第8話:これは恋。きっと恋

 翌日。黒王子のアドバイス通りは私は月子に告白をしようとした。何を言おうとしているのか察した彼女は慌てて私の話を遮った。その先は私に言わせてくれと。私が黙ると、彼女は謝らなければならないのは自分の方だと頭を下げた。


「あの時、君の言う好きが友達としてではないことに気付いたんだ。それなのに向き合うのが怖くて、誤魔化した。そんな私を君は許してくれたけど、私は許せなかった。ちゃんと、向き合わなきゃって思った」


「……うん。だから、安藤さんに相談したんだよね」


 私がそう言うと彼女は頷き、うん? と首を傾げた。そしてなんで知ってるのかと動揺する。


「月子、やたらと安藤さんを気にしてたから。気になって彼女を観察してたの。そしたらもしかしてって思って。そしたらあの人、やけに軽い感じで告白することを勧めてきて……」


 勝手なことをしてしまったことを謝ると、彼女は私も人のこと言えないからと苦笑いしながら私を許した。安藤さんが彼を責めなかった理由もそれなのだろうか。それならまだ納得できる気がする。

 それにしても、やはり月子は優しい。その優しさに裏がないことはもう分かっていた。だから私も正直に全てを話し、謝罪をした。「友達で良いって言ったのは君を許すためじゃない。私が、怖かったから」だと。


「君を言い訳にして逃げたのは私の方だ。……先に好きって言ったのも、私なのに。勝手だよね」


 それでも彼女は私を責めない。黙って私を抱きしめてくれた。そして「好きだよ」と、震える声で彼女は溢した。その好きは、あの時彼が私にぶつけた好きと同じ感情だなんて信じたくないくらい優しくて、温かくて、涙が込み上げてくる。


「私の嫌いな弱い私を好きだと言ってくれる君が、守ろうとしてくる君が、どうしようもないくらい好き。好きだよ。帆波」


「っ……誤魔化そうとしたくせに……」


「……うん。誤魔化して、告白するって決意してからも何日もかかって結局君の方から言わせちゃった情けない人間が言っても、説得力ないかもしれないけど……私は君を守りたい。守られてるだけじゃ嫌なんだ」


「……もう充分、守られてるよ。出会った時からずっと、私は君に救われてる」


 嫌だという私の声を、誰も聞いてくれなかった。それどころか彼に好意を向けられることを責めた。私は嫌だと、何度もはっきり伝えているのに。彼が一線を超えるまで、誰一人私の味方をしなかった。家族さえも。そんな私に、彼女は初めて会った時から優しくしてくれた。悪い噂を鵜呑みにせず、目の前にいる私の声を聞こうとしてくれた。好きにならないはずがない。生涯を共に出来る人がたった一人しか選べないのなら、その一人は彼女が良い。彼女じゃなきゃ嫌だ。それを恋と呼ばずしてなんと呼べば良いのか。


「好きよ。月子」


「……うん」


「……好き。大好き。愛してる」


「あ、愛……」


「……引いた?」


「う、ううん……嬉しい。私も……その……あ、愛……してる……」


 と、思う。と彼女は自信なさげに締めくくる。流石にそこははっきりと言ってほしいとねだると、彼女は顔を真っ赤にして、言葉を詰まらせながらも私の気持ちに応えようとしてくれる。

 愛おしくてたまらなくて、言い切るまで待てずに衝動的に唇を奪ってしまった。


「あ……い、いま……え……キス……」


「……私の好きは、こういう好きだよ。月子は? 私と同じ? それとも、違った?」


 する前に聞くべきだったと思った。違ったなんて言われたらもう立ち直れない。そんな不安を消し去るように、彼女は言葉ではなく唇で応えてくれた。止まっていた涙が再び溢れ出す。彼女はそれを見て謝るが、謝られることなんて何一つない。これは嬉し泣きなのだと伝えると、彼女もポロポロと涙を溢した。


「ふふ。月子はなんで泣いてるの?」


「私も、嬉しいから。私の恋は、一生叶わないって、思ってたから。男だったらって、一生言われ続けるって、思ってたから」


「……私はきっと、月子が男の子だったら好きになってないよ」


 それは、私が彼女と同じ同性愛者だからという意味ではなかった。だけど言えなかった。言わない方が良いと思った。彼女に余計な不安を与えてしまいたくなかったから。

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