第18話 音のない部屋
門をくぐった瞬間、耳が痛くなった。なぜ痛いのだろうと二人は考え、この世界には音がないことに気がついた。
二人がいる場所は、水上の小島だ。再び海に来たのかと一瞬身構えるが、水面を舟が行き来しているし、水上に家が立っている。少し安心した。
しかし、舟が水面を進む音や、人々の声が全く聞こえない。二人は顔を見合わせた。お互い、無音の環境に戸惑っている。
一艘の小舟が、二人の前まで流れてきて、静止した。二人は身振り手振りで相談し、乗ることに決めた。二人が乗ると、小舟はひとりでに動き始めた。
座って、周りの景色を眺める。川面を大小の舟が滑る。しかし、舟は無人だ。人っ子一人いない。
小舟が階段の前で静止した。階段の先には家がある。細い木の柱が水面から飛び出し、柱の上に木の板を組み合わせて作られた家だ。他にもたくさんの家があり、家と家は、細い木の橋で繋がっている。
二人は小舟を降り、階段をのぼって、家の中に入った。
ドアを開けると、靴箱と細い廊下があり、いくつかの部屋があった。台所、居間、寝室、洗濯室、物置。当時の生活の様子がそのまま残されていた。台所の鍋には切りかけの野菜や、腐ったスープがあった。居間には子どものおもちゃが転がっていて、テーブルの上にはラジオがあった。寝室の棚には、花瓶の中に枯れた花がいけてあった。
コンパスの針を頼りに歩き、橋を渡って次の家に入る。そこも、住人の生活のあとがあった。音のない部屋に、チェロが置かれている。チェロの弦を弾いても、音は聞こえない。
二人は、家から家へと歩き続けた。二人がいる家や橋の周りの水面に、舟が集まり始めた。舟の数は徐々に多くなり、やがて、水面を埋め尽くした。
やがて、次の門を見つけた。壊れて途中で落ちている橋の上に、グルグルと渦巻く空間の穴がある。
二人は、周りの舟に軽く手を振った。そして、門をくぐった。
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