過去からの迷い人。

時雨シグレ

prologue そう、これは序章に過ぎないのだ。

2065年、世界に異変が起こった。

『攻撃魔法』、『防御魔法』、そして『治癒魔法』。この3つを中心に、世界に『魔法』という物が広がった。

当時は、結構大騒ぎだったらしいけど___


「まぁ、今では当たり前よな。」


俺はそう一人呟いた。

そんな天変地異みたいな現象が起きて50年がたった。

あ、俺の名前は戦慄センリツ 灯愛ヒイト。ただの高校2年生の男子高校生だ。

いや、案外ただのではないのかもしれない。

つい50年前までは、魔法はなかったらしいしな。


「ねー!でも、結構びっくりだよねー!」


隣でそう意外そうにいうのは、幼馴染の稲津イナツ 光香ミカ

明るく、透き通ったような声が特徴的、けど茶髪ボブカットにバスケ部のバリバリの運動系女子だ。


「魔法がなかった時代なんてあったんだね?今となっちゃ、ないと生きていけないぐらい身近なものなのにな~。」


彼女は、掌から小さなナイフを出しながら呟く。


「………なんてもの出してるんだ…。」


思わず、そうツッコんでしまった。

彼女が今見せた魔法は『召喚魔法』。魔法の中心となる、攻撃、防御、治癒のどこにも属さない魔法だ。

この召喚魔法は基本誰でも持っている魔法だ。イメージを固めることによって、掌から物を召喚することができる。案外実用性の高い魔法かもしれない。

ぶっちゃけ、この世界なんか魔物とかいないから攻撃とか防御って全然使わねーんだよなー。


……治癒は別だけど。


『ニュースをお伝えします。』


その時、街中に浮かんでいるモニターから声が聞こえた。


『先日、際静県セイシケン大生海区オオカイクの大生海中学校校舎裏で、とある女子生徒が、重傷を負ったまま座り込んでいるとの通報がありました。』


『その女子生徒は大やけどを負っており、駆け付けた回復術師によって無事回復しました。女子生徒によると「いきなり炎で殴られた。」との事らしく、犯人は炎を使う攻撃術師と推測し捜査を進めております。』


「げっ、この街じゃん!!最近はここも治安が悪くなってきたね~。」


「どこも同じだろ。」


さっきも言った通り、当たり前この世界には魔物とかいう生物はいない。

だから『攻撃魔法』を授かった大半の人間は何か犯罪を犯してしまうのだ。

んで、ここで活躍するのが『回復術師』。

回復術師は別名「医者」と呼ばれるもので、その名の通り治癒魔法で傷や病気を治す術師なのだ。

だから皆、平気で人を傷つける。

どうせ、回復術師が治すと思って。

そのせいで最近この街は、「殺人のないスラム街」という変な肩書をつけられた。

…………スラム街はさすがに言いすぎな気がする…。


「んー、魔法のない世界って、どんなだったんだろうね~?」


その時、光香がそんなことを言った。

少し魔法のない世界を頭に描いてみる。


「……魔法がないだろうから、治癒魔法はないし防御魔法もないから、すぐ怪我しそうだなー…。あ、けど攻撃魔法がないから犯罪は少なそう。」


「あと__」と言いかけた時、


「_____か。」


「…!?」


耳をくすぐる様な、小さな幼い声が耳元に響く。

俺はとっさに後ろを振り向いた。

けど、そこにいたのはいつもとなんも変わらない街の人たち。


「?ひーくんどーしたの?」


光香の声で我に返る。


「………いや、なんでもない…。」


そう言い、二人で学校に向かう。

こんな生活を、俺は特になんの疑問も持たずに過ごしていた。

けど、

ある日を境に、‟俺の先入観は打ち砕かれた”。

俺の生きているこの世界は、当たり前だと思って歩んできたこの日常は、誰かにとっては‟異様な物”。

それを俺に教えてくれたのは、『迷子の少女』。

いや、『訪問者』と言って良いだろう。


そう、今までの人生は、



____序章に過ぎないのだ。

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