上の犯罪組織からの命令で、一人の日本人少女を誘拐した不良グループ。誘拐は無事に成功し、あとは迎えが来る朝まで少女が変な行動をしないよう監視するだけ……だったのだが監視役の一人が突然目から血を噴き出して倒れるという異常事態が発生! この一件を皮切りにして誘拐グループを次々と襲う怪奇現象……。その中心にいるのは、彼らに誘拐された被害者だったはずの少女――クチナ=ホオズキ。
かくして幕を開ける誘拐グループ対怪異少女。前半はなすすべなく犠牲者を出すばかりの誘拐グループだったが、仲間が失われるにつれクチナが万能の存在ではなく、特定の法則に従って人を害する怪異であることがわかってくると、物語はいかにしてルールを守ってクチナを抑え込むかという心理戦の様相を帯びてくる。
そんな本作最大の魅力は、クチナという少女のキャラクター。ルールさえ守れば彼女は他人に危害は加えられない。そうはわかっていても彼女は怪しい美貌と話術を駆使して時には挑発し、時には脅し、時には誘惑してあの手この手で誘拐犯たちにルールを破らせようとする。その一方で殺される側の誘拐グループもそれぞれが犯罪に手を染めるようになった境遇がしっかり描かれており、だからこそ無残に殺される彼らにもちょっとだけ同情心が湧いてしまう。
この邪悪なヒロイン兼ラスボスと怪異の犠牲者となった犯罪グループが織りなす一夜の心理戦をとくとご覧あれ!
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)