズ』から逃げ出すことは考えないだろう。それは恐ろしくも安心できることだった。あの能力が自分たちに向かないというのは、助かることだった。


 突然の地震でビルが倒壊したら、事故で飛行機が墜落したら。それが恐ろしくて俺たちは船を使っているが、これは足が遅いというのが難点だ。遺伝子研究班がこちらに着くのに一週間掛かると言っていたのもその所為である。空から落ちるより海で沈む方が難しい時代なのだ、今は。もっとも津波が多発していた時期は逆だったが。あの津波の恐ろしさは水が届かなかったブラジルでも忘れられないほどだった。三十年経った今もそうだ。恐ろしい。海とはここまで、凶暴なものだったのか。


 それに遺伝子研究班が持ってくる機材の中には、税関を抜けられないものもある。注射針一つでさえそうだろう。だから日本に用意してある埠頭で、検査を受けて貰う事にする。もう少し弱い能力者を人工的に作ることが出来れば幸いだ。いっそ兄妹二人の遺伝子を組み合わせたら最強の能力が生まれそうだが、持て余すほどの力はいらない。現在でさえそうなのだ。霧玄の力は、強すぎる。

 最近は落ち着いてきたが、それでも。いっそこのまま能力が衰退していってくれた方が助かるぐらいだ。だがそれは多分あり得ないだろう。生まれた時からある能力だと言っていた。いつか、酒の席でぽつりとだが。


 本当なのかどうかは、まあ、遺伝子検査の結果通りなのだろう。奇形。それゆえに持っている能力。だがどの部分がどう発達すればそんな能力が発揮できるのかは分からない。分からないことだらけなのだ、エスパーと言う連中は。

 この娘もそうだ。一体何が起こって、他人を害する能力を発散しているのだろう。台所から聞こえるがらがらと言う豆の焙煎音が、妙に遠くに聞こえた。



「アウレリオ、玄霞にコーヒー豆の焙煎の仕方を教えてくれないか」


 五日目の朝、秘書にそう伝えると、彼は少し表情を変えた。地上げ屋時代からの右腕で、今は俺のスケジュール管理とコーヒーを入れることをしてもらっている。こいつなら信じられるからと傍に置いているのだが、何か問題があっただろうか。首を傾げると、アウレリオは無表情になったようだった。だがすぐに笑いなおし、仰せのままに、とぺこり頭を下げる。


 玄霞のコーヒーも飲んでみたい、それだけの事だったのだが、俺は何か間違えただろうか。むうっと部屋のテーブルに乗せられたフレンチトースト、軽く潰されたバナナが乗っているそれを食べながら、俺は考える。一晩卵液に漬け、弱火でじっくりとバターたっぷりに焼いたそれは美味かった。乳製品も高いのだが、俺の持っている財産に比べたら毎日使っても問題ない程度だ。それに、玄霞の料理を食うのもあと二日となっている。


 遺伝子研究班が埠頭から連絡をしてきたら、速やかに彼女を渡す気でいる。霧玄にはもちろん秘密でだ。一度誘拐班を使って失敗したことだが、彼女が進んでそこに向かえば問題はないだろう。不利や不条理に彼女の能力は敏感だと聞いている。何も知らせずに行けば。問題あるまい。ドライブだとでも言い聞かせて海に向かえば、疑いもしないだろう。所詮は小娘だ。


「玄霞。こちらに来なさい。豆の焙煎の仕方を教えるから」

「はい、アウレリオさん」


 食事の終わった皿を片付けがてら台所に消えていく二人に、俺はにんまりと笑う。騙されているとも知らないで、俺の、ボスの元に来たのが浅はかだったのだ。人でなしと言われたことがある程度には俺も残虐なところがある。だがだからどうしたと言うのだ?

 金の卵を手放すバカはいないだろう。霧玄や玄霞は俺にとってそれであり、使い勝手のいい手駒でもある。小規模の時は玄霞に、大規模な時は霧玄に。そうして割り当てていれば、まだまだこの商売は続けられるだろう。殺人班に一人増えるだけだ。それだけの事でしかない。


 しかしどのような能力なのかはいまいちよく分かっていないのが問題だった。ただ、彼女の周りでは発狂や自殺、他殺が頻発する。そのどれにも関わっていながら犯人ではないと言うのだから、彼女の能力なのは間違いではないだろう。しかしどういう能力なのかは、分からない。『細菌』と言うコードネームと、その声・体臭・体液などが届く場所にいては危険だという事しか分かっていない。

 もっとも俺は平気だろう。今この家にいるのは三人だけだ。アウレリオに俺を殺す動機などある訳もない。二十年の付き合いがある右腕なのだ。加えることなんて、ありはしない。そんなはずは、絶対にない。


 やがて二杯のコーヒーが出されてくる。


「アウレリオさんに倣った私のがこっちで、アウレリオさんが淹れたのはこっちです。どうか試し飲みしてみてくださいませ」


 ふむ、とまずはアウレリオの方を口に付ける。いつもながら俺の好みがわかっている、少し酸い味のそれだった。うむ、と頷く。

 それから玄霞に淹れさせた方も飲んでみる。と、ぱっと目を見張るものがあった。苦みもあるが十分に酸い。どうやったんだこれは。火を強めにしたのか? だが美味い。この娘は料理に才があるらしい。顔を上げて玄霞の方を見れば、少し緊張しているようだった。だが笑って見せると、ぱっと花が咲くように笑う。


「アウレリオもいつも通りで美味いが、玄霞のものも悪くないな。苦みが良いと思ったのは初めてだ。良ければまた次も淹れてくれ」

「はい、ご主人様」

「旦那様――」


 どこか絶望したように呼ばれ、俺はアウレリオの顔を見る。

 その手には密輸してきた銃が握られていた。

 何、と思うより前に、ぱぁん、と音が鳴る。


 胸に広がる痛みと血の染み。

 アウレリオ?

 一体どうして?


「こんな小娘にコーヒーまで淹れさせるなどと。しかもそれが私より美味いなどと。あなたと二十年付き合っていた私より、この小娘の方が良いなどと。許せるものか。許してたまるものか。ジョゼ。私はあなたの好みに一番詳しい自負があった。それが崩されたとなれば、もうあなたと居る事は出来ない。そして一人で生きて行くことも出来ない。ならば」


 アウレリオは自分の頭に拳銃を当てる。


「おさらばです。ドン・ジョゼ・ジアフォーネ」


 ぱぁん、と音がする。


「――私の能力は」


 霞がかった頭の中に声が響いて来る。


「人の中の殺意を増殖させること。どんな些細な不快感も殺意に育て上げること。そしてそれを増悪させて、事件を起こすこと。相手が二人もいれば十分な、こと」


 胸ポケットに入れていた金庫の鍵を取り、少女は部屋のそれを開ける。中には偽造パスポートや銀行の鍵が入っていた。ああ、と頷いた少女は、霧玄のそれを取り出してまた鍵を掛け、それを俺の胸ポケットに戻す。

 そして笑った。

 にっこりと。


「さようなら、ドン・ジョゼ・ジアフォーネ。あなたとの暮らしは結構楽しかったけれど、やっぱり私は兄さんの食事を食べる方でいたいの。それじゃあね」


 少女は――

 黒鳥玄霞は。

 『ツバサ』の妹は。

 『細菌』のコードネームを持った娘は。

 さっさと、別荘を出て行った。



「兄さん兄さん、誕生日でしょう? 良いものあげるっ」

「なんだはしゃいで、珍しい。と、これは――スイス銀行の鍵と、パスポートか? しかも偽造品だな、俺と、お前と、靂巳と」

「うん。この国、出ようよ」

「ぶっ」

「靂巳汚い。コーヒー牛乳は染みになるから早く着替えて」

「いや、俺も同じ気分なんだが。どうしたんだ、一体」

「赤青斗兄さんが『必要悪法』を撤回させるまでは、『必要悪』である私たちはこの国にいない方が良いと思って。中国行こうよ、紅さん頼ればなんとかなるよ」

「あの人殆どすっからかんで組織脱退したんだぞ」

「だからその分は兄さんのお金使えばいいじゃない。確認したら軽く四人で五十年は暮らせる額だったよ、だから行こうよ兄さん。この国は嫌いじゃないけど、まだ息苦しい」

「僕も! 僕も付いてくからね、玄霞ちゃん!」

「うるさいわね不本意ながら分かってるわよ。ネットで旅券取って、兄さん」

「俺の話を聞くつもりは全くないな!? まあ構わない、この国にいるのも潮時だろう。赤青斗がワクチンを完成させて、『必要悪法』を撤廃させるまで。それまで紅の世話になる。あくまで、それまでだ。十年も二十年もかかるかもしれないが」

「良いよ、それでも。私は兄さんと一緒なら、どこにだって行ける」

「僕も玄霞ちゃんと一緒なら、どこにだって行けるよ!」

「うるさい黙れやかましい……紅さん今どこ住んでるんだっけ」

「北京の東らしい。まあいきなり行って驚かせるのも悪いから、メール出しておこう」

「家具は全部売り払おうか。向こうで買った方が安くつくだろうし」

「そうだな……なあ靂巳、俺たち玄霞の手の上で転がされてないか?」

「思ったけど言ったらブッブーだと思うよ。多分」

「あん?」

「なんでもない……」

「なんでもないです玄霞ちゃん」

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