花の蜜と草の露
大学のとき、少し仲のよかった同級生がすごく細かった。
入学時はそれほどでもなかったけど、半年くらいしたらガリガリになって、それから卒業まで、ずっと痩せてたな。
特にいちばん細かったのが、3年生の夏休み明け。
久しぶりに会って「あれ、またちょっと痩せた?」って聞いたら、
「うん。・・・といっても、夏休み前からは3キロ程度だけどね」
って。
私はビックリして、頭の中で計算。
夏休み直前、彼女は「30キロ切っちゃった」って言ってたから、じゃあ、26キロとかなんだなって。
身長はたしか、159センチだったと思う。
そのときの服も覚えていて、袖の短いTシャツとミニスカ。
二の腕はトイレットペーパーの芯くらいで、太もももガムテープの芯みたいな太さだった。
あと、覚えてるのが彼女を見た女子高生が口にした言葉。
帰るとき、駅のホームで、彼女が先に来た電車に乗ったんだけど、それを見ていた女子高生が、あとから来た友達に、
「今、すごい人見た。
あのね、人間じゃないの。
いや、人間なんだけどね、ものすごく細くて…」
と、興奮しながら説明しているのが聞こえた。
たしかに、人間離れした細さだし、このままどんどん人間じゃなくなっていくんじゃないかって心配もしたけど。
その後、少し戻って30キロくらいになった。
その頃、ポツリとつぶやいたんだよね。
「花の蜜とか草の露だけで生きていけたらいいのにな」
あまりにも彼女の雰囲気に合っていたから、今も印象に残ってる。
顔は目が大きくて目力も強くて、ちょっとエキゾチックな感じ。
拒食や自傷をカミングアウトしたことがある歌手の人に似ていて、彼女もファンだと言ってた。
いちばんヒットした歌はふたりとも好きだったな。
飛魚のアーチとか宝島とかお姫様とかが出てくるのに、生々しい恋の闇も思い出させるダークファンタジーみたいなやつ。
それにしても、あんな状態で、卒業も就職もちゃんとした彼女は立派だし、儚いけど強い人だった。
おこがましいけど、ダイエットの、というか、生きるうえでのモチベーションにもさせてもらってるよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます