第17話 真実を切り出す声と体育館の熱狂

 体育館のステージ近くは混乱の渦だった。瀬良が掴みかかるように彩花へ迫ろうとするが、教師や生徒会メンバーが制止に入り、大きな声が飛び交っている。

 「離せ! なんで俺をこんな目に……」

 瀬良の苛立ち混じりの叫びをよそに、彩花は震えた手でスマホを握り、必死に耐えていた。


「どうしても言わなきゃいけないの。……瀬良先輩は、みんなを騙していました。学園の資金を自分たちで好き勝手に使って……私もそれに気づいたとき、怖くて黙ってたんです。でも、もう黙っていられない!」

 彩花が涙声でそう言い切ると、会場の生徒たちから「マジかよ?」「本当にあいつが…?」とどよめきが起こる。後方では相沢たち取り巻きが口々に「嘘だ!」「裏切り者!」などと罵声を飛ばしているが、その勢いは先ほどより弱い。


 俺は真琴と目で合図を交わし、体育館の前方へ歩み出る。そして、彩花が押しつぶされそうになっているステージ脇に向かって声を張り上げた。

「彩花、ちゃんと言ってくれてありがとう。もう大丈夫だ。俺たちも“証拠”を見せるから、後戻りはしないよ」


 その言葉に、彩花はうるんだ瞳で小さく頷く。瀬良は依然として「ふざけるな!」「デマだ!」と怒鳴っているが、教師数名が取り押さえるように抑えていて、思うように動けないようだ。

 会場中の視線が集まる中、生徒会長がマイクを構える。

「このような形で暴露を始められては困るが、ここまで来てしまった以上、もう少し詳しく聞かせてもらおう……。阿久津、鳳、そして彩花さん……君たちは“横領の証拠”を持っているのか?」


 俺と真琴は顔を見合わせ、USBメモリを高く掲げる。

「はい。これは放送室のログデータと、削除された画像の復元ファイルです。そこには瀬良たちが購入した“私的なレシート”が映り込んでいるんです。文化祭資金を勝手に使った痕跡があります」

 ここでまた会場が大きくざわついた。生徒会長が落ち着きを取り戻すように深呼吸し、

「わかった。ではこの場で投影は無理でも、少なくとも私と教師陣が確認することはできる。それでいいな?」

 教師たちも「そうだな、職員室へ移して…」と頷きかけるが、俺は急いで口を挟む。


「すみません、できればこの場でみんなに見せたいんです。職員室でこっそり確認されても、隠蔽される危険がある……正直、俺たちはそれが一番怖い」

 悲壮感を帯びた口調に、真琴も続く。

「生徒会の中にも瀬良くんと繋がっている人がいるかもしれません。でもここにいる多数の生徒の前で公開すれば、“誰が嘘をついているか”すぐわかるはずです」


 この発言に生徒会長が表情を曇らせるが、周囲の生徒たちから「そうだそうだ!」「隠さず全部見せろよ!」という声が高まり、収拾がつかない状態になってきた。教師も「一旦落ち着いて順番に…」と叫んでいるが、興奮した生徒たちの熱量に押されている。


「……わかった。じゃあ、そこにあるプロジェクターを使え。急ごしらえだが、みんなで確認してみるか」

 ついに生徒会長が折れ、ステージ上で教師や放送委員が慌ただしくスクリーンをセットし始める。瀬良は「おいおい勝手に…!」と怒鳴るが、すでに数人がかりで取り押さえられているため身動きが取れない。


「ここまで来るなんて、予想以上だけど……やるしかないね」

 真琴が決意を込めた目でそう言い、俺は深呼吸する。周囲の視線が痛いほど突き刺さるが、怯んではいられない。俺たちが散々受けた仕打ちを晴らすためにも、ここで正真正銘の逆転を始めるしかない。


 スクリーンが下り、会場照明が少し落とされる。シーンと静まる体育館には、生徒たちの期待と疑念が入り混じった空気が漂う。あちこちで小さく息を呑む音が聞こえ、目を凝らして画面を待つ気配。

 そしてパソコンから映し出されるフォルダ一覧。その中から、「削除復元ファイル」「チャットログ」「領収書画像」などが次々と映し出されていく。俺たちが事前に倉木と共同でまとめておいた資料だ。

 (見てくれ……これが俺たちの答えだ)

 心の中で叫びながら画面を見上げる。映し出される画像には、瀬良の名前らしきサインと、明らかにプライベート用途のスポーツ用品や娯楽施設のレシートが。普通の文化祭購入物資ではない。


「ほ、ほんとに瀬良の名前が…」「これって学園の資金で買ったのかよ?」「最低じゃん…」

 会場のあちこちから呆れや怒りの声が聞こえ始める。ステージにいる瀬良は「捏造だ!」「騙されるな!」と必死に叫ぶが、もう誰も耳を傾けていないように見える。

 スクリーンに切り替わったチャットログの履歴でも、瀬良が大金を払ったあとに友人と“打ち上げだ”“ゲームで盛り上がろう”とメッセージを交わしている形跡が映る。まるで自分たちの財布のように学園資金を使ったのだろう。


「これで、私たちが盗んだなんて話はおかしいんじゃないでしょうか。瀬良くん、あなたが何か言いたいならどうぞ」

 真琴が毅然とした声で呼びかける。瀬良は再び暴れようとするが、数人の教師に腕を押さえられてうめくばかり。

「お、俺は関係ねえ! その領収書は…か、勝手に名前を書いただけだ!」

「名前の筆跡があちこちで一致してるんだけど、それも勝手に書かれたの? じゃあ他のメッセージは? あなたの口調そのままだよ」

 生徒会長や教師もスクリーンを睨み、明らかに瀬良の言い分に疑念を抱いている様子。


 広がる沈黙の中、彩花がマイクを握る。

「…私、実際に瀬良先輩が“学校の金だ”って言いながら楽しそうに買い物するのを見ました。止めようとしたけど、脅されて何も言えなくて…」

 涙を流しながら告白する姿に、観衆がもう一度ざわつく。「うわぁ、マジかよ」「最低だな」という声が止まらない。


 こうして、俺たちが集めた証拠と彩花の内部告発が合わさり、瀬良一派の嘘は一気に崩れ去る雰囲気が漂っていた。

 (まだ油断はできない。でも…これで、もう追い返せないはずだ)

 この瞬間、長い間かけられていた冤罪がようやく晴れる未来が見えてきた。周囲の視線が変わり始めるのを感じ、胸の奥に熱いものが込み上げてくる。

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