第23話 魔人の少女

 初めに動いたのはオーガの方だった。地面を抉るほどの脚力、大剣の大きさは二メートルを超えており腕力も相当だ。明らかに普通の人間が勝てるような相手ではない。

 ゲンナイ先生も走り出し、オーガに果敢に立ち向かう。強敵を前に怯えているわけではない。なんなら倒して給料をあげてもらおうといった意図が見える。

 オーガは大剣を周りの木に当たらないよう縦に振るう。

 その攻撃をゲンナイ先生は右側に転がりながら回避し、前方に走る。オーガの足下に滑り込みながら振り返り、右足の踵骨腱をぶった切る。

 オーガは右ひざを地面につけた。背後にいるゲンナイ先生目掛け、大剣を縦に振る。


 ――森の中であんなにデカい武器を使うなんて頭が悪いな。にしても、オーガがあんなおおきな大剣を何で持っているんだろう。そもそも、こんな場所にオーガが出てくる?


 私はオーガがこんな王都の近くに現れた原因が気になった。なんせ、王都の周りにいる魔物は私が片っ端から倒したので比較的安全なはずだった。それにも拘わらず、オークの上位種であるオーガが現れるなど思ってもいなかった。あれだけ大きな大剣を持っているオーガを見逃すはずがない。

 つまり、何者かが連れて来た可能性がある。運が良いか悪いか、何か嫌な気配を感じる。魔物に命令できる存在など、私が知る限り一種族くらいだ。


「魔族がどこかにいるな。はぁ、ヤダヤダ……」


 私は面倒事の種でしかない魔族を相手にしたくなかった。

 どうしようと考えている間にも悲鳴は至る所から聞こえてくる。魔物の数が相当多い。魔物を操っているのが魔族ならば、さっさと魔族を見つけて倒した方が魔物を駆除するより楽だ。そうなると他の生徒を見殺しにしなければならない。ただ、他の生徒を見殺しに出来るほど私は薄情ではない。

 ゲンナイ先生がオーガに構っているため手が離せない今、助けに行けるのは私くらいだった。


「面倒臭い。オーガ並の魔物がいるなら冒険者たちも手こずるだろうし、結局、私が魔物掃除をやるしかないよな」


 私は魔物を倒せてしまう自分の力を呪いそうになりながらフードを被り、顔を隠した。そのまま森の中を駆けまわる。私の姿は出来る限り茂みに隠し、目に入った魔物を剣や魔法で駆除していった。ただの魔法や剣を使って魔物を倒す方法は無駄に疲れるので好きではない。ただ羽根ペンを使ったら私が『黒羽の悪魔』だと気づかれてしまう可能性があった。そのため、面倒臭いが無駄に疲れる方法で戦っている。倒れている学生に回復魔法を軽く掛けて死なない程度に治したあと皆が集まっている場所に魔法で運ぶ。


「数が多いなもう」


 そこら中、魔物だらけで私の体力が無駄に削られていく。仕事したくないから学園にいるのに実習で魔物と戦っていたら何のために学園に入ったのかわからない。

 私は文句を言いたいが口をつぐみ、手が届く範囲にいる魔物の急所を剣で切り裂く。手が届かない場所にいる個体は魔法で抉る。それだけの簡単な作業を森の中で縦横無尽に走りながらこなす。加えてある個体を追っている。


「魔族はどこだぁ。魔族はどこだぁ。とっ捕まえて尋問してくれる」


 私は今回の原因だと思われる魔族を探していた。根本をどうにかしないと騒動は納まらない。

 ある程度魔物を倒し、魔族を探していると少しずつ強い魔力を感知できるようになった。魔力を辿って行くと魔物の数が一番多かった。この先にいるなと確信し、私は突っ込む。


 ゴブリンやコボルト、オークなどの数がやたらに多い魔物を倒したあと、オーガなどの力量がある個体もさっさと倒す。師匠以上に怖い魔物は存在せず、走りながら討伐するのは容易かった。


「で、あんたが今回の原因?」


 私は森の中で開けた場所に移動し、目の前にいる人型の者に話しかける。


「うえぇ……。一つの街を軽く落とせるくらいの魔物を集めたのに、なんで簡単に討伐してくれちゃっているの。ふざけないでよ。うちの苦労も知らないで!」


 私の目の前にいる褐色少女は両手をブンブンと振り、耳障りなキンキン声で叫んでいた。頭から生えた湾曲している二本の角。背中から生えているコウモリのような翼。鼠のようなツルツルとした尻尾……。間違いなく魔族。加えて人型なので魔人か。


「うちが魔物を集めるのにどれだけ苦労したと思っているの! 毎日コツコツ集めてやっと魔王様から許しが出たのに、三〇分もしない間に八割以上も倒してくれちゃってさあ!」


 身長一四六センチメートルほどの小柄な魔人は飛び跳ねながら悪態をついてくる。耳が擽られているのかと思うほど可愛らしい声と妙に子供臭い仕草。小悪魔と言う印象が強い。


「あなた、なにしに来たの。話さないと捕まえて尋問するけど、いい?」

「へへんっだ。誰がお前なんかに話すもんか! 行け、雑魚ども。あの人間を殺してしまえっ!」


 魔人の少女は私に指差し、隠していた魔物を一斉に放ってきた。全方位、魔物だらけで逃げ場はない。


 私は地面に大きめの魔法陣を展開した。魔物達がすっぽり入るほどの大きさで『フリーズ』と詠唱した瞬間、魔物が氷漬けになる。目の前に迫っていたがすでに凍ったオーガに触れた。


「『クラッシュ』」


 私を中心に氷漬けになっている魔物たちが落としたガラス細工のように粉砕し、氷の粒となって空気中に舞う。残ったのは前方にいる目を丸くした魔人の少女のみ。


「さて尋問しようか……」


 私は外套から羽根ペンを取り出し、手の平にぺちぺちと当てる。


「ふ、ふざけるな。なんだその強さは! お前は何者だ!」


 魔人の少女は状況が理解できていないようで、私に向って指さしながら訊いてくる。


「今から尋問を受けるあたなに教える義理はないね。『レストレイト』」


 私は魔人の少女が立っている地面に魔法陣を展開した。手頸、足首に魔力の鎖を取りつけ、両手両足を引っ張るように固定する。


「くっ、ただの人間がこんな強力な魔法を。うちがあっさりと捕まるなんてありえない」


 魔人の少女は身を動かすが鎖は簡単に千切れない。


「情報を吐けば殺さないよ。吐かなかったら物凄く辛い拷問が待っているだけ」


 私は魔人の少女の頬を手で掴む。そのまま紫色の瞳を覗き込むように睨んだ。つるつるスベスベの肌からしてまだ若い魔人だ。


「う、うちは魔王様の従順な下部だ。お前なんかに情報を漏らすか!」

「なら必死に我慢するんだね。いつまで持つかわからないけど」


 私は魔人の少女の露出したスベスベの脇に狙いを定めた。手に持っていた羽根ペンの柔らかい羽部分を使ってそっと撫でる。

 魔人の少女は「ひゃぁっ!」と声が漏れる。身がくすぐったくなるほど甘い声だ。


「おやおや、どうしたのかな? そんなに辛くない拷問だよ。これで音を上げるなんて、鍛え方が足りないんじゃないかな」


 私は羽根ペンの頭を少女の脇に当てすーっとおろし、露出された括れをゆっくりとなぞる。


「んぐぐぐぅ……、お、おまえぇ。ぜ、絶対に殺してやるぅ」


 魔人の少女は歯を食いしばり、大きな目を細め、鋭い眼力を飛ばしてくる。子猫に睨まれているような気分だ。


「嫌ぁ、怖い。そんなこと言わないでよ」


 私は括れからお腹を通り、臍をなぞってから内股を優しく撫でる。魔人の少女がビキニのような露出度の高い服を着ていたため、非常に擽りやすかった。


「あぁぁああんっ、ちょ、ちょっ、く、擽りは反則だぞっ!」

「じゃあ、痛い方がいいのかな?」

「く、くうぅぅ。ふ、ふざけやがって。こ、この程度でうちが情報を吐くと思うなよ……」

「じゃあ、魔法で感度を上げていくからどれだけ耐えられるかやってみようか。漏らしたら負けね」

「か、感度を上げるだと……」


 魔人の少女は顔を青くする。私が何を言っているのか理解したようだ。これはお遊びじゃない。尋問兼拷問なのだ。

 私は魔人の少女に感度が増す付与魔法を掛け、足と股の付け根を羽根ペンで撫でる。


「くぅぅうううううううううううっ!」


 魔人の少女は頭をもたげ、体を壊れたブリキの玩具のようにガクガクと震わせる。電撃を食らっているような痺れが脳に届いたようだ。でも、それは魔法による脳の誤作動でしかない。


「ほらほら、このまま撫でられたら辛いよ。さっさと吐いて楽になりなよ。君はここに何しに来たの?」

「い、いわなぁいぃいっ! ぜ、絶対に言わないっ!」


 魔人の少女は魔王に対する忠誠心が強いのか簡単に口を割らなかった。

 私はくすぐったい所をとことん擽り、尋問していく。


「く、くそぉ。魔法が使えれば、お前なんて一撃なのに……」


 私は魔人の少女を拘束しながら魔力を吸い取っており、少女は魔法が使えなかった。そのため、もう吐くかやられるかのどちらかしか選択肢はない。仲間がいる可能性もあるが、今のところいない。まあ、仲間が来ても同じように拘束するので問題ないけど。

 微笑みながら魔人の少女を擽りまくる。ただ一時間もやっていると面倒臭くなってくる。


「こ、このけだもの……。う、うちの頭をとろとろにして無理やり発情させる気だろ」

「なにを言っているのかな? 私はただ情報が欲しいだけだよ」


 私は魔人の少女の胸当てに羽根ペンの先をツンツンと優しく押し当てる。普通なら何も感じないだろうが、今は魔法で感度が上昇している。些細な刺激でも大きく膨れあがるため、


「ふぐぐぐぐぐぐっ……、あぁぁ、そ、それ、らめえぇ。あだま、おがじぐなっちゃうぅっ~!」


 魔人の少女は敏感な部分を擽られ、我慢の限界を迎えた。乾燥していた地面に一カ所だけ大量の水しぶきが降り注ぎ、生い茂った雑草たちに付着した水分が日の光を反射させてキラキラと輝きを増している。


「さて、あなたの名前は何て言うの?」

「ざ、ザウエル……」


 魔人の少女は涙や鼻水、涎でグチャグチャになった顔のまま呟いた。


「へぇ、ザウエルちゃんって言うんだ。可愛い名前だね」


 私はザウエルの首筋や脇を羽根ペンで優しく撫でる。名前だけ引き出しても意味がない。


「く、うぐぅ……、ぐぅぅう……、あぁあぁぁ……、あ、あたまぁ、とけるぅぅ……」

「ほらほら、情報をさっさと吐けばこれ以上しないであげる。縛りつけの状態で魔族領に送ってあげるよ。殺さないのは温情かな」

「ふ、ふざけるなっ!」


 ザウエルは叫ぶと同時につるつるの尻尾の先を私に突き刺そうとしてくる。ハート型をさかさまにしたような尖った先端が私の体に触れる瞬間。


「な……、つ、掴まれた……」


 ザウエルは口を開きながら、全財産をつぎ込んだ博打に敗北した人間のような表情になる。


「弱点を自ら差し出してくれるなんて相当おバカになっちゃったね」


 私はザウエルのつるつるの尻尾を両手でしっかりと揉み、芯を柔らかくするように弄る。


「んんぁぁぁあああああああっ! だ、駄目駄目っ、も、もう、だめぇえっ!」

「なにが駄目なのかな。ほらほら、早く言わないと気持ちよすぎて死んじゃうよ。『感度上昇』」


 私はザウエルの感度をさらに上げ、尻尾の先端を嚙み、羽根ペンの先で股部分を擽った。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっ! なにこれなにこれぇっ! し、しんじゃぅ、こんな刺激、知らなぃっ! んんんんあぁぁぁああっ!」


 ザウエルは雷を食らったように全身を激しく跳ねさせ、汚い声を漏らすと同時に彼女の真下の地面だけ滝が降っていた。見るに堪えない醜態を晒し、完全に伸びている。


「ザウエルちゃん、君は何しに来たのかな?」

「……ま、魔王様から『黒羽の悪魔』を倒してこいと言われた」

「なるほどね。それでわざわざこんな場所まで来たんだ。なんで学生を襲ったの?」

「……ま、魔物を沢山動かせば『黒羽の悪魔』が来ると思った」

「そう言うことね。じゃあ、魔王の話をあらかた聞きましょうか」


 私は完全に戦意喪失したザウエルにあらかた話させたが、情報はあまり持っていなかった。ただ『黒羽の悪魔』対する恨みは妙に大きい気がする。何もかも丸裸になったザウエルを縛り上げた後、魔族領に送る。送ると言っても羽根ペンにザウエルを縛り付けて飛ばすだけだ。


「お、おぼえてろぉお~!」


 ザウエルは何か叫んでいたがあまりにも可愛らしい声で何も怖くない。


「名前くらいは覚えておくよ。でも、もう会いたくないかな。あとはちらほらと残っている個体を倒すだけだ」


 私は森の中を歩き、制御が失われた魔物を倒しておく。ゲンナイ先生のもとに戻ると、オーガとゲンナイ先生の体が倒れていた。ゲンナイ先生の体を軽く回復させ、皆のもとに戻る。

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