8:暇なので開拓始めます!
レイドボス生活2日目。
あれほど心待ちにしていたサービス初日は、結局誰一人として現れないまま幕を閉じた。
このままでは孤独死待ったなしである。そんな状況を打開すべく、お昼前にログインしたわたしは、短い腕を組んで仁王立ちになると誰に言うでもなく宣言した。
「今日は、開拓……する!」
そもそも、プレイヤーが来ないのは当然のことだったのだ。
ここ沈黙の森の入口付近には、オーガやトロールといった強力なモンスターがうろついている。
彼らを倒して洋館まで辿り着くには相当のレベルが必要だし、パーティーが全滅でもすれば、ペナルティとして所持金の2割が失われてしまう。いくらサービス開始直後とはいえ、記念受験のノリで挑戦するにはリスクが高いのだ。
「つまり、今後はプレイヤーが強くなるまでまあまあな期間暇……!」
もうこれは開拓するしかない。このままだとボーッと空を眺めるだけの給料泥棒になりかねないからね!
「よぉし……まずは拠点を作らなきゃ」
今後、本格的な開拓を進める上で必要なのは効率的な拠点だ。
CFOにはアイテムの所持容量に上限が存在する。
クラフトに使う素材も無限には持ち歩けないわけで、容量を超えた素材なんかは、各街からアクセスできる倉庫に預ける必要があるのだ。
……なんだけども、レイドボスが街までエッホエッホ歩いて素材を出し入れするのは絵面的にダサいし。
そもそも街まで遠くて不便なのもあって、倉庫や道具をしまっておける設備がついたマイホームが欲しいのである。なんか開拓の第一歩っぽくもあるしね。
そうと決まったら行動だ。さっそくカスタマイズウィンドウを開き、家のレシピをいくつか見てみる。
がしかし、用意されているのは、いかにもな丸太小屋や石造りの家ばかりだった。……うーん、なんかいまいちピンとこないなあ。
「もうちょっとテンション上がるようなのないかなあ……」
どうせ作るなら見た目にもこだわりたい。そう思い立ち、足元の草をぶちりと引っこ抜く。
その草から「簡易的な紙」を、ついでに昨日の木材の残りで「ペン」をクラフトすると、紙を地面に広げ、わたしはさらさらと理想の家を描きはじめた。
壁は温かみのあるレンガ造りがいい。
屋根には少し苔の生えたような瓦を乗せて、煙突もあれば素敵だ。
窓は丸い出窓にして、倉庫は家の外に設置しよう。ドアは趣のある木製で──。
「……うん、こういうのがいいかも」
夢中で描き進め、5分もしないうちに理想の家の設計図もどきが完成した。我ながらなかなかの出来栄えかもしれない。
中学時代、美術部の先輩がこっそり持ってきたお菓子を囲む中、1人延々とキャンバスに向かっていた甲斐があるというものだ。真面目でえらいねわたし。
とりあえず、これに近いレシピを探そう。
そう再度カスタマイズウィンドウを開こうとした、その瞬間だった。
「わっ……!?」
手元の設計図もどきが、淡い光を放ってふわりと宙に浮かび上がった。
かと思えば弾けるように光の粒子と化し、わたしの身体に吸い込まれていく。目の前にポップアップウィンドウが開いた。
【新たなレシピ:〈レンガ造りの家〉を保存しました】
「……えっ」
なんだ、なんだこれ。
もしかして、自分でレシピが作れるの……!?
だとしたら革命だ。これなら、わたしの好きなものを自由に作れるじゃん……!
「すごい! これって、どんな見た目のものでも描いちゃえばレシピにできるってことだよね……!?」
高鳴る胸を押さえ、わたしはすぐさま必要な素材を確認した。
【レンガ造りの家のレシピ】
・良質な粘土 x 2000
・木材 x 5000
・石材 x 3000
・鉄鉱石 x 500
「ごっ」
あまりの量に目を疑った。も、木材だけで5000個……。
確か、昨日あれだけ派手に木を破壊して手に入ったのが50個だったから、木を100本薙ぎ倒さなきゃならない計算だ。いや、そりゃ家作るってなったらそれなりの素材が必要だよね……。
むしろダミーボット500個ぶんの木材で家が建つなら良心的かもしれない。……でもこれ、今後もっと大きいものを作るときはこれ以上の素材が必要になるんだよね……?
「……仕方ないかあ」
でも、やるしかない。
わたしは自分を奮い立たせるようにふんすと気合いを入れ直すと、素材の調達へと向かった。
まずは集めやすい木材からだ。
ということで、昨日手刀で木を破壊した場所へ行ってみると、根本から爆発したような切り株の残骸が残っている。……あれ?
てっきり、一度伐採した木は翌日にはもとに戻るものだと思っていたんだけど……もしかして一度採取したらそれっきりなのだろうか。
ということはつまり、このまま木材を集めていればいずれ資材不足に陥るということである。
なるほど、今後は植林なんかも検討していこう。やることがたくさんだ。
「まあでも、のちのちのことはともかくとして……」
まずは家のための素材集めが肝心。わたしは短い腕を突き上げると、やっぱり誰に言うでもなく「おーっ」と声を上げた。
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