第15話 決闘当日

「とうとうこの日が来たか。相手は各上だが、絶対に勝てないわけじゃない。全力で行こう」


 なぜか、私よりも戦う気満々のフレイは熱く話した。


「うん、今までの成果を十二分に発揮して必ず勝つ! 勝って、少しでも強くなったと自信が欲しい!」


 ライトは両手を握りしめ、やる気に満ち溢れていた。


「うう。なぜ俺だけいきなり参加なんだ……」


 サンザ先輩は私達の小競り合いに参加してくれた。面倒臭い方だが、案外いい人なのかもしれない。


「はははっ! 来たかDランククラスの雑魚ども!」


 私たちの前に闘技場に到着していた名前も知らない大柄の男が高らかに笑っている。


「こんにちは。今日は決闘をよろしくお願いいたします」


 私はことを荒立てないよう自ら頭を軽く下げた。


「これはこれは、ご丁寧にどうも……。じゃないっ! この前の屈辱を晴らす!」


 大柄の男も、一度は私に頭を下げたのに、すぐに私に向って叫びながら指した。


「はいはい、決闘で晴らしてくださいね」


 私は喧嘩っ早い大柄の男性を軽くいなした。頭に血が上った相手と真面に会話などできない。仕事を依頼してきたお爺さんが文句を言ってきた時も、受け流すのが重要だ。


「ただいまより、Bランククラス対Dランククラスの決闘を執り行います。不正行為は即失格となりますので、ご注意ください。決闘形式は勝ち残りとなります」


 女性の教授が私達の決闘を取り仕切った。四人が順番に戦い、勝利したら残るという戦いだ。そのため、四対一でも勝てる可能性はある。


「では、早速進めて行きましょう。互いに一人目の方、前に出て来てください」

「じゃ、じゃあ、俺が行ってあいつらを四人全員倒してきてやるよ」


 サンザ先輩は自ら先方に名乗り出た。そのまま、試合場に足を踏み入れ、相手の前に立った。あんなに嫌がっていたのに、こんな時ばかりカッコつけちゃって。脚がすごい震えているけど。


「ただデカくて太っているだけのおっさんじゃねえか。他の奴らも、俺が纏めてボコボコにしてやるよ」


 相手は一人目から大柄な男性だった。相手も、自分一人で十分と思っている様子。


「なんだと、クソガキ……。俺は太っていない! 体が大きいだけだ! ライトに酷いことするやつは、俺が許さない!」


 サンザ先輩は相手の挑発に乗り、豚のダンスに見えるほど甘く仕掛けた。


「ふっ! そんなんだから万年Dランククラスなんだよ!」


 大柄な男は手を握り、隙だらけのサンザ先輩の腹部に拳を打ち込んだ。


「ぐはっ!」


 サンザ先輩は子供が蹴り飛ばしたゴム玉のように場外に殴り飛ばされ、地面を何度も転がる。しぼんだ風船のように覇気が無くなると、眠った豚のごとく倒れ込み、戦えなくなった。


「やっぱり雑魚だな。ほら、残りの雑魚も出てこいよ。俺がまとめて相手してやる」


 相手は体力がまだまだあった。サンザ先輩を吹っ飛ばしてもらって気分爽快という具合にならなかったようだ。

 観客席にいる生徒たちはBランククラスの強さを見て沸き立っている。大きな体を持つ自称Dランククラス最強のサンザ先輩を一撃で吹っ飛ばす力は確かに侮れない。


「Dランククラスの二人目の方、前に出てきてください」

「じゃあ、ぼくが行ってくる」


 ライトはサンザ先輩に変わって試合場に入る。表情は硬く、緊張しているようだった。


「おいおい、女の子みたいな子が出て来たぞ。本当に男か?」

「ぼくは男だ。サンザ先輩の仇はぼくが撃つ!」


 ライトは格上相手に臆さず、左腰に掛けられていた剣を引き抜き、構えた。


「ほほお。可愛い顏している割に案外出来るみたいだな。だが、格の違いを教えてやるよ!」


 大柄な男性はライトより先に連続で攻撃した。

 ライトは全て回避しきれずに一撃食らいサンザ先輩と同様、弾き飛んだ。

 どうやら、私が思っていた以上にランクの違いははっきりと表れてしまうらしい。


「くっ。ここまでの力の差があるのか……」


 ライトは根性で立ち上がるも、容赦のない相手の追撃を受けて立ち上がれなくなった。


「Bランククラスの勝利、続いてDランククラスは三人目の方、前に出てきてください」


 女性教員は淡々と試合を進める。面倒な試合に付き合わされて彼女も災難だ。


「よし、俺の番だ」


 フレイは試合場に入り、軽く頭を下げた後、剣を手早く抜いた。そのまま一気に攻める。素早い連続攻撃に相手も動揺していた。

 だが、大柄の男は攻撃を全て回避し、隙を的確に突き、フレイの体力を奪っている。

 腕が上がらなくなるほど肉体にダメージを負ったフレイは大柄の男に横腹を蹴られ、戦闘不能になる。


 ライトとフレイは鍛錬の成果をいかんなく発揮し、各上相手に頑張っていた。少しでも自信を付けてもらおうと思っていたが、逆に自信を失わせてしまいそうな結果になっていた。そのため、みんなに申し訳ない気がしてくる。これなら、最初から私が四対一で戦っていた方がよかっただろうか。


「Dランククラスは四人目の方、前に出て来てください」


 私は相手を甘く見ていたようだ。サンザ先輩は抜きにしてライトとフレイが攻撃を当てずに終わると思っていなかった。目の前に立つ大柄の男性は思った以上に強いのかもしれない。気を抜かないようにしないとな。


「お遊びは終わりだ。やっときさまをいたぶれるぜ!」


 大柄の男性は握り拳をぽきぽきと鳴らし、私に笑いかけてくる。勝つ気満々だ。


「では、よろしくお願いします」

「じゃあ、行くぞおらっ!」


 大柄の男性は三人と戦ったのに、まだまだ体力があり余っており、私目掛けて走って来た。隙は大きいので、一歩も動かず倒せそうな気はするけれど、すぐに終わらせてしまったら私の強さが露見してしまう。


 ――剣で切るか、拳で殴るか、魔法で戦うか。うーん。迷う


 私は大柄の男性の攻撃を紙一重で回避しながら、なにで戦うか考えた。二分から三分ほど攻撃を躱し続けたあと、答えにたどり着く。


「私はこれで戦います」


 私は羽根ペンを異空間から取り出し、大柄の男性に見せる。


「は? お前、舐めてるのか!」


 大柄の男性は子犬のように吠えており、当たれば致命傷になりそうなほど勢いが乗った拳を何度も打ち付けてくる。


「舐めていませんよ」


 私は羽根ペンに魔力を纏わせた。そのまま、質量が増した羽根ペンを思いっきり投げた。


「ちっ。こざかし……、ぐはっ!」


 大柄の男性は羽根ペンを躱さず、払いのけようとした。だが、私の魔力が込められた羽根ペンは簡単に軌道が変わらず、直撃した。


「うぐぐ……。は、羽根ペンがなんでこんなに重たいんだ。丸太に衝突された気分だ」

「じゃあ、まだまだ行きますよ」


 私は投げた羽根ペンを魔力で操作し、相手の死角から突っ込ませる。


「ぐああああああああああっ!」


 大柄の男性は背後から丸谷ぶつかったように吹っ飛んだ。闘技場の壁に勢いよくぶつかり、体がめり込んでいる。

 観覧席にどよめきが生れ、何が起こっているのかわからない様子。


「さあ、まだやる気ですか。私はとことん付き合いますよ」


 私は質量が増した羽根ペンを体の周りで操りながら、歩く。


「す、すげえ。羽根ペンなんかでBランククラスの男を圧倒しているぞ」

「羽根ペンを使うってさ、Sランク冒険者の『黒羽の悪魔』にどこか似てないか?」

「確かに。でも『黒羽の悪魔』が使う羽は黒色だって噂だぜ。あの男は白羽を使っているし、全くの別人だろ」

「じゃあ、あいつの通称は『白羽の天使』にしようぜ。Sランク冒険者の最強が女ってのも気に食わねえし、あいつなら勝てる可能性があるんじゃないか?」

「さすがに未来を見すぎだろ」


 観覧席から私のダサい通り名がバンバン飛び交っていた。その通り名を聞かされると、体がぞわぞわするからやめてほしい。


 ――もしかして、羽根ペンを使うの失敗だった?


 私は自分が思っていた以上に多くの者に知られた冒険者だったらしい。自分では気づかなかったが『黒羽の悪魔』って言うバカみたいな通り名が学生の間にも浸透していた。そのせいで、私は対をなす存在にあげられてしまった。同一人物なのに。


「く、くそったれ。後輩のDランククラスに負けていられるか!」


 大柄の男は根性が結構あった。何度も向ってくるが私は羽根ペンを使ってタコ殴りにする。


「『無反動砲』」


 私は羽根ペンに魔法を付与した。師匠も吹っ飛ばす高火力が出せる魔法だ。


「ちょ、ま、待て。も、もう……」


 大柄の男はへっぴり腰になって手を振り、何かを言おうとしていた。


「三名をいたぶった分、返させてもらいますね。あと、これに懲りたら悪いことはしないように!」


 私は魔力で羽根ペンを動かし、大柄の男に打ち付ける。羽根ペンに戻ってくる反動はなく、全て大柄の男性の体が受けるため、威力が二倍になる。

 大柄の男は羽根ペンと衝突し、バレリーナのように身を反らしながら大きく吹っ飛んだ。地面に衝突し、糸が切れたマリオネットのように横たわる。どうやら起き上がれないらしい。


「Bランククラスの二人目の方は前に出て来てください」

「へ、あいつは俺達の中で最弱。ほんと情けねえ野郎だぜ。お前は、俺が一撃でぶっ飛ばしてやる」


 なんか、やけに自信満々の男が前に出来てきた。そのまま、私に攻撃してくる。

 私はその場で立ったまま、羽根ペンを鳩尾に投げ込んだ。


「ぐはぁっ!」


 二人目の男は紙人形のように軽々と吹っ飛び、地面に転がって泡を吹きながら倒れる。


「Bランククラスの三人目の方は前に出て来てださい」

「はっ、油断しやがって。油断しなかったらこんな女みたいな奴に負けるわけねえんだよ」


 三人目の男は銅像のようにじっと身構え、私の隙を伺っていた。私に隙が無いから、ずっと動かないで立ったまま。なにしているんだろう。


「じゃあ、こっちから行きますね。はい、ドーンっ!」

 私は羽根ペンを持ち、思いっきり投げる。羽根ペンは音速を越え、三人目の男の体に直撃。貫通しないよう、羽根ペンの先端は魔力を溜めて石のようにしてある。


「ぐはぁああっ!」


 三人目の男は何がしたかったのかわからないが、なすすべなく吹っ飛び、捨てられた空き瓶のように地面に転がった。


「Bランククラスの四人目の方は前に出て来てください」

「ふっ、ふっ、ふっ……。三人を倒したからと言って良い気になるなよ、小僧」


 最後の一人が前に出て来きた。サンザ先輩よりも大柄で強そうな見た目。腕を組み、大将と呼ばれるだけの力を感じた。


「じゃあ、私も少し本気でいきますか」


 私は異空間から羽根ペンを七本取り出し、全てに魔力を込めた。丸太のような質量を持つ羽根ペンが八本になり、体の周りを高速回転する。


「……あ、棄権します」


 大柄の男性は手を上げて宣言すると、さっさと闘技場から出て行った。周りはあっけにとられ、私も状況が一瞬理解できなかった。


「け、決闘の勝者はDランククラス!」


 女性教員は私達の方に手をあげ、拍手していた。周りにいた観覧者も手を叩き、私達を賞賛してくれた。まあ、下のランクの者たちが勝ったから、嬉しいのかもしれない。

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