第23話 渚咲の嫉妬と気付き
試験後。前に話していた通り、学校が終わるとカラオケに向かった。
最初は自分含め渚咲、胡桃、海人と4人で行く予定だったが、彩音と真綾も来ることに。
急遽来ることが決まった2人はどうやら胡桃が誘ったらしい。
「私だけクラスが違いますけど大丈夫でしょうか?」
真綾はカラオケルームに入り、座る場所が決まるとここにいるメンバーを見た。
「大丈夫! クラスなんて関係なしだよ、まーちゃん。友達なんだし」
「胡桃さんは本当に優しい方ですね」
「いやいや、まーちゃんの方が優しいって」
目の前で真綾と胡桃が話している中、俺は隣に座ってそわそわしている渚咲に気付いた。
(もしかして、会話に入りたいとか……?)
座る位置は来た順に座っていったので、もしかしたら本当はここじゃなくて胡桃と近いところにいたかったんじゃ……。
あっちに座ったらどうかと尋ねようとすると隣にいる彩音に渚咲は話しかけられていた。
「藤原ちゃん、カラオケとかはよく行く?」
「いえ、実は初めてでして……」
「そうなんだ。なら私がカラオケの楽しみ方、教えてあげるよ」
彩音はそう言って渚咲の肩にポンッと手を置いて不適な笑みを浮かべた。
「おい、藤原に悪いこと教えるなよ」
「え~、亮平、藤原ちゃんに過保護な親みたいになってるよ。まぁ、藤原ちゃん、ピュアでいい子だから守りたいのはわかるけど」
ぎゅーと彩音は渚咲のことを抱きしめると目の前に座っていた胡桃がバッと立ち上がった。
「ちょっと、彩音ちゃん! 渚ちゃんに抱きつくのは私だけなんだからね!」
「藤原ちゃんは胡桃のものじゃないでしょ。てか、誰が1番に歌う? 真綾いっとく?」
彩音は目の前に座る真綾にマイクを手渡すと真綾は私ですかと言いたげな表情で、少し困っていた。その様子を見ていると真綾と目が合った。
「亮平くん、良ければ一緒に歌えるものを歌いませんか?」
「俺と? いいよ。藤原、そこに置いてあるマイク取ってくれないか?」
真綾の近くにもう1つマイクがあるが俺では届かないので隣に座る渚咲に頼むが彼女はプイッとそっぽ向いてしまう。
「藤原?」
「八神くんは茅森さんを選ぶんですね。私とはハグする仲なのに」
「っ!」
ぷくぅとリスのように頬を膨らませてなぜか怒っている渚咲に急にどうしたんだと思っていると話を聞いていた彩音が食いついてきた。
「ハグ? 何々、何の話?」
「なっ、何にもない! なっ? 藤原」
「…………そうですね」
渚咲はそう言うと無言でマイクを俺に手渡してくれた。
よくわからないが怒らせたのは間違いない。後で謝ろう。
「春風さん、飲み物入れにいきませんか?」
「ん、いいよー」
何を歌おうか真綾と話していると渚咲は彩音とカラオケルームを出た。
***
「ねぇ、藤原ちゃん。亮平のこと好きなの?」
「!」
カラオケルームから出て飲み物を入れていると私、藤原渚咲の隣で何を飲もうか悩んでいる様子の春風さんに話しかけられた。
「わ、私が亮平くんをですか?」
「ありゃりゃ、もしや無自覚……。いや~、真綾と話してるとき、藤原ちゃん、ぷく~ってリスみたいな顔してたからもしかして真綾と亮平が仲良くしてるとこ見て嫉妬したのかなって」
(嫉妬……そう、なんですかね……)
確かに亮平くんと茅森さんが仲良くしているのを見てモヤモヤしている自分がいた。これが嫉妬だとしたら私は亮平くんを好き、もしくは独占したい的なことを思っているのだろう。
「は、春風さん……もっと知りたいと思って、一緒にいると落ち着いて、これからもずっといたいと思う……これは恋でしょうか?」
恋愛の経験がなく、何が恋なのか、恋じゃないのかが私にはわからない。男子とよく話す春風さんなら答えを知っていそうだ。
「私はそうだと思うけど、これが恋なのかどうかは藤原ちゃんにしかわからないかなぁ」
「私にしか……。あの、ハグしたくなるとか、手を繋いだら落ち着くとか……触れあいたくなるのは……」
「えっ、ハグ? 手? 藤原ちゃん、それはもう恋だよ」
春風さんは私の肩にポンッと片手を置いて、そう断言する。
「こ、恋なんですか?」
「うん。友達に触れあいたいとかあんまり思わないし。藤原ちゃんが亮平のことを特別に思ってるなら藤原ちゃんは亮平のことを好きだと思うよ?」
「…………好き、ですか」
亮平くんのことを思うと不思議な気持ちになり、体温が上がっていく。
「さて、戻ろっか」
「はい……春風さん、ありがとうございます」
「恋話好きだしいいよ~」
手を振って歩いていく。
春風さん、ちょっぴり怖い方だと思っていましたが、優しい方ですね。
***
皆さんと別れて八神家へと帰るとリビングの明かりがついていて、ソファには裕子さんがいた。
「ただいま帰りました」
「あら、お帰り。渚咲ちゃん、亮平」
「ただいま。今日は帰り早いね」
「そうなの。だから張り切って夕飯もう準備しちゃったからいつでも食べていいからね」
「ありがとうございます」
「ありがと」
リビングから離れると私と亮平はお互い自分の部屋へと入っていく。
1人になると制服から部屋で過ごしやすい楽な格好であるワンピースに着替え、鞄から試験の問題用紙を取り出す。
今回の試験、自身はあるが自分が納得できるほどなのかと言えば微妙なところ。
これまでずっとお父様に凄いなと言ってもらえるよう頑張ってきたが、本当に今やっていることは意味があるのだろうか。
用紙をじっと見ていているとコンコンとノックする音がした。
裕子さんだろうかとドアを開けるとそこには亮平くんがいた。
「どうかしたのですか?」
「……いや、カラオケのときのことで謝りたくて」
「カラオケですか?」
「うん。渚咲、何か怒ってたから悪いことしたかなって」
「…………! あ、あれは別に怒ってませんよ! 怒るというか羨ましかったんです。なので気にしないでください」
「……そ、そっか。良かった……」
亮平くんは怒らせていないとわかった瞬間安堵しており、小さく笑った。
(…………笑っている亮平くん、好きです)
「夕食、食べませんか?」
「そうだな」
「ふふっ」
「渚咲?」
亮平くんの腕にぎゅっと優しく抱きつき、目を閉じる。
ずっとなんて無理なのかもしれませんが、今は同居人として隣にいたい。
「亮平くん、頭を撫でてくれませんか? 試験頑張ったねのご褒美が欲しいです」
完璧とも言える上目遣いに天使のような笑顔で見つめてくる彼女。
(小動物っぽい……ラテみたいだ)
手を伸ばし、優しく頭を撫でると渚咲は嬉しそうに笑い、手を止めると今度は俺が撫でられた。
「亮平くんもよく頑張りました」
「…………ありがとう」
「こちらこそありがとうございます。私、亮平くんに頭を撫でられるの好きみたいです。手を握られるのも抱きしめられるのも好きです」
好きと言われて嬉しくないわけじゃないが、警戒されていないのは少し心配になる。もし、他の男にもそういうことを言うようになったら危険だ。けど……
「俺はちゃんと渚咲が頑張ってる姿を見てる。だから要望があればいつでも甘えていいからな」
「いつでも……わかりました、頑張ったその時はたくさん甘えちゃいます」
もうとっくに気付いている。俺と渚咲の距離感は同居人を超えていると。
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