第二話 王都にて

 昼が過ぎ、夜が過ぎ、太陽が姿を現した。


 タールは朝日で目を覚ました。馬車の荷台は決して寝心地が良いとは言えなかったが、昨晩はぐっすり眠ることができた。


 ふと前方を見ると御者の背を通して白っぽい町が見えた。王都だ。タールは鼓動が速くなるのを感じた。これが「心が躍る」というやつだろうか。だとすれば人生で一番心が躍っている。


 タールを乗せた馬車は昼前に王都に到着した。タールは馬車から降りるとまず、その人の多さに衝撃を受けた。彼が生まれた村や育った村のすべての人口が今目の前の通りを歩いている。いやそれ以上だろう。

 人が集まることで生まれる熱があった。タールの育ったサーベの村ではお祭りの時にしか感じられないものだ。

 タールはしばらく呆然とした後、はっとして宿を探した。幸い宿はすぐに見つかった。銀の子豚亭という宿屋だ。

 古臭い木の扉を開けると埃っぽい匂いがあふれ出した。

 宿屋の主人はタールを一瞥して尋ねた。

 「お前さん田舎もんだな。どこから来た。」

 「サーベの村から騎士になるため来ました。」“田舎者”という言葉に、少し顔がこわばる。

 「ほう、騎士にねえ」

 「お聞きしたいのですが、騎士になるためにはどこへ行けば良いのでしょう。」

 「城の守衛にでも聞きな。俺は知らねえ」

 

 タールは主人にうわべだけ礼を言い、荷物を置いて城へと向かった。

 城まで白い石の道を歩く。近づくにつれ城の大きさが分かる。それは言うまでもなくタールの知る中で最も大きく、最も荘厳な建造物であった。

 真っ白な鱗で覆われた石の怪物のように見える。

 門も想像していたより倍大きかった。自分が思っていた以上に世間知らずだと分かり、顔が熱くなる。


 「あの、騎士になりたいのですが、どうすればいいでしょうか。」タールは緊張しながら門番に訊いた。

 「ああ、それならこのまままっすぐ進んだとこにいる、赤いマントをつけた人に言うといい。」と言って門番は門を通してくれた。


 幸いなことにすぐにその人は見つかった。

 少し暗めの赤を身に纏ったその後ろ姿からは、只者ではない気配が感じ取れた。

 髪は白く染まっているが、背筋は伸びている。


 タールは意を決してマントの男に話しかけた。

 「あの! 騎士になりたければ、あなたに話せと言われたのですが。」

 男が振り返る。深いしわの刻まれた顔がこちらを向き、タールを凝視する。目には、その相貌からはとても想像できないほど鋭い強さが宿っている。まるで血気盛んな雄の肉食獣のようだ。

 「ふむ。名はなんという。」

 声は、岩のように重く、風のように軽い。

 「タールと申します。」

 「そうか。いい目をしている。」

 タールは急に褒められ、なんと返せばいいか分からなかった。

 「だが、心も体も技も極めて乏しい。今のお前を騎士にすることは不可能だ。」

 「そんな! 僕は母のような人を救うために、どうしても騎士になりたいのです。お願いします!」タールは叫んだ。

 

 「落ち着け。今の状態では、と言っただけだ。最初から騎士になれる者などいない。騎士見習いとして訓練を積んだ者だけが、騎士になれるのだ。」

 「騎士見習い……。」

 「訓練は厳しい。が、お前の先ほどの叫びを聞いた限りでは、お前はすぐにでも騎士になれるだろう。励むことだ。」

 「はい!」


 その後タールは荷物を持ちに宿屋に戻り、もう一度城に来た。今日からは騎士見習いが共同生活をする、訓練舎で生活することになるのだ。


 タールは教えられた部屋の扉を開けた。

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