第19話 墜落
◆◆◆
――時が経ち、ゴールデンウィーク初日、空港――。
僕と野球部のメンバーはいま、飛行機に乗り込んでいた。
明日香ちゃんは興奮した様子で隣に座る青子に話しかける。
「おおー、初海外だぜぇ。緊張するな……。なあ、青子……」
「う、うん……」
「な、なんかおまえ……顔色わるいぜ?」
「い、いや……墜落とかしないかなって思ってさ……」
「するわけねェーだろ、アホっ! いつの時代の人間だよ、らしくねー! これくらいでビビってどうすんだよ!」
「し、仕方ないもん……。ぼ、ぼくだって、苦手なものは苦手だもん……」
声が本気で震えていた。
「はぁー。せっかくの初飛行機……。お姉様の隣に座れないなんてぇ……」
後ろの座席に座る瑠衣ちゃんは、がっくりとうなだれていた。
隣に座る加奈ちゃんが にこやかに笑いかける。
「瑠衣さん、元気だしてくださいよぉ。もし墜落したら、このわたくしの大きなボディーで守ってあげますから」
「墜落死する前に、わたしのちっちゃくて可愛い自慢のボディーがぺっちゃんこになっちゃうわよ!」
さらに後ろの座席に座る鳴が、隣に座る美佳子ちゃんにミカンを手渡す。
「美佳子、食べる」
「うん、ありがとう、鳴。楽しみだね、ハワイ」
「そうだね。ハワイを舞台にした絵本でも書こうかな」
「どんな?」
「墜落する飛行機の中での、死と恐怖と愛の人間ドラマ」
「え、絵本のリアリティー越え過ぎてない?」
(な、なんでみんな、そんな墜落ネタばかりなんだろう?)
疑問に思いながらも……ふと、隣を見ると、真琴の表情がわずかに青ざめていた。
「もしかして真琴……怖いのかい?」
ギコちなくこちらに振り向き。
「う、うん……。パパ……ごめんね……。ナイショで、手を握ってくれないかな?」
「いいよ」
震える手を こっそりと握った。
ほっと息をつく。
「でもよかったの、パパ。みんなをハワイに連れてきちゃって?」
「そんな事か。あのとき言ったろ?」
僕がハワイに行く事を告げたときの、みんなの反応は―――
―――――。
「え――っ! ホントですか――? おじ様――っ!」
「うん、加奈ちゃん」
「やったぜ、おじさん太っ腹!」
明日香ちゃんを始め、テーブルに座るみんなは凄く喜んでくれた。
「もちろん、みんなの親御さんの許可を取ってからだけどね。全員で行けなかったら意味がないから」
「じゃあ、1人でも行けなかったら、俺たち全員行けないってことっすか?」
不安げな明日香ちゃんに、安心させるように告げる。
「その場合は、もっと良いところに連れていってあげる」
「マジっすかっ! どこっすか?」
身を乗り出した明日香ちゃんの前に、笑顔で指を一本立てた。
「それは、秘密ということで。まずは、ハワイ旅行に行っていいか聞いてからね」
「でも、パパ。なんで急にハワイ旅行に?」
「じつはね、真琴。今日、町内の福引きでハワイ旅行が当たったんだよ」
「ええええッ! マジかよ、すげェーぜェ、おじさん!」
「さすがパパだね! いつもながら豪運の持ち主だぁ」
明日香ちゃんと青子が興奮した様子で褒めてきた。
「そんなことないさ。君たちに出会えたことに比べれば、なんの価値もない運だよ」
ゆるやかに娘たちに視線を送ると、4人は頬を赤くした。
「おじ様、カッコいい台詞ですぅ。今度、絵本で描いてくださいねぇ」
加奈ちゃんは尊敬の眼差しを向けてきた。
「普通だよ、こんなの。思ったことを ただ口にしただけなんだからね」
「おじ様、天然カッコよすぎですぅー♪」
さらにキラキラと尊敬の眼差しを強めてきた。
「ありがとう、加奈ちゃん。で、福引で当たったのがペアチケット1枚だけだったから、せっかくだしみんなで行こうと思ってね」
「さっすが、おじさんだぜ。言うこともやることもかっけーぜ! いいよなーおまえら、こんなオヤジを持ってさ」
羨ましそうに明日香ちゃんが見ると、4人は照れた顔つきでうなづいた。
「でも、お金はどうするんですか、おじ様。わたくしが全額出しましょうか?」
「い、いや……いいよ、加奈ちゃん。僕が全部出すよ。これは『お礼』だからね」
お礼?
みんなは不思議そうに口を揃えた。
「みんながここに泊まるようになってから、僕の執筆活動も好調でね。きっと、みんなのやる気に当てられたからだろうね。だからハワイ旅行は、僕からのささやかなプレゼントだよ」
「やったぜ! ハワイに行けるぜ!」
「は――い! わたくしも、みんなでいけるの楽しみで――す!」
明日香ちゃんはガッツポーズをして、加奈ちゃんは両手を合わせて喜んだ。
「ハワイか……。ずっと北海道から出たことないから楽しみ。鳴もそうでしょ?」
「うん、美佳子。ハワイで一緒に泳ごうね」
「お姉様ァ――っ! わたしたちも一緒に泳ぎましょうね――っ!」
「ええ、いいわよ、瑠衣ちゃん。一緒に泳ご」
「ぼくはカナヅチだからなー。浮き輪持ってこ」
「青子。あんたが溺れても助けてあげないから」
「じゃあぼくも、光の水着がひっかかりもしない胸から滑り落ちて、海に流されても取ってあげないから」
「誰がぺったんこで、マイナスAカップよッ!」
「い、いや、そこまでは言ってないし……。てか、泣かなくても……。ごめんね、よしよし。取ってあげるから、お姉ちゃんが……よしよし」
涙ぐむ妹の頭を、姉の青子があやすように撫でた。
「ハワイか。あたしも行くのひさびさだなー、楽しみ」
「美鈴さんも行ったことがあるんですか? わたくしもひさびさですぅ」
「加奈も一度行ったことがあるの?」
「はぁい。年に3回」
「そ、そう……お金持ちなのね……」
「そうだぁっ、お姉様っ! ハワイといったら、海! 海といったら、水着! お姉様ァー、明日一緒に水着を買いにいきましょうよー!」
「いいけど、みんなでね」
「ええー。2人きりが……」
「言うこと聞けないのかな、瑠衣ちゃん?」
迫力のある笑顔を向けると――。
「き、聞けますゥ! 瑠衣はいい子ですからァ!」
背筋をピーンと伸ばして敬礼した。
「いいこ いいこ」
「はうぅぅぅ」
頭を撫でると表情をゆるゆるに緩ませた。
だいぶ彼女の扱いに慣れてきたようだ。
楽しそうにみんなはハワイについて語り合っている。
よかった、ハワイに行くことを企画して。
みんなの笑顔を見ているだけで心が満たされていくのを感じた。
どんな水着を買って着ていこうかという話題が上がったとき――三女 光が手を上げた。
「ごめん……姉貴。あたしは行けない。あとで自分で買いに行くから」
「そう、わかったわ」
《パパ》
《光……》
会話中の三女から。
《そ、その……パパ……。あたしの水着を選んでほしいんだけど……いいかな?》
《みんなとじゃダメなのかい?》
《み、みんなの前で選ぶの恥ずかしいから……パパと2人っきりがいい……》
《そうか。それならもちろんいいけど》
普通、父親と選ぶほうが恥ずかしいんじゃ?
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