第28話

「《ぶっ殺し、確定ッ!》」


 アイリスは高らかに宣言すると、体をねじりながら杖を振るった。


「《光》よ! 《ぶった斬れ》!」


 その先から光が放たれた。

 その光は、それまでの光弾とはまるで違っていた。

 高密度の魔力と、殺意が練り込まれていた。


 ぽおん。


 なにかが飛んだ。

 ゼンの右腕である。


「む……っ?」


 ゼンが驚いた顔をした。


「《はあッ!》」


 アイリスがさらに体を回転させながら杖を振るう。

 再び杖から光が放たれる。

 今度はゼンの左腕が飛んだ。


「《ギャハハハハハハッ!》」


 アイリスは舌をべろりと垂らしながら笑った。


 それは《光の魔法》だった。

 しかし、これまでとは撃ち出すものが違った。


 光弾ではなく、光刃。


 鋭い刃を飛ばし、ゼンの腕を肩口から切断したのである。

 腕を斬られたゼンであったが、出血はなかった。ふらりとよろけただけで、痛がっている様子もない。


「マジで手加減なしだな」


 ゼンは動じる様子もなく、平然としていた。


「《なに余裕かましてんだァ? 泣き喚いて許しを乞え。許しやしねえけどなァ!》」

「つーか、なんで性格変わんの? それも魔法のせい?」

「《んなこたあ、どうでもいいだろうがよ!》」


 なんで平然としていられるのだ。

 アイリスは歯噛みする。

 最初に腕を落としたのは、ゼンに対する罰だった。

 ゼンはアイリスの心臓に触れ、命を脅かした。

 そんなことは許されない。


 だから。


 ――絶望を与え、惨たらしく殺す!


 悪魔化したアイリスはそう決めていた。

 だがゼンは平然としていた。

 絶望で歪む顔が見たかったというのに。

 いらだったアイリスは、ゼンに杖を突きつけた。


「《死ねッ!》」


 狙うは首だ。

 アイリスの杖が輝き、光刃が放たれた。


 しかし。


「よ、っと」


 ぱあん……とガラスが割れるような音がした。


「《な……っ!?》」


 光刃が砕けた。


 ――なにをした。


 ゼンの腕が生えている。

 左右の腕が何事もなかったかのように、元に戻っている。


 どうやら拳で光刃を砕いたらしい。

 発動した瞬間には当たっている不可避の斬撃。

 それを砕くなんて、人間業ではない。

 それができるのは、神か悪魔くらいのものだろう。

 一体、ゼンは何をしたのだ。


「あぶね~。首はさすがにやばいだろ~」


 ゼンは飄々としている。


 ――わからない。


 アイリスはぎりっと歯噛みする。

 ゼンは一体、なんの魔法を使っているんだ?


「《てめえ……なにしやがった!?》」

「あ~? いってもいいけど、それじゃおもしろくねーだろ。魔術師ってのは自分で謎を解き明かさねえとな~」


 ゼンはそういいながら、ゆらりと体を揺らした。


「さあて、今度はこっちの番だ」


 ふわりとゼンの姿が消える。


 ――目に頼るな!


 その魔法を見るのは二度目だった。


 目では追えない。そのことを本能的に理解したアイリスは、ゼンの魔力変化に全神経を集中した。魔術師には魔力を探知する本能があるといわれる。それは視覚、聴覚、嗅覚などの五感とは異なる、直感に近いものだ。


 その感覚に身を任せたアイリスは、ゼンが左から近づいてきたことを察知し、素早く回転し、ゼンと向き合った。

 ゼンとアイリスは互いの間合いに入っていた。


「いい反応だ」


 ゼンはにやりと笑うと、拳を突き出した。

 アイリスは手のひらで拳をそらす。

 ゼンは足でステップを刻みながら、何度も拳を繰り出す。

 アイリスは手のひらを使って、拳をいなす。

 一撃、一撃が重たい。

 高密度の魔力が拳に集中しているのがわかる。


「《こいつ……ッ!》」


 ――《肉体派》か。


 防御が苦手そうなのは見せかけ。実は大の得意なのかもしれない。

 まずは相手の攻撃を誘って、鉄壁の防御で防ぎ切り、消耗させる。そして機を伺い、相手の懐に飛び込み、近接戦闘で殴り殺す。ゼンの戦い方はシンプルな《肉体派》の攻撃スタイルだった。

 ただの《肉体派》と違うのは、一発一発の拳の重さだ。

 一発でも喰らえば即死。

 高密度の魔力を込めた拳を、ゼンは連発して繰り出す。


 ――だが。


 当たらない。


 アイリスはゼンの魔力の流れを正確にとらえ、繰り出される拳をいなし続けた。


 そして、その時はやってきた。


 繰り出されたゼンの拳が伸び切る。

 いつもなら後退するアイリスは、そこで思い切って、ゼンの懐に飛び込んだ。


「《光》よ! 《ぶった斬れ》!」


 光の斬撃がゼンの肉体を引き裂いた。

 袈裟懸けに服が裂ける。


「うぐ……っ!」


 ゼンの足が止まり、体勢が崩れた。


「《ギャハハッ! 勝負あったなァ!》」


 アイリスは杖を振った。

 光刃が放たれ、ゼンは吹き飛ぶ。

 アイリスは手を緩めなかった。

 杖を振りあげて、杖先に魔力を集中させる。

 杖先が眩い光を放った。


「《ミンチにしてやるぜェ!》」


 アイリスは杖を振るった。

 光の刃が飛び、ゼンの肉体は腰から二つに両断された。

 上半身がぐらりと揺れる。


「《ぶっ殺し確定ッ!》」


 アイリスは杖を振り回し、光刃でゼンの体を縦横斜めに斬り裂いた。

 死体を無惨に切り刻む姿は、悪魔そのものだった。


「《ヒャハハハッ!》」


 アイリスは笑いながら、光刃を放ち続けた。


 ゼンは死んだ。

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