第192話 目的
「ジークヴォルトが大聖堂を襲撃しただと!」
王宮サン=セロディア城、玉座の間に届いた報告。その内容を聞いたガルフィリアは怒気を発した。
「
「え、エステバン様は、ジークヴォルト王に倒されてしまいました……!第一、第二王女殿下も同様です!」
「くそっ……たった一人の男相手に……!」
「い、一応補足いたしますと……ジークヴォルト王はシルフィローゼ様を盾に、さらにはドブリュール様を武器としていたので……その、実質三人で……」
「うるさい!」
ガルフィリアは苛立ち紛れに、玉座の肘置きを叩く。
「……まあいい、このような事態に備え王都各地に兵を配置してある!ジークヴォルトを追わせろ!」
「――はっ!」
◇
一方その頃――。
キルヒェン軍に大敗を喫したセロドニア軍は、辛くも戦場から退却しパストリエ城塞都市に立てこもっていた。
「……かつてはガルフィリア様と共に攻める側であった私が、今や包囲される立場とはな……」
ラズロは、城主の間で呟いた。
敗戦からすでに三日が過ぎている。城外ではキルヒェン軍が着々と包囲を固め始めていた。
「だが……この城塞は、そう易々と落ちぬ……」
城塞都市に立てこもる兵は二万余り。
敵は七万に及ぶが、捕虜の監視などに人員を割く必要があり、全軍を投入することは叶うまい。
「粘りさえすれば……敵もいずれ退かざるを得まい」
キルヒェンの国内基盤はいまだ固まり切っていない。大軍をセロドニア戦線に貼り付けておく余力などないはずだ。
「今はここで耐えるべきだ。耐え続ければ――いずれ……」
その時、ゴォン……と重く響く音が耳に届いた。
「……魔術
魔法陣の力で巨岩を射出する攻城兵器。攻城戦ではおなじみの戦術だ。
「だが、この城壁とて魔術
仮面の如き無表情を崩さないラズロ。
だがほどなくして、慌ただしく伝令兵が駆け込んだ。
「た、大変です!総司令官閣下!」
「――何事だ」
静かに促すラズロに、兵は顔を蒼白にして叫んだ。
「じ、城壁が……城塞都市の城壁が、魔術
「な、何……!?」
◇
大聖堂を飛び出したジークヴォルトは、純白のウェディングドレスに身を包んだシルフィローゼを抱きかかえ、王都を疾駆していた。
時に屋根を踏み越え、時に塀の上を軽やかに走る。まさしく縦横無尽だ。
「見つけたぞ!追え!」
「ジークヴォルト王を殺しても構わぬとのガルフィリア様とのお達しだ!遠慮はするな!」
四方八方から兵の怒号が響き渡る。だが当の本人は、嘲笑うかのように余裕の笑みを浮かべ逃走劇を愉しんでいた。
「……ねえ、あなた」
抱えられたままのシルフィローゼが小声で問いかける。
「さっきから、同じところをグルグル回っている気がするのですけれど……」
「俺が本気で逃げれば、一瞬で奴らを振り切ってしまう。だからこうしてわざと姿を晒しているという訳だ。花嫁を
「誰ですの、シルフィピーチ姫って!?」
シルフィローゼは声を荒げ、さらに言葉を重ねる。
「だいたい……さっきにしても、わざわざ
「それでは面白みに欠けるだろう」
「……はあ」
深いため息の後、彼女は真剣な表情を作る。そしてためらうように問いを発する。
「……先ほどのお姉様の話、聞いたでしょう?」
「聞いたが、それで?」
「つまり……
「――それで?」
「それで……その……」
ジークヴォルトは足を止めた。立っているのは、とある屋敷の屋根の上。
追っ手の声は遠ざかり、静寂だけが二人を包む。
その沈黙の中、ジークヴォルトは抱いたままのシルフィローゼを見下ろした。
「シルフィローゼ・ルセリナ・デ・セロドニア。お前はどう思っている。――母親が平民出身であるという事実を、何かやましい事だと考えているのか?」
「私は……」
母の顔を思い出す。彼女はシルフィローゼが物心つく頃にはすでに重い病に侵されていた。
それでも――母はいつだって優しかった。命を落とすその瞬間まで。
シルフィローゼの翡翠色の瞳が、銀髪の青年を真っ直ぐに見つめ返す。
「――私は、母上の娘として生まれた事を誇りに思っています」
「ならば、俺に謝罪する必要など存在しない」
「そう……ですわね」
「そんな無駄な事をしている暇があるなら、シルフィローゼシールドの完成度を磨いておけ」
「磨きませんわよ!」
シルフィローゼはぷうっと頬を膨らませる。そして、改めて真剣な面持ちを作った。
「改めて、
彼女の臣下たちは、王都郊外にあるガルフィリアの屋敷に囚われている。
そこにも敵兵がいるはずだが、ジークヴォルトは王都の中心を駆け回っていた。現在はある程度警戒が逸れているはずだ。
「いいだろう。俺としても、姫を
その言葉と共に、屋根の上に禍々しい魔力が満ちる。次の瞬間、骨で出来た
シルフィローゼは思わず身を震わせる。
「こ、これは……!?」
「俺はルグドゥラを取り込み、
『
その年月を経ていないジークヴォルトの支配下には、ひとつの例外を除いて最下級の
「この
「で、ですが……それではあなたが『聖教』に異端認定されるのでは……?」
この場で無数の
「むしろ好都合だ。そろそろ聖教とも事を構えようと思っていた所だからな」
「わ、分かりましたわ。……それでは、混乱に乗じ
そこで一息置き、シルフィローゼは問いを発する。答えはすでに察している。
それでも、どうしても口にせずにはいられなかった。
「最後に、あなたの目的を聞かせていただいても?」
「決まっている――ガルフィリアだ」
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