天穹迷宮(2024アドベントカレンダー企画版)
最中亜梨香
第1話 古時計
ルイズライカンは、ようやく明かりの灯った家を見つけた。
空は灰色。太陽を雲が隠しているわけではなく、のっぺりとした灰色一色の空なのだ。青空ではなく灰空と呼ぶべき空だ。
大地も灰色。ひび割れている。草一本生えていない。遠くを見ると、大地がぷつりと途切れ、崖になっているのが見える。崖の先は何もない。灰色の空が広がっているのみである。
希望もなにもない、絶望の灰色の世界。その中で、一軒だけ、ぽつりと明かりが灯った家があった。家の壁と屋根も灰色だが、窓から漏れる明かりだけが温もりのある黄色だ。
ルイズライカンは、随分長いこと旅をしてきた。ある程度の期間は飲まず食わずでいられるが、それでも、この不毛の大地で、食事と寝床にありつける可能性を見つけて、嬉しかった。背中の羽根を羽ばたかせ、急いで家に向かった。
灰色のドアをノックする。
「ごめんください。一晩、泊めさせていただきたいのですが」
少し待つと、中から足音が聞こえ、ドアが開いた。
「誰?」
真っ白な髪の、人間族の少女が現れた。肌も色が抜けたかのように白く、シャツもズボンも靴も白い。瞳だけが赤ワイン色である。
「私はルイズライカンと申します。旅をしてたら、ここに辿り着きまして、どうか一晩泊めていただけないかと」
「商人じゃないの?」
「商人ではありませんが、必要なら、取引も致しますよ」
「そう。じゃあ、入って」
少女の言葉に従い、ルイズライカンは家の中に入った。
「こ、これは……すごいですね」
壁一面に、時計がかかっている。どの時計も装飾が凝った、年代物の古時計のようだ。チクタクと規則正しく音を立てている。
「この時計は、全部、貴女が?」
「時々、そこに落ちてくる」
少女は、暖炉を指差した。暖炉には、壊れた時計が積み上がっていた。
「煙突から降ってくるんですか?」
「そう。どうして煙突から降ってくるのかは知らない。それを修理して、商人に売るのが私の仕事だった。でも、最近はもう飽きた。修理はやめた」
「そうですか……」
「時計が欲しいならあげるよ」
「残念ながら、大きな物は荷物に入り切りませんから」
「ふーん」
少女は興味なさげに相槌を打つと、キッチンに立ち、湯を沸かし始めた。
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