第20話 水着
◆◆◆
――ゴールデンウィークまで僕らは、親御さんの許可を取り、水着を買い、旅行の準備をした。
そしてゴールデンウィーク当日、電車に乗り、空港に向かい、飛行機に乗り込み、あっという間にハワイに到着した。
空港から出ると、強い日差しが僕たちを照りつけた。
「わぁああっ! ここがハワイか――! パパ、もの凄いよっ!」
青子は満天の空に、両手を高く広げた。
「ああ……そうだね……」
娘と違って僕はかなり疲れぎみである。
歳とったなぁ……。
「結構疲れたけど、それ以上に来たかいがあったぜ」
明日香ちゃんは瞳を輝かせてハワイの風景に見惚れていた。
「うふふ……ここがハワイ……世界の中心……。ここでお姉様とわたしは……むふふっ」
瑠衣ちゃんは怪しく微笑み、困り顔の真琴の腕に、汗だくで抱きついていた。
「あ――! あそこの一帯! お母様が経営するビルですぅ」
加奈ちゃんがハワイの高級ビル群を指差した。
「か、加奈……おまえどんだけ金持ちなんだ? 俺にも一個くれ」
「うん、さすがハワイ。いい創作のアイディアがむんむんと湧いてきた♪」
「鳴。あとで私に聞かせてね」
「徹夜で聞かせてあげる、美佳子」
鳴と美佳子ちゃんは笑い合っている。
ふぅー……。 一杯一杯の僕とは違い、みんな元気一杯だなぁ……。
「ううっ……ぎもぢわるいぃぃ……」
一人を除いては。
「大丈夫かい、光?」
ベンチで寝ている光は、真っ青な顔で涙を浮かべ。
「う、うん……パパ………うぅっ! うぷっ……うえぇぇぇ……」
吐きそうで見ていられない。
「膝枕するかい?」
「えっ!」
まぶたをパチクリとさせたあと、青い顔を真っ赤にする。
「え、え――っと………うん……。しょ、しょうがないからさせてあげるぅ……」
膝枕されながら、何か小声で囁く。
「……飛行機酔いするのも……悪くないかも……」
「パパァ――――っ! ぼくも酔った――――っ! ぼくも膝枕してェ――――っ!」
青子が自分の頭を、僕の膝に乗せようとした瞬間――。
「日本に帰れェ!」
気分が悪いはずの光が高速で立ち上がり、青子のすねを蹴飛ばした。
うずくまり――「ううっ」とすねを押さえてぷるぷると震えている。
すぐさまに光は、僕の膝に頭を乗せた。
「んー……熱い。日焼けしそう」
瑠衣ちゃんは汗だくで、真琴の腕に抱きついたまま空を見上げた。
「……日焼け……そうだっ! 日焼け止めクリームなら、お姉様の全身をヌリヌリ塗れる口実になるっ! さすがハワイ!」
「た、頼むから瑠衣ちゃん、思ってもいいけど口には出さないでね、恥ずかしいから。それと、私は日焼けとか気にしないから」
かなり困り顔で言うと、瑠衣ちゃんは顔をずいっと寄せていく。
「いーえ、塗らせてもらいます。お風呂では裸で寄り添っているだけで、お姉様の体身体を直接ヌリヌリできませんから、ぜひ塗らせていただきます!」
「ほ、本当にあなたは、だだ私の身体に触りたいだけなのね?」
「はぁい!」
本当に欲望に忠実な子である。
パシャ。パシャ。
「ん?」
僕の横で美鈴ちゃんが【高性能なカメラ】でハワイの風景を撮っていた。十万円くらいしそうなカメラである。
「美鈴ちゃんどうしたの、その高そうなカメラは?」
こちらを見ずにカメラに集中したまま。
「……5年分のおこづかいで買いました」
「そ、そう……」(でもいまの子って、スマホのカメラ機能とかで済ませちゃうイメージがあるんだけどな……)
「美鈴ちゃん。そんな高いの買わないで、スマホとかじゃダメなのかい?」
カメラを撮る指がピタリと止まり。
「……ふざけないでください……」
「へっ?」
何かを囁いたあと、ぐいっと僕につめ寄り。
「なにがスマホですか! そんなもので、本当に良い風景が撮れると思っているんですかァ! カメラ道を舐めないでください!」
迫力満天の勢いに気圧された。
「は、はひィ……す、すいません……」
大声に反応してみんなは、美鈴ちゃんのことをポカーンと見ている。
はっ! と現状に気づいたようで慌てふためいた。
「す、すいません、おじさん! あたし、死んだ父から カメラ道を教えこまれていまして……つい、カメラの事になると我を忘れてしまうんです、本当にすいませんでした!」
何度も深く頭を下げた。
「い、いや、いいんだよ。僕のほうこそゴメンね、不用意なこと言っちゃって」
「い、いえ………そうだっ! みんなでハワイの風景をバックに写真を撮りませんか?」
「でも……」
膝を枕にして、気持ち悪そうに寝ている光に視線を落とす。
「じゃあ……帰りにしましょうか」
「そうだね」
そのとき――膝を枕にする光がもぞもぞと動き。
「ダメェ……パパぁ、この状態で撮ってぇ……いえ、この体勢のまま撮ってぇ……」
うわごとのようにつぶやいた。
どうやら気分が悪くて状況がわかっていないようだ。こんな体勢で撮られていいわけがない。
「やっぱり帰りにしよう。いいね、光?」
納得がいかない顔でうなづいた。
きっと自分のせいでみんなに迷惑をかけたくないと思っているのだろう。責任感が強い子だ。
そんな光をおんぶして、予約しているホテルにみんなと向かった。
◆◆◆
――20分ほど歩き、僕たちは予約しているホテル前に到着した。
「わあー! ここがロイヤルスイートホテルかー!」
瞳を輝かせ青子は、元気ハツラツに僕の腕を引っ張った。
「早くぅー! ねぇー、早くー! 買ってきた水着を着て海にいこうよっ!」
おんぶされている光以外みんなが同意した。
今日、光は海には入れないだろう。けどその表情は、この中で一番 嬉しそうだった。なんでだろう?
(でも……みんなぁ元気だなぁ……僕は色々とつらい……。歳とったなぁ……)
自分の老いを痛感しながら、みんなと共にホテルの中へと入る。
内装は 豪華絢爛な装飾が施されて綺羅びやかであった。
「マジすっげーぜ! もの凄くハワイ感がででいやがるぜ!」
明日香ちゃんの瞳に$マークが映っている。
僕の腕を青子がぐいぐい引っ張る。
「パパ、部屋に行こうよ!」
「そうだね、青子。光も休ませないといけないし、僕もかなり疲れたしね……」
ロビーでの受付も、日本語に対応してくれる従業員がいてくれて、すんなりと部屋に案内された。
ちなみに予約している部屋は2人部屋を5室だ。
◆部屋割は――
201号室に、僕とぐったりしている光。
202号室に、真琴と瑠衣ちゃん。
203号室に、鳴と美佳子ちゃん。
204号室に、青子と明日香ちゃん。
205号室に、加奈ちゃんと美鈴ちゃん。
光を除いた8人は、海に行く準備をするためそれぞれの部屋に入った。
僕も部屋に入り、ベッドに光を寝かし、ぐったりと椅子に座り込み――「ふぅー……」と長い吐息を漏らした。
しばらくボーっとしていると、コンコン――と部屋のドアがノックされた。
「パパ……」
部屋に入ってきた青子は、ふとももまで伸びている長いパーカーを着用していた。
「へええっ、パパ……見てぇ見てぇ♪」
照れた様子でパーカーを床にストンと落とした。
露出の多い、黒い水着を着用していた。
見せつけるようくるりと回り。
「ねぇーパパ、ぼくの水着可愛いでしょ?」
「う、うん……。でも……少し大胆すぎやしないかい?」
あきらかに中学生には似合わない派手な水着だった。
頬を赤く染め、セクシーポーズをとった。
「パパを、脳殺してあげるんぅ♡」
だが、全然まったくピンとこなかった。
「いや……まったくできてないよ……」
「ぶぅー、ざんねんっ」
若干あきれて言うと、青子が唇をとがらせた。
「パパに、変なもん見せてんじゃないわよぉ……」
ベッドで寝ている光がうわごとのようにつぶやいた。
夢でも見ているのだろうか?
「光……大丈夫?」
心配そうに妹の顔をのぞき込んだ。
「治るまで僕が診ているよ」
「えぇー! じゃあパパは、一緒に海に行かないの?」
「うん。僕の事は気にしないで、みんなで楽しんできなさい」
青子は「う~~ん」とうなったあと、にんまりと笑う。
「仕方ないか。パパ、妹をよろしくねぇ。テレパシーでパパに、ハワイの映像と音声を送ってあげるから、楽しんでねー! じゃあねぇー、パパ!」
別にいいよ、と言う前に、長いパーカーを着て、足早に部屋から出ていってしまう。――と同時に、青子が見ている映像と聞いている音声が、僕の頭の中に流れてくる。
ホテルの廊下を歩き、真琴と瑠衣ちゃんの部屋、202号室に入った。
部屋の中には、他の7人もいた。
みんなはお互いの水着を見せ合っていた。
「可愛いわね、美佳子ちゃんの花柄の水着」
真琴が褒めると、照れながら瞳をきょろきょろと動かした。
「そ、そうですか……。鳴に選んでもらったものなんですけど……」
「美佳子には これが似合うと思って……でも、真琴姉さんのソレ、ナニ?」
ジト目の鳴に指摘され、真琴は自らの水着を触る。
「え? スクール水着だけど」
「真琴さん……。いくらなんでも、スクール水着はないと思いますよ。しかもハワイで……」
美佳子ちゃんも若干あきれぎみだ。
「でも、もったいないでしょ? 水着って結構高いし。それに、結構似合ってるんじゃないかな?」
らしくないセクシーポーズをとった。それに瑠衣ちゃんが即座に反応する。
「素晴らしいです、お姉様ぁ! お姉様には、その黒くピッチリしたスクール水着が、至高です! 究極です! ミラクルです! シンプルなのにマニアックぅ、これほどそそるデザインの水着は総じてありません! はやく日焼け止めクリームを中にぬりぬりしたいぃ―――っ!」
興奮して舌舐めずりする瑠衣ちゃんに、真琴は引き気味になっている。
「そ、そう、ありがとう……」(着てこなきゃよかった……)
あきらかに後悔がみてとれた。
「でも瑠衣、おまえの水着はなんだよ?」
明日香ちゃんは、瑠衣ちゃんの水着を見て「ぷぷっ」と笑いを堪えている。
「まるで子供が着る水着じゃねぇか……くくくっ、クマさんマークって……ぶははははっ!」
動じる事もなく瑠衣ちゃん誇らしげに胸を張った。
「ふふーんだ。この水着は、わたしのちっちゃくて可愛いボディーに適した、最高のデザインの水着です。より可愛さが強調され、完璧にして究極のコーディネートです」
自信にあふれる態度に美鈴ちゃんは苦笑する。
「そ、そこまで幼児体型に誇りを持たれると、なにも言えないわね……」
「美鈴。その白いビキニ、とっても似合ってるね」
「えっ? そ、そう」
真琴に褒められ、頬を赤くした。
「うん。それにスタイルもいいし、最高に似合ってるよ」
「ほ、ほんと? あ、ありがとう、真琴……」
耳まで真っ赤にしている。
次に真琴は、青子の水着を半目で見る。
「それに比べ、青子……あなたはなに? その水着は……? 中学生にしてはハデすぎじゃない?」
「あー、まこ姉ぇもパパと同じこと言ってるー……あっ! そういえば!」
思い出したように両手を叩いた。
「パパは光が治るまで、部屋で看病してるってさ。だから、みんなで楽しんできなさいだってさ」
真琴は眉をひそめ――。
「そう……残念ね。じゃあ、パパと光の分まで楽しまなくちゃね」
水着の上から長いパーカーを着て、部屋から出ようとした真琴を、明日香ちゃんが呼び止める。
「なーなー真琴。この俺のセクシー水着はどうよ? 似合ってるだろ?」
セクシーポーズをとった明日香ちゃんの胸に、みんなの視線が交錯する。
あきれた様子で青子は首を振った。
「いや、まったく胸ないじゃん。セクシーというよりヘクシーだよ」
「なんじゃそりゃァァ――っ!」
憤慨する明日香ちゃんに真琴は苦笑し、妹 鳴の水着に視線を移す。
「鳴の水着……よく見ると……。え――っとぉ……なに? そのツギハギだらけの独特な水着は?」
「いらない水着を、切って貼って縫って作った。イエーイ」
無表情でピースサインを向けた。
「さ、さすが、鳴ね……。絵本作家志望ね……。そういう独創性も大事だと思うわ……」
なにか無理やり褒めた感じだ。
加奈ちゃんは羨ましそうに、みんなの水着を眺めていた。
「みんな、似合ってていいですねぇ。わたくしなんて身体が大きいから、選べる水着が少なくて羨ましいですぅ。もっと、小さく生まれてくればよかったのに……」
しゅんとしてしまった。
たしかにあの高身長では選べる水着は少ないかもしれない。
落ち込む加奈ちゃんに、真琴は明るく笑い。
「そうかな……。お風呂に入っているときから思っていたんだけど、加奈ちゃんは高身長だし、胸も大きいし、美人だし、将来トップモデルになれると思うよ。加奈ちゃんのことを羨ましいと思う人も多いはずだよ」
「え? そ、そうですか? うれしいですぅ、真琴さん……」
両手を合わせて喜んでいる。
青子はじ――っと、加奈ちゃんの大きな胸を見つめ。
「たしかに、胸はぼくと同じくらいの大きさかな。ぼくたち巨乳コンビだね。光と明日香は『まな板』コンビだけど」
チラッと青子は、明日香ちゃんの胸を見る。
「まな板ァ言うなァァ――ッ!」
「ううっ、青子……ブっ飛ばす」
明日香ちゃんが怒鳴ると同時に、横で寝ている光から声が漏れた。
聞こえていたのかな? まさかね?
「じゃあみんな、海に行きましょうか」
真琴を先頭に8人は、水着の上から長いパーカーを着て海へと向かって行った。
ベッドで寝ている光は「すーすー」と静かに寝息を立てていた。
「ふぁ~……僕もちょっと寝ようかな」
つられるようにあくびをしてベッドに寝転がる。
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