4-21 セイラの屈辱

 離宮が見えてきたところで、セイラは声を張り上げた。


「ここで止まりなさい!」


「は、はい!」


命じられた御者は慌てて馬車を止めると、セイラは自ら扉を開けて降りてきた。


「セイラ様。離宮まではまだ少しありますが、本当にこちらで降りてよろしいのですか?」


ビクビクしながら尋ねる御者。


「いいのよ、ここから先は歩くから。お前は馬車を木の陰で隠して待機していなさい。それよりも絶対、誰にも姿を見られないようにしておきなさい。もしバレたらクビよ!」


「分かりました! 絶対に誰にも見つからないように隠れています!」


悲鳴交じりの声を上げて御者が返事をすると、セイラは離宮へ向かった。


「サフィニア……絶対に、あんたを引きずり降ろしてやる……」


低く、唸るようにセイラは呟いた――



****


 セイラは事前に離宮の合鍵を作っていた。


音を立てないように開錠し、扉を開けると侵入した。


(どこにブローチを隠そうかしら……本当ならサフィニアの部屋に隠したいけど、ばれてしまいそうだし……)


廊下を静かに進んでいると、リビングに辿り着いた。


(そうだ……ここならサフィニアと、あの侍女がよく利用しているじゃない)


不敵な笑みを浮かべると、セイラは扉を開けた。


その瞬間――


「そこで何をなさっているのですか!」


鋭い声が響いた。


「キャアッ!!」


誰もいないと思っていたセイラは、驚きで悲鳴を上げて振り返った。

すると、そこには怒りの眼差しでこちらを見ているヘスティアの姿があった。


「お、お前は……サフィニアの侍女……」


驚きでセイラの心臓は今にも口から出てきそうだった。


「そうです! 侍女のヘスティアです! セイラ様、あなたは今ここで何をしようとしていたのですか!」


セイラは一瞬言葉を失ったが、すぐに顔を歪めて叫ぶ。


「何よ! 私はこの家の娘よ! この離宮だって、私の物なのよ! なのに勝手にこの家にお前たちは住んで……この泥棒!!」


「いいえ、違います。ここはサフィニア様の住まいです。いくらセイラ様でも勝手に入ることは許されません」


ヘスティアは、相手が公爵令嬢であろうと一歩も引かない。


「黙りなさい! お前は、ただの侍女でしょう!」


「侍女でも、守るべきものがあります。サフィニア様は、私の大切な方なのですから!」


その言葉にセイラは唇を噛みしめ、ヒステリックに叫んだ。


「……どうして、みんなサフィニアの味方をするの? どうして…‥私じゃないのよ! こんなのおかしいじゃない!!」


「それは、セイラ様が誰かを傷つけることばかり考えているからです。サフィニア様は違います。自分の置かれた境遇を嘆くわけでもなく、日々努力なさっている……とても尊敬できる方です!」


「………」


ヘスティアの言葉にセイラは何も言えなかった。


その時。


「セイラ様……?」


サフィニアがリビングに入って来た。騒ぎを聞きつけてやってきたのだ。


「サフィニア……」


セイラは憎しみを込めた目でサフィニアを見つめる。


「あ! サフィニア様! セイラ様が……」


ヘスティアの言葉をサフィニアは手で制すると、前に進み出た。


「セイラ様。夜風で身体が冷えていませんか? よろしければお茶でも飲まれていきませんか?」


「!」


セイラはその言葉に目を見開き……一瞬悲し気な表情を見せると、再びサフィニアを睨みつけた。


「うるさい! こんなみすぼらしい場所でお茶なんか飲むはずないでしょう!?」


セイラは吐き捨てるように言うと、走り去って出て行ってしまった――

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