第21話 看板を台無しにしたのは誰なのか(前編)
中学1年の時。部活で仲が良かった先輩に生徒会に誘われ、生徒会へと入った。
最初は誘われたから入っただけで興味があったわけじゃなかったが、生徒会の仕事をしているうちに学校のために何かやることが好きになっていた。
中学2年の秋。生徒会選挙が行われた。先輩みたいにと生徒会長に立候補し、何名か立候補者がいたが投票により生徒会長になることができた。
今日から頑張ろう、そう思っていたが、文化祭の準備期間である出来事が起こった。
文化祭まで後1週間。放課後は文化祭準備を行っていて皆、勉強や部活と忙しい中、残れる日は残って準備を進めていた。
日が暮れると人数は減っていき、そして下校時刻になると最後までいたクラスメイト達が帰っていく。
「じゃあ、八神、戸締りよろしく」
「ほんとありがと、八神くん。鍵返すのお願いします」
「うん、わかった」
特に急ぎの用事もないので教室の戸締りを引き受けた俺も遅れて帰る準備をする。
(完成まで後少し……だな)
みんなで協力して作った看板を見て教室を出ると鍵を閉めた。
翌日。事件は起きた。教室に行くと絵の具を乾かすために置いていた看板が黒いペンキで塗りつぶされていた。
「あっ、りーくん。おはよ」
「おはよ。何があったんだ?」
教室に入ってすぐ、胡桃は俺のところへ駆け寄ってきた。
「今日1番に教室に入った子が来たらもうこうなってたって……」
「…………酷いな」
誰がこんなことをやったのだろうか。この看板が気に入らない人がいた?
教室を見渡すとこちらに向かってきた女子がいた。鈴宮さんだ。
「ねぇ、これやったの八神くんなんでしょ?」
「えっ」
俺の名前にクラスメイトは皆、反応し、一気に視線が俺へと集まった。すると、近くにいた胡桃が口を開いた。
「ちょっと、鈴宮さん。何の根拠もないのにりーくんだって決めつけるのは酷いよ」
「決めつけじゃない。放課後、最後に鍵の戸締りをしたのが八神くんだから犯人の可能性は低くないでしょ? 最後だったら誰もいないところでこそこそできるし」
「可能性が高くてもりーくんはこんなことしないよ?」
「友達を庇いたいのはわかるけど、私は今、八神くんと話してるの。ねぇ、どうなの?」
鈴宮さんは真っ直ぐと俺のことを見てくる。
「俺はしてない。確かに最後に戸締りをしたのは俺だけど」
「そう、認めないのね。この赤い絵の具、美術室から借りてきたものみたいだから私、先生に聞いたの。これを借りたのは誰かって」
「絵の具を借りるには学年、クラス、名前の記入がいるんだっけ?」
「そうだよ。で、見せてもらったけどそこに2年3組八神亮平ってあったよ?」
口だけじゃ、と思ったが、鈴宮さんは記入の紙を俺に見せた。
当然、俺はここに昨日、今日と一度も自分の名前は記入していない。
けれど、クラスの人気者で信用されている鈴宮さんの言葉は嘘だとは思われにくいため彼女の言葉をクラスメイトは信じ始める。
「これ、八神確定だろ」
「だな。絵が気に入らなかったからこんなことしたんじゃね」
「最低。どうすんのよ、時間もないのに」
クラスメイトがそういう中、なぜか鈴宮さんは楽しそうで俺の顔を覗き込んできた。
「どう? 認める?」
どこで、彼女に俺にこんな嫌がらせのようなことをするきっかけがあったのかはわからない。けど、確実に今言えるのは彼女が俺を犯人したいということだけだ。
「認めない。していないことを認めるわけがない」
「犯人がよく言いそうなやつだね。認めた方が楽だよ?」
鈴宮さんの言葉にクラスメイトは「早く認めろよ」とか「認めないってことはやっぱり犯人じゃね」と口にし、もう俺を犯人にする流れが出来てしまっている。
「鈴宮さん、いい加減にしてよ。りーくんはそんなことしないって言ってるじゃん」
「多々良さん、この紙が何よりも証拠だよ。多々良さんは犯人じゃないって言ってるけど、その証拠は? 何か八神くんがしてないって言える根拠でもあるの?」
「根拠はさっきも言ったけど、友人としてりーくんはそんなことをしないってことを私は知ってる。だから犯人じゃない」
胡桃はそう言うと俺の隣に来て、「私はりーくんのこと言うことを信じてるから」とボソッと呟いた。すると、静かに何も言わず近くにいた海人が俺の前に立ち、鈴宮さんから紙を奪った。
「俺も亮平とは思えない。てか、この字、亮平じゃないし、他の誰かが書いたんじゃないのか? やたら亮平を犯人にしたそうな鈴宮さんが」
「! ひっ、酷い……私、こんなことしないよ……」
鈴宮さんは海人の言葉に泣き、周りにいた女子達が大丈夫?と駆け寄ってきた。
「村野くん、酷いよ。玲奈ちゃんがそんなことするわけないじゃん!」
庇うように鈴宮さんの友達はそう言うが、海人はめんどくさそうに何も言わず小さなため息を付いていた。
鈴宮さんの味方は多い、俺が違うと言ってもやっていないと言いきれるような何かがあれば……いや、逆だな。本当にやった犯人を見つけた方がいい。
クラスの雰囲気がギスギスし始めたその時、教室の端にいたギャルの春風彩音がこちらへやって来た。
「はぁ……犯人探しはいいけどさ、これからどうするのか考える方が先じゃないの? ね、鈴宮ちゃん?」
彩音はニコッと笑いかけると鈴宮さんはコクりと頷いた。
「じゃ、犯人探し終了ね。海くん、胡桃、亮平、この看板、空き教室に持っていくの手伝ってくれる?」
「あぁ」
もう飾ることが不可能な看板だが、ここに置いていては授業の邪魔になるため4人で運び、空き教室に着くと看板を壁に立て掛けた。
「亮平、鈴宮ちゃんの言うこと、全部嘘だから気にしなくていいよ。無視が1番」
「彩音は俺がやったとは思ってないんだな」
「思っていないというか絶対あれ、鈴宮ちゃんが犯人でしょ。多分、亮平が生徒会長になって不満だから嫌がらせしたいだけ。鈴宮ちゃんがここ最近、裏で亮平のこと悪くいってるみたいだし」
彩音がそう言うと胡桃は「何それ!」と大きな声を出す。
「不満だからって嫌がらせは違うでしょ! てか、鈴宮さん、酷すぎ」
「私も胡桃に同意。クラスのみんな、ほとんど鈴宮ちゃんの味方だから何かしら彼女がやったって証拠があれば亮平の無実は証明できるんだけど、誰も見てないっぽいし」
ん~と彩音は腕を組んで何かいい方法はないかと考える。
(俺が生徒会長になったことに不満……か)
鈴宮さんは生徒会長に立候補していた1人だ。生徒会長になれなかったが、役員の1人として生徒会にいるがまさかそんなことを思っているとは知らなかった。
「美術室に行ってくる」
「私も行こうか?」
「ううん、1人で大丈夫。ありがとな、胡桃」
時計を見て授業が始まるまでまだ時間があることを確認し、俺は美術室に向かう。着くと静かに扉を開けた。
「失礼します」
「矢神さん? どうかしましたか?」
授業の時間でもないのに生徒が来たので美術の先生は俺のことに気づくとこちらへ向かってきた。
「先生、ここに昨日か今日、鈴宮さんが来ませんでしたか?」
「鈴宮さんなら昨日、下校時刻ギリギリに絵の具を借りに来て返しに来たわよ。あっ、鈴宮さんといえば借りたんだけど、名前を書き忘れていたから後で言っておかないと」
(書き忘れた……)
机の上に乗っている絵の具など美術室から何かを借りたときに書く紙を見つけると手に取る。その紙はグリップボードに挟んであり、2枚目以降はまだ名前がなく白紙だった。
確か、鈴宮さん……鈴宮が俺に見せた紙には俺の名前しかなかった。
(わざわざ俺のせいにするために新しい紙をここから取ったのか)
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