第5話 秘密の手紙
「次の門はあれ?」
モナが指差した。広い廊下のど真ん中に、木製のドアがぽつんと立っていた。ドアの向こうから機械音が聞こえてくる。
「そうですね。あれです」
ルイは、ドアを少しだけ開け、様子を窺う。
向こう側は工場のようだ。ベルトコンベアが何レーンも並び、何に使うか分からない部品が右から左へ流れている。白い人型の機械が何台もいて、忙しなく動いてコンテナを運んでいる。奥では、何に使うのかさっぱり分からない巨大な機械が鎮座している。
(ここは嫌だな)
ルイは少し顔を顰めた。屋内に入るのは怖いのだ。こちらからすれば、単に門をくぐっただけなのだが、向こうからすれば、室内に突然現れた不審者である。殺されてもおかしくない。
「行かないの?」
「うーん、ちょっとここは」
ルイがドアを閉めようとした、その時。コンテナを運ぶ白い機械が、ドアの前で立ち止まった。目の代わりのカメラレンズが、じっとルイを見ている。
機械が、ドアの前にやってきた。
「別世界ノ人?」
聞き取りにくいが、機械は確かに人間の言葉を発した。
「はい。そちらに行っても大丈夫ですか?」
「本当ハ駄目。デモ、僕ノ頼ミヲ聞イテクレルナラ、イイヨ」
「どのような頼みですか?」
「コノ手紙ヲ届ケテ欲シイノ」
機械は、一通の白い封筒を取り出した。
「何故、私のような旅人に頼むんです?」
「私達ハ、仕事以外ノコトヲシテハイケナイ。ダカラ、コレハ秘密ノ手紙。異世界ノ旅人ニシカ、頼メナイ」
「どこの誰に届けたらいいんです?」
「コッチ側ノ工場ニイル、女ノ人。壊レタベルトコンベアヲ辿レバ、スグニ着ク。女ノ人ガイルトコロニ、門ガアル」
ルイはモナを見た。目で、どうしますかと問いかける。
「いいよ。やろう」
ルイは機械から手紙を受け取った。宛名や差出人の名前は書かれていない。
「コレヲツケテ」
機械は三つのバッジを渡した。
「コレヲツケテイル間ハ、同ジ仲間ダト思ワレテ、攻撃サレナイ。返サナクテイイ。アゲル」
「分かりました。ありがとうございます」
二人は胸元にバッジをつけた。リューズの首輪にもバッジをつけた。二人と一匹は工場の世界に入った。
「コッチ」
機械のあとをついていくと、動かないベルトコンベアの前にやってきた。
「コノベルトコンベアノ上ニ乗ッテ、マッスグ進ムト、女ノ人ノトコロニ着ク」
ベルトコンベアは、暗い小さなトンネルに続いている。狭いが、二人ともなんとか通れそうだ。
「分かりました」
「オ願イネ」
二人は動かないベルトコンベアの上に乗り、四つん這いになって、トンネルの中に入った。
暗闇の中、匍匐前進で前に進む。オレンジ色の小さなランプが等間隔についているが、非常に暗い。ゴウンゴウンという機械音は遠ざかり、耳が痛くなるような静けさに包まれる。
本当に着くのか?
出口はあるのか?
モナとルイがそう思い始め、苛立ちが止まらなくなった頃。
前方に光が見えた。
「モナさん、出口か」
「やっと? 早く行こう」
力を振り絞って前へ動く。光り輝く出口へ出る。
そこは、機械が言った通り、小部屋だった。窓はない。
部屋の中央には、女性の人形が、机の前に座っていた。人間族の女性を模した、等身大の人形だ。
人形の首が動き、ガラス玉の目が二人を見た。
ルイは、机の上に手紙を置いた。すると、彼女の手がカクカクと動き出す。手紙を開封し、便箋を開き、中身を読むような仕草をする。
「ルイ。あれ」
モナがルイの肩を叩いた。彼女が指差す方向に、門があった。そこだけ、空間が真四角に切り取られ、向こう側に霧がかかった草原が見える。
「行きましょう」
二人は、彼女の邪魔をしないよう、足早にこの世界を去った。
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