ふたりのるりいろ

川上水穏

プロローグ

 僕は璧川出版第三BL漫画編集部に所属し、副編集長を任されている。今のところは。


 最近、編集長から「新しく第四BL漫画編集部を作ろうと思うんだけど善知鳥うとうくんに編集長を任せたいんだ」と話をいただいている。正直、最初は「無理です」と即答してしまった。すぐに「考えます」と言い直したけれど。


 その次にきた話は僕が担当する鰐カラ先生を第四で看板作家として頑張ってもらおうと言われ、心が揺れ始めた。先生の漫画は僕の好みでどんな漫画より面白いと思っている。だから、もっと売れて欲しいと願っている。


 返事を留意していると「サラリーマン同士のボーイズラブを中心に据えて、会社を挙げてもっと売り出すことになった。そこを善知鳥くんに頑張ってもらいたい」と請われた。新しいレーベルの名前が『璧川るりいろコミックス』。鰐カラ先生の漫画に合いそうな色だ。


「やります、やらせてください」


 この返事が僕の人生を大きく変えるきっかけになった。


 第四の編成前に、場所がないので第一から第三とは別に改装していると聞かせられた。倉庫だった一室だ。それから、編集部員として働いてくれる部下の情報を渡された。といっても個人情報に配慮して現在の部署と氏名だけだ。


 年齢順に上から営業部の関口蒼思そうじ。うわ、いきなりキラキラネームだ。男か女かもわからない。いや、名前から男性だとは思いたいけれど。決めつけるのは早計だ。


 次は一般文芸編集部の永原みやび。おそらく女性だろう。当人からの異動願いを受付とご丁寧に連絡事項がある。


 それから第一から神林、第二から伊東を差しだすようだ。彼女たちの実績は知っている。神林さんは趣味で漫画を描いていたと小耳に挟んだ。


 最後はグループ会社から浦川小雪さゆき。主にデータ入力業務を担当。浦川さんも女性だろう。


 実務経験の少ない漫画家に対し、多彩な前職を持つ人材を引きあわせる。


善知鳥うとうくん、第四の人選はどう?」


 編集長が話しかけてくる。


「はい。そうですね、神林さんと伊東さんが来てくださるならとりあえず業務がまわりそうだと感じています。すみません、第三の副編集長なのに次の仕事のことばかり考えてしまっています」


「いいよ、もうすぐその時期がくるんだから」


「……はい、頑張ります」


 初めて社員食堂でお会いした頃から白髪が増えた。僕をゲイだと知っている社内で唯一の人だ。

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