第7話 放課後の寄り道
「渚ちゃん、一緒に帰ろっ! でっ、寄り道しよ!」
放課後になると胡桃はすぐに藤原の元へ荷物を持ってやって来た。
「寄り道……ですか?」
「うんうん、ショッピングとかどう?」
「ショッピング……楽しそうです!」
藤原の目は輝いており、自分のことじゃないのに彼女が楽しそうな姿を見て俺は嬉しくなった。
頼れる人、友人もいないと以前聞いたからだろう。仲良くなれる人と出会えて良かった。
「りーくんも行かない?」
「俺も?」
「うん。海人も行くから行こうよ」
胡桃に誘われ、チラッと隣を見ると藤原がキラキラした目をして行きましょうと言いたげな表情をしていた。
「特に予定もないし俺も行こうかな」
「やったっ! じゃあ、4人で楽しくショッピングだね!」
今日、この時になるまで藤原と友達2人とで遊びに行くなんて誰が想像しただろうか。ついこの前までなら絶対になかっただろう。
藤原は今まで特定の人と仲良くしていなかったのでクラスメイトは、俺たちと今日1日ずっと一緒に行動していることに気になっていたようだが、視線を感じるも誰も声はかけてこなかった。
教室を出て、ショッピングモールへ行くまで俺が藤原と隣の席なのにまだ話せていないということから胡桃と海人が前を歩き、その後ろに俺と藤原は並んで歩くことになった。
家でたくさん話してるのだが、同居してるとは言えない。
話すことなく歩いているとツンツンと腕をつつかれ、隣を見ると藤原が何か話したそうで近くに来てと手を使ってジェスチャーしていたので、近寄って耳を傾けると彼女は小さな声で話した。
「藤原くん、裕子さんには帰りが遅くなること伝えしておきました」
「ありがと。後、お弁当のことも」
「いえ……お弁当の中身も気を付けなければいけませんね」
「そうだな」
お弁当の時、海人から怪しまれていたが、今度また何かあれば適当な嘘で誤魔化すことはできなさそうなので気を付けなければバレる。
ショッピングモールは帰り道にあり、着くと最初はゲームセンターに行くことになり、そこへ向かった。
藤原はゲームセンターに来たことがないようで、たくさんのゲームがあることに驚いていた。
「す、凄いです! 家以外でもゲームができるんですね」
「渚ちゃん、ほんとにやったことないんだね。よしっ、胡桃様が教えようぞ」
「はいっ、よろしくお願いします!」
女子2人がどのゲームからやろうかと話してる姿を黙って見ていると海人が隣にやってきた。
「今日確信に変わったんだけど、昨夜、亮平の家に藤原さんいたよな?」
「…………声でわかったのか?」
「まぁ、それとお弁当で」
「そっか。実は少し前から藤原が俺の家に来て同居してる」
「へぇ……って、同居? それまたなんで」
彼女は遊びに来たと思っていたらしく、海人は同居というワードに驚いていた。
「藤原の母親が海外に3ヶ月間行くみたいで子供1人を日本に残すのはってことで仲のいい俺のお母さんと話し合った結果同居になったらしい。俺は藤原が来るまで全くこの話は聞いてなかったから俺も驚いた」
「なるほどな。ちなみに同居のこと知ってる人は?」
「海人に初めて教えた。あまり知られたくない話だし」
決して藤原との同居が嫌で話したくないわけではない。話が広まったら藤原に好意を持っている男子に睨まれたり、変な噂が流れたりする可能性があるからだ。
何事もなく平穏に過ごす、これが高校生活で俺が一番大切にしていることだ。
「なら胡桃にも内緒にしておく。まぁ、バレるのも時間の問題だろうけど。良かったな、同居人が藤原さんで」
「何でだ?」
「だって知らない人よりはいいだろ? それに話してみたかった人でもあるんだし」
確かに知らない人より知っている人の方がいい……のかも。その点でいうと同居人が藤原で良かった。
「海人、りーくん、エアホッケーやるよ!」
「おう。チーム分けは? グッパするか?」
「うん、そうだね、そうしよ!」
海人の提案により、グッパでチーム決めをすることになった。結果、海人と胡桃、俺と藤原とチームに分かれた。
「八神くん、頑張りましょうね」
「あぁ。俺、これはあんまり得意じゃないけど全力でやるよ」
「私も初めてですが、2人で協力すれば大丈夫です」
そうだ、これは1人じゃない。2人で協力してやるゲームだ。
ゲームが始まると俺と藤原は声を掛け合って、穴に入らないようにする。
「藤原、そっち」
「はいっ、入れさせません!」
子供っぽいかもしれないが周りの目は気にせず、エアホッケーで盛り上がっていた。
「やったっ、海人! 私たちの勝ちだよ!」
「だな」
結果は負けてしまったが楽しかった。横を見ると藤原も笑っていて楽しんでいたことがわかる。
「藤原、良かったよ。ナイスカバーリング」
両手を出すと藤原は俺がしたいことがわかったのか両手を出して重ね、パチンと音が鳴った。
「八神くんも良かったです。得意じゃないと仰っていましたが、上手かったですよ」
「ありがと」
「放課後にこうして誰かと遊んだのは初めてなのですが、楽しいですね」
「そうだな」
2人で話しているとこちらを見ていた胡桃がニヤニヤしていた。
「何だよ、胡桃」
「いや~仲良しで良き良きって思ってね。さて、お次はダンスバトル!」
「ダンス? ゲームセンターではダンスもできるのですか?」
「できるよ。行こっ、渚ちゃん!」
胡桃は彼女の手を取るとダンスゲームのところへ向かった。
ダンスが得意ではない俺と海人は見学し、藤原のダンス姿を見ていたが、上手くて見ていた全員が驚いていた。
ゲームが終わると胡桃は藤原の元へ駆け寄ってぎゅっと抱きついた。
「渚ちゃん、上手すぎ! 可愛いし、カッコ良かった!」
「そ、そうですか? 先に踊っていた胡桃さんの真似をしただけですよ」
「真似してできるとか凄っ。いや~、運動したらお腹空いてきたね。渚ちゃん、何食べる?」
胡桃は誰とでも仲良くなれるのは知っているが、藤原のことを気に入ったのかベッタリな気がする。
(仲良きことはいいことだ……)
女子2人が何を食べるのか話しているのを聞いていると突然、藤原に服の袖を引っ張られた。
隣を見ると上目遣いにこちらを見る彼女がいて、どうしたんだとなぜか小声で尋ねた。
すると、彼女は顔を赤くして慌てて服の袖から手を離す。
「あ、あの、八神くんは、食べたいものありますか?」
「俺? 俺は気分的には甘い系だけど」
「甘い系……ですか」
話ながらフードコートへ移動し、着くと藤原はどんな店があるのか見ていた。
「甘い系ならアイスかクレープ、パンケーキだね」
「「クレープはこの前……!?」」
胡桃の言葉に俺と藤原は全く同じことを言おうとしていて、言葉を止める。
あ、危ない……また変な偶然話をして同居がバレそうなことになるところだった。いや、クレープとなると同居より付き合ってるのかと言われるか。
「渚ちゃん、りーくん、どうしたの?」
「なっ、何でも……な?」
「え、えぇ……何も。パンケーキ美味しそうですね」
動揺しすぎたが、胡桃はそっかと言うだけで特に追跡はせず、一方、海人は1人で笑っているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます