第8話 Dランククラスの理由
私は面倒だったが、教室から出て八階にある学園長室にやって来た。
「すみません、教室にいた男子に抗議してこいって言われたので来ました。って、あれ?」
私が学園長室に入ると、シトラ学園長と入学試験主席のコルトがいた。
「キアス、入る時は扉を叩くのが普通だ。私がここでコルトとセッ〇スしていたらどうする」
「勝手にしていてください」
シトラ学園長は溜息をつき「何の用だ?」と質問してきた。
「私がDランククラスに割り振られた理由を聞きに来ました」
「やっぱり、君も気になったのか! Sランククラスに君がいないのが不思議でならなかったから、私も理由を聞きに来たんだ」
面倒臭そうな発言を垂れ流しているコルトは私の方を向いて笑った。イケメンが笑うと、やはり眩しい。
「コルトにも理由を話すところだったからな、丁度良い。簡単に言えばキアスが平民で試合を八回しか行っていないからだ」
私は言質を取ったので、さっさと部屋から出ようとした。
「ちょ、ちょちょ。待つんだ!」
コルトは私に声を掛け、手首を掴みながら引き留めてきた。
「なんですか? 理由がわかったので教室に戻ります」
「悔しくないのか! 平民だからと馬鹿にされているんだぞ。君ほどの者がDランククラスにいるのはもったいない!」
「えっとコルトさんでしたよね。あなたはSランククラスで頑張ってください。私は私で頑張りますからお構いなく。あ、セッ〇スするときは避妊しないと駄目ですよ」
「なっ! 私と学園長はそんな関係じゃないぞ!」
コルトは顔を真っ赤にしながら大きく吠えた。案外可愛らしい優等生なのかもしれない。
「なんだコルト、私に気があるのかー。それなら私が特別講義でもしてやろうか」
シトラ学園長は燕尾服の第一ボタンを外し、鎖骨を見せる。第二ボタンを外せば胸もとが見えるだろう。だが、その状況になる前に、コルトは逃げるように部屋を出て行った。
「ふっ、まだまだ青い子供だな。からかいがいがある」
シトラ学園長は狐のように笑いながら第一ボタンを止め、私を見てきた。
「キアスがどうしてもと言うなら、Sランククラスに移動させることもできるが」
「貴族の面倒ないざこざに巻き込まれるよりずっと楽なので、私はこのままでいいです」
「そうか。なら、そのままDランククラスで頑張ってくれ」
私は学園長室から出て、Dランククラスまで戻った。教室に入るとフレイとライトが仲良くなったのか一緒に食事をとっていた。
「はむ。はむ。はむ。すごい、フレイの料理、味が濃くて食べ応えがあって美味しい」
「そうか? 口に合ったのなら何よりだ。にしても、ライトは凄く美味そうに食うな」
「だって、すごく美味しいんだもん。もっと食べたくなっちゃうよ」
彼らのやり取りを見ていたら、私の脳内に『禁断の書』の内容が浮かんできた。
『はむ、はむ……。フレイの大きくて塩っぽい、でも食べ応えがあって美味しい」
『そ、そうか? 俺のがライトの口に合ったのなら何よりだ。にしても、ライトは凄く美味しそうに食うな……』
『だって、すごく美味しいんだもん……。もっと味わいたくなっちゃうよ』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
私はクラスメイトの話合いから『禁断の書』の文章を書く。もう、書ける書ける。
「キアス。戻ってきたのなら言え。全く気付かなかったぞ」
フレイは私の大声に反応し、身を引いていた。
「いきなり大きな声を出してどうしたの?」
ライトは肩をすくめながら、小さな声で呟いた。
「な、何でもないよ。私はDランククラスで過ごすことになったからこれからよろしくね」
「おいおい、本当に良いのかよ。お前の強さなら……」
「私、平民だからDランククラスらしい。覆そうとしても今さらどうこうなる話じゃない」
「平民……」
フレイは一度目を細める。だが「なるほど、そういう話しか」と呟きながら、小さく頷いた。
「俺は弱小貴族の三男だ。平民とほぼ変わらん。気にせず話し掛けてくれ。ライトもキアスが平民だからって気にしないよな?」
「もちろん。ぼくも三男だし、弱小貴族だから平民とほぼ変わらない」
ライトは微笑みながら、自己紹介の時よりもハキハキと声を出していた。なんなら、私の戦いがカッコよかったとか、あんなふうに強くなりたいとか、褒めちぎってくる。
――二人共良い人だ。あと、ものすごく美形。仲良くしておけば、美味しい場面を沢山見られるんじゃないだろうか。
そう思っていた矢先。
「やっぱりここにいた」
Dランククラスに入って来たのは先ほど学園長室にいた入学試験主席のコルトだった。
「何か用ですか。私、今、ものすごく忙しいんですけど」
私は執筆を邪魔されて胃がむかむかしてくる。
「いや、すまない。放課後、この教室で残っていてくれないか」
「放課後ですか。まあ、別にいいですけど。何するんですか?」
「放課後になってから教える。今、教えたら来なくなるかもしれないからね」
コルトは何を企んでいるのか知らないが、私に何かさせようとしているのは明白だった。まあ、殺されるわけじゃないし、適当にあしらっておこうかな。
コルトは言いたいことだけ言い終わると、Dランククラスから早々に出て行った。
「さっきのコルト・トルマリンだろ。入学試験主席の秀才と知り合いだったのか?」
「知り合いというか、さっき学園長室でばったり会ったんだよ」
コルトの話はどうでもいいと思い、手短に伝える。
「キアスが平民じゃなかったらもっと上に行っていただろうな」
「キアスくんならもっと上の学園に行けたんじゃない? 上に行けばそれだけ良い教育が受けられる。エルツ工魔学園は良い所だけどドラグニティ魔法学園に比べたら……」
ライトは視線を下げ、何か言いたそうにしていた。
「ドラグニティ魔法学園を出してくるなよ。あそこにいるのは本当に選ばれた化け物しかない。俺達なんて足頃に転がった石同然だ」
フレイは両手を握りしめながら歯を食いしばっていた。
「ドラグニティ魔法学園か。凄いって聞いているけど、よく知らないんだよね」
「魔族を倒している冒険者を最も多く輩出している学園だ。どの分野においても超一流。多くの学園が妥当ドラグニティ魔法学園と掲げるくらいだ」
「へぇー、なるほど」
「大勢の前で言ったら笑われるから言わないが、二人には宣言しておこうと思う。俺はドラグニティ魔法学園の生徒達に勝つ。それが本当の目標だ」
フレイは大きな目標をしっかりと持ち、学園に入学したようだ。
それに比べて私は大した理由もなく、禁断の書が上手く書けるようになりたいからという変な理由でやって来た。少々恥ずかしい。
「ぼ、ぼくもドラグニティ魔法学園の生徒に負けないくらい努力するよ。フレイくん、キアスくん。一緒に頑張ろう!」
ライトはフレイの熱に感化されたのか、笑顔から表情を引き締めた顔で元気よく声を出す。
――どうしよう、ドラグニティ魔法学園とかどうでも良いんだが。
「そうと決まったら、放課後は特訓だ!」
フレイは重箱の中身をがつがつと食っていく。ライトが大きな声で返事すると、人参を与えられた兎のようにパンをむしゃむしゃと食べていく。
「私、放課後は教室に少し残らないといけないから、私のことは気にせず特訓していて」
「わかった。じゃあ、俺達は学園の広場で特訓してくる。用が済んだら来てくれ」
「う、うん。行けたら行くよ……」
――特訓は面倒だけど二人が特訓しているところは見たい。行くか行かないか迷うところだ。
昼食後、午後の講義が始まり、三限、四限、五限が終わった。時があっという間に過ぎていく。今日は自己紹介ばかりで教授に名前を覚えてもらうだけで済んだからよかったものの、また勉強漬けの毎日が行われるのかと思うと億劫だ。まあ、仕事よりマシだけど。
「高等部の講義を受けて感じたと思うが、毎日勉強しないと着いていけなくなるぞ。体を動かすだけじゃなく、頭も使っておかないとひどい目に合うからな。俺は言ったぞ、後で泣き着いてくるなよ」
ゲンナイ先生は五限の後、教室に戻ってきて連絡事項を話し、出て行った。
――担任の先生と言うより、連絡係みたいだな。
「しゃっ! 終わった! 遊びに行くぞ!」
「おおっ! せっかく三大学園のエルツ工魔学園に入ったんだ。他の学園の女子を落としに行こうぜ!」
「それいいな! 理的な俺達に惚れさせてやろうぜ!」
教室にいた男子のほとんどが教室から出て行った。皆、遊ぶことの方が勉強することよりも大切だと考えているらしい。うんうん、遊べるときに遊んでおいた方がいいと私も思うよ。
私はすでに学んでいた分野は軽くおさらいし、初めての分野は講義内容を見直して予習復習を完璧にこなした。いつの間にか教室にいたのは私一人。
「すまない、遅くなった。はは……、やはり勉強しているのは君だけか。思った通りだ」
主席合格を果たしたコルトが、尊敬の念が孕んだ笑みを浮かべ教室にやって来た。運動後なのか、額に汗を掻いており、イケメン度が増している。
「皆、勉強することよりも遊ぶことの方が大切なんだと思います」
「まあ、彼らは先が見えていないだけだと思う。君は気にせず、勉強を続ければいい。じゃあ、私に着いてきてくれ」
私は勉強道具をトランクにしまい、彼の後を追う。
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