第25話 おいで、おやつをあげる
「ふんふん、ふ~ん」
学校が終わり、帰り道、渚咲と一緒に帰ることになったのだが、彼女は機嫌がいいようだ。
「何だか嬉しそうだけど、いいことあった? 試験の結果が良かったとか」
「試験はあまりよくなかったのですが、明日の亮平くんの誕生日、何をするのか考えていたら楽しくて」
両手を合わせて笑う彼女の笑顔はまさに天使のようで俺はその笑顔にドキッとした。
試験が悪かったというが、多分、俺よりいいんだろうな。
「祝ってもらえるのは嬉しいけど、無茶しないようにな」
「大丈夫です」
家に着くとリビングに明かりが灯っており、お母さんが帰ってきていることに気付いた。
「ただいま帰りました」
「お帰り、渚咲ちゃん、亮平。タルトあるけど食べない?」
「タルトですか? 食べたっ……? も、モカさんじゃないですか!」
渚咲はソファの近くにいる犬のモカに気付くと飛び付くんじゃないかと思うほどの勢いでモカに触りに行っていた。
「モカさん、お久しぶりです」
「あらあら、渚咲ちゃんとモカ、癒しセットね。渚咲ちゃん、モカにおやつあげてみない?」
お母さんはそう言ってモカがよく食べているドックフードをお皿に出して渚咲に渡した。
「やってみます」
「ん? 渚咲?」
なぜか渚咲は俺の服の裾を掴んできて、俺はどうしていいのか困る。
「い、一緒に……」
「一緒に……ん、わかった」
初めてのことだから不安なんだろう。食べさせることは難しいことではないが、渚咲を見守ろう。
「お皿を近くにしたら食べてくれると思うよ」
「は、はい……モカさん、おいで……おやつですよ」
お皿をモカの近くへ持っていくと気付いたモカはゆっくりと近づいてきて、食べ始めた。
「! たっ、食べましたっ! 可愛いです」
(確かに渚咲とモカの組み合わせは癒しセットだな……いつまでも見てられる)
「モカ、1週間ぐらいいるから良ければお世話、渚咲ちゃんにもお願いしたいわ」
「お願いされました! モカさんのお世話頑張ります」
小さく両手で拳をぎゅっとさせて、モカが食べるところをじっくり観察する渚咲。すると、お母さんは彼女に話しかけた。
「そう言えば、渚咲ちゃん。来週から三者面談だけど、桃ちゃんが来るのかしら?」
自分の部屋へ行こうとしたが、俺も気になり、耳を傾ける。
渚咲の母である桃花さんは海外にいて、父親は仕事に忙しく、家族とはあまり会っていない人。どちらが渚咲の三者面談に来るのだろうか。
「お母様です。お仕事、大変みたいですが来てくれます」
お母さんと短い時間だが会えることに渚咲は嬉しそうに笑う。
やっぱり彼女には笑顔が似合う。彼女が笑っているとなぜか俺まで笑顔になってしまう。
***
翌朝。今日は学校もないので遅めの時間に起きた。まだ寝れると目を閉じそうになったが、そろそろ起きなければお昼になると思い、体を起こす。
「よく寝た……」
テスト習慣は遅い時間まで起きていたため久しぶりにこんなに寝た。
(カーテンを開けて日の光を……ん?)
手をベッドの上へ置くと何かを触れたような気がしてゆっくりと手の方へ視線を落とす。すると、そこにはベッドに突っ伏して寝ている渚咲の姿があった。
(なっ、なんで…………ここに渚咲が?)
何となく手を伸ばし、頭を優しく撫でると「ん」と声が聞こえ、慌てて俺は頭から手を離す。
「亮平くん…………?」
「…………お、おはよう」
なぜここにという前に挨拶すると彼女は顔を上げて俺の顔をじっと見つめた。
「おはよう……ございます……! す、すみません、寝るつもりはなかったです!」
状況を把握すると渚咲は立ち上がりペコペコと頭を下げた。
「中々起きてこられないので心配で見に来たのですが、あまりにも寝顔が素敵でしたので見とれていて……気付いたら寝てしまいました」
「ね、寝顔…………」
(変な顔してなかったかな……)
寝顔を見られたのはこれで2回目だ。1回目は確か渚咲がこの家に初めて来た時だ。素敵といわれたのでまぁ、大丈夫な顔だろうけど。
「起こしに来てくれてありがと」
「いえ、私が……りょ、亮平くん!? なっ、なぜ脱いでいるのですか!?」
「…………! いや、ごめん。俺、まだ寝ぼけてるみたいだ」
渚咲がいるというのに寝間着から外に出かける用の服へと着替えていたことに気付き、急いで服を着る。
「いい体してますね」
「いい体?」
「はい。ぎゅ~したときに気付きましたが、しっかりされた体だなと……少し触っていいですか?」
「…………触る?」
聞き間違えたかと思い、数秒反応に遅れてしまった。
「ツン、ぐらいでいいので」
「…………恥ずいんだけど」
「先ほど、私の前で脱いだのに?」
「あっ、あれは……無意識に……その……」
「ふふっ」
俺が困った様子を見た渚咲はクスッと小さく笑った。
「困らせてしまいすみません。では服の上から」
「どれだけ触りたいんだ……まぁ、服の上からなら構わないが」
「ありがとうございます」
では、さっそくと渚咲は人差し指でお腹辺りをつついてきた。
「満足です」
「そりゃ良かった」
「…………はっ、忘れてました!」
突然、渚咲がハッとしていつもより大きな声を出したので俺は驚く。
「どうかしたのか?」
「えっと、会ったらすぐに渡すつもりだったのですが、忘れてしまって……お誕生日おめでとうございます、亮平くん」
渚咲から可愛らしくラッピングされたものを受け取り、自分が誕生日ということを思い出した。
お祝いしなくてはみたいな感じだったからプレゼントをもらえると少し期待していたので素直に嬉しい。
「ありがとう。開けてもいい?」
「もちろんです」
何だろうかとワクワクしながらリボンをほどき、中を見ると中にはハンカチと小さな長方形の箱が入っていた。
箱の中を開けるとシャープペンシルが入っており、ハンカチにはRとイニシャルが入っていた。
「Rって俺の……」
「はい。亮平くんです」
「……ありがとう、渚咲。すっごい……嬉しい」
顔を上げて彼女にお礼を言うと渚咲はふんわりとした笑みを浮かべた。
「喜んでもらえて良かったです。ですが、まだ終わってませんよ?」
「……終わってない?」
「はい。私からのプレゼントはまだありますので楽しみにしてください」
「わかった。楽しみにしてる」
17歳の誕生日。朝から嬉しいことがあり、今日は特別な日になる予感がした。
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