第16話 張り巡らされた罠と激突する思惑

「何なんだよ、その偉そうな口ぶりは。でかいこと言って、結局証拠なんかないんだろ?」

 相沢がステージ近くで怒鳴り散らし、マイクを奪い合う形で教師が必死に制止に入る。

「落ち着け、相沢! 今は説明の場だ!」

「うるせぇ、こいつらが犯人に決まってるのに、何でこんなにでしゃばるんだよ!」


 彼の剣幕は尋常じゃない。まるで瀬良に操られているかのように、俺たちを潰そうと必死になっている。このままだと、せっかくのチャンスが暴力沙汰でかき消されそうだ。

 と、そのときステージ上の生徒会長が「マイクをこちらへ」と手を差し出し、教師が慌ててマイクを渡した。


「静粛に。今から鳳さんと阿久津くんの弁明を聞きます。そのうえで、証拠とやらを確認し、生徒会として正当な判断を下す。いいな?」

 生徒会長の言葉に会場がざわめくが、相沢は悔しそうに舌打ちして黙り込む。

 (これで少しは話ができる…)


 俺と真琴は気持ちを落ち着かせるように一度深呼吸し、用意していたUSBメモリを取り出す。そこには夜の放送室で復元した画像ファイルや、倉木がまとめたログが入っている。

 しかしステージ上のプロジェクターを使わせてもらえるわけもなく、俺たちは「とにかくこのデータを見てほしい」と、教師や生徒会役員に訴える。

「ここには、横領に使われた買い物のレシート写真や、誰がいつ画像を削除したかのログがあります。いったい誰が資金を流用したか、一目瞭然なんです…」

 そう言うと、生徒会長は「この場で即判断は難しい。委員会室か職員室で確認してから…」と渋い顔。


「だったら、少なくとも“阿久津と鳳を犯人扱いする”って話は、証拠を確認するまで保留にしてください!」

 真琴がマイクに向かって必死に訴える。それを聞いた会場の生徒たちからも「そうだそうだ!」「証拠を見るまでは決めつけないで!」という声が上がり始める。

 次第に熱がこもり、あちらこちらで「本当は瀬良がやったって噂もある」「イケメンが裏で金使ったんだろ?」といった囁きが増えてきた。その雰囲気に耐えきれないのか、取り巻きの一人が「ウソ言うな!」と叫ぶが、もう止まらない。


「瀬良がここにいないのもおかしくね?」

「確かに。普段はこういう集まりには必ず顔出すのに」


 生徒たちの疑心が膨れあがる。その瞬間、ステージ袖から大きな声が響いた。

「やかましいな、お前ら…俺が犯人? バカ言うなよ」

 姿を見せたのは、満を持して登場する瀬良本人。鋭い視線で会場を睥睨しながら、マイクも持たずに声を張り上げる。


「俺はあの委員会にも参加してたが、金なんかちっとも盗んでない。証拠って? どうせ捏造に決まってるだろ?」

 その言葉と同時に、相沢や取り巻きが「そうだそうだ!」と一斉に吠える。割れんばかりの非難が、俺と真琴に向かって飛んでくる。

 だけど、会場の生徒全員が取り巻きの言葉を信じるわけじゃない。むしろ「だから証拠を見せろって言ってるんだろ」「捏造なら捏造でいいから、ちゃんと調べろよ」といった声が返ってくる。

 瀬良は明らかに顔を引きつらせ、唇を噛み締めている。過去に見たことのないほど動揺している様子だ。


「調べるだと? 俺は生徒会の連中とも繋がってるし、そんな怪しいデータなんて認めるわけねえだろ」

「繋がってる…?」

 思わず俺はその言葉に違和感を覚える。まるで自分が生徒会を牛耳っているとでも言いたげだ。周囲の生徒たちもざわつく。

 すると、ステージ上の生徒会長が「勝手なこと言わないでくれ!」と制止するが、瀬良は鼻で笑ってマイクを奪い取るようにした。


「いいか、そもそもこいつらが犯人で、それを誤魔化すためのデタラメ証拠だ。こんな茶番には付き合いきれねえ」

「デタラメじゃありません!」

 真琴が毅然と反論しようとするが、瀬良はマイクを高く掲げ、さらに罵声を重ねる。取り巻きが一気に盛り上がって、「鳳さんは結局、資金を使い込みたかっただけ」「阿久津はどうせ地味で金に困ってたんだろ?」などと言いたい放題。教師たちも収拾がつかず、必死に「静かに!」と怒鳴っているが、一向に秩序が戻らない。


「もういい! 聞き分けのないやつらには力づくでわからせてやるしか…」

 瀬良がそう言いかけた瞬間、ステージ脇から違う声が割り込んだ。

「待って!! それは違う、瀬良先輩…いい加減にしてください!」

 聞き覚えのある、か細いながらも必死な叫び。それは彩花の声だ。赤くなった顔でステージに駆け寄り、瀬良に向き合っている。

「あなたがやったこと、私、全部見ちゃったんです…! もう黙っていられない!」


 彩花の突如の告発に、会場が凍りつくほどの静寂に包まれる。瀬良は驚愕に目を見開き、「お、お前…何言ってんだ…」と狼狽を隠せない。

 そう、これが彩花の選んだ道。裏切りを恐れながらも、瀬良のやり口に耐えられなくなったのだろう。彼女は震える声で続ける。


「瀬良先輩こそ、この学園の金を私的に使ってた…その証拠だって私、ここに…」

 そう言いかけ、彩花は涙をこぼしながら胸のポケットに手を伸ばす。彼女は覚悟を決めたのだ。俺たちのため、そして自分の尊厳を取り戻すために。

 瀬良は「やめろ…!」と吠えながらステージに駆け上がろうとするが、同時に教師や生徒会役員が制止に入り、観衆から「そっちがやましいんじゃないのか?」という声が飛び交う。

 もう止まらない波。ここで俺と真琴の手にしたUSB、彩花の新たな証言が一気に重なれば、瀬良を完全に追い詰められる――その確信を抱いたまま、俺はただ息を呑む。


 決着のときが近い。暗転しかけた臨時集会が、一転して瀬良への糾弾へ向かうのか。騒然とした体育館は、まるで今にも爆発しそうな熱気に包まれていた。

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