君の記憶がなくっても✴︎1

Veroki-Kika

第1話 幸せな生活

わたしは星野宮叶奈。高校2年生。17歳。

福井県福井市に住んでいるんだ。

お父さんもお母さんも死んじゃったけど…今でも明るく生きてます!

ここは中高一貫の天空学園。

すごく広くて,女子の制服が可愛いことで有名。

「さよーなら!」

挨拶をしてみんなが一斉に教室を出ていくのを横目に,わたしは1人別の方向へ向かった。

人気のない4号棟は,薄暗くて静か。お化けでも出てきそうな雰囲気だ。

しばらくいくと,図書室が見えてきた。

あかりは消えてる。でも,本はある。

高校生向けの図書室だけど,人来ないんだ。生活する棟と離れているから。

それに,高校生にもなると,本を読む人はほとんど電子図書で読むから。

「こんにちは」

図書室に入ると,誰かにこえをかけられた。

「あっ…こんにちは…」

緊張しちゃった…普段は人,いないんだもん。

声をかけてきたのは,髪の長い女の子。すっきりとした美人さんだ。

星のヘアピン。白Tに緑と黄色のチェックのキュロット。

首には,図書委員会の名札。図書委員会…そっか。

その子はスタスタと歩いていき,カチッと電気をつけた。

パッと明るくなってあたりが見やすくなる。

えっと…星…星…

あった…

わたしは1冊の図鑑をとって,机に座った。

わたしの好きなもの。それは星。

わたしは図鑑を開いた。

ペラ…ペラ…

シンプルな音があたりに響く。

ふとカウンターを見ると,図書委員会の女の子も,本を読んで…えっ…?

あれは…辞書…?

すごいスピードで読んでるんですけど…

1P10秒のスピードで読んでる…

じっと見てたら,その子もこちらを向いた。

「何か?」

シンプルに問われる。

「あっ…あの…」

うぅ。声が出ないや…この人見知り!

「ごめんなさい…驚かせてしまいましたね。図書委員会委員長・倉野陽菜多です。何かあれば…」

女の子…陽菜多さんは,また辞書を読み始めた。

やっぱり…何度見てもすごいスピードだ…

わたしもあれくらい読めれば…

そう思いながらも,わたしは図鑑を読むことにした。


『みなさん。下校時刻になりました。委員会の用事がある方以外は,戸締りをして下校しましょう』

下校の放送が入った。

もう帰らないと…まだ途中なんだけどな…

図鑑は長いから,1日で読み切るのが難しい。

「あの…」

わたしが帰り支度をしていると,陽菜多さんが声をかけてきた。

「その本…まだ途中ですよね。こちらで貸し出し処理いたしましょうか?」

「貸し出し…していただけるのですか…?」

わたしが驚いて尋ねると,陽菜多さんは頷いた。

やった!優しい!

「お名前とクラスをお教えいただけますか?」

「あっ…星野宮叶奈…クラスは2ーBです」

陽菜多さんはカチカチとパソコンに打ち込むと,軽く頭を下げた。

うわぁ…タイピングのスピードも速…

「わたしには用事がありますので…お先にお帰りください…」

陽菜多さんはそう言って奥へ戻ってしまった。

わたしは図鑑をカバンに入れ図書室を出た。


靴箱まで行くと,数人がいる。委員会やわたしのような私情。

わたしは靴を履いてキョロキョロと見渡した。

いた。

相手もわたしを見る。

「ねえちゃんっ!」

可愛らしく駆け寄ってくる。わたしの妹・星野宮多美だ。

「遅かったね」

「図書室で委員会の人と話してたんだ」

「それって…陽菜多ちゃん?」

「うんそう陽菜多さ…ってなんで多美が知ってるの⁉︎」

だって高等部の子だし…

「運営委員会で関わりがあったんだ!優しくていい子だよね!」

そっか…

「帰ろう!姉ちゃん!」

「うん」

わたしは多美と並んで校門を出る。

暑い日差し。

「あっ」

歩いていると,多美は一点を見てそこに走り寄っていく。

「多美⁉︎」

多美がしゃがみ込んだ前には,小さなたんぽぽ。

でも,枯れちゃってる。

「姉ちゃん…いい?」

そう多美は聞いてくる。

わたしはこくんとうなずいた。

多美には不思議な力がある。植物や動物を元気にできるんだ。

多美はそのたんぽぽに触れた。

すると光ってたんぽぽがさっきとは比べ物にならないくらい綺麗に咲く。

このことは2人だけの秘密。

「よしっ。ねえちゃん!いこ!」

「うん」

また歩き出そうとしたところで,とんっと影がわたしたちを覆った。

あれ?周りは晴れてる…

もしかして…

わたしは驚いて後ろを振り返った。

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