第12話 動揺する元彼女と深まる確信

 翌日の昼休み、思いがけず俺の元彼女・**彩花(あやか)**が教室を訪ねてきた。周囲は「あれ、二人もう別れたんじゃ?」とヒソヒソ声。俺自身、心中複雑な気持ちだ。

「……ちょっといいかな、阿久津くん」

 彩花の声は弱々しく、目が泳いでいる。今さら何の用だと思いつつも、無視はできない。鳳 真琴やクラスメイトが見守る中、俺は廊下へ出た。


「何?」

「ごめん…こんな時に。でも、話だけでも聞いてほしくて」

 彩花は視線を彷徨わせながら、言いにくそうに口を開く。

「私、この前から瀬良たちと一緒にいるけど、正直怖いんだ。あの人、すぐに周囲を脅すし……最近は私のことも都合のいい道具扱いしてて」

「……そりゃそうだろ。あいつはそういう奴だって、最初からわかってたんじゃないの?」

 思わず棘のある口調になってしまう。だが彩花は小さく首を振る。


「ごめん、本当にごめん。私、阿久津くんを信じきれなくて。でも、あの時は周りの空気に流されて……」

「そんな言い訳いらない」

 つい言葉が刺々しくなる。彩花は痛みを堪えるような顔をして、さらに続けた。

「でも、やっぱり変だよ。瀬良たち、阿久津くんと鳳さんに罪を押し付けようとしてる。私、何度か『本当に盗んだの?』って聞いたんだけど、はぐらかされるし……」

「そりゃあ、犯人はあいつらなんだから当然でしょ」

 乱暴な返しに、彩花は涙目になる。


「私…何か力になれないかな。あの…もし瀬良のことを探るなら、協力できることがあるかも」

「は? 今さら?」

 心の中に渦巻く苛立ちが抑えきれない。けれど彼女が泣きそうな表情で訴えてくるのを見ると、完全に突き放すこともできなかった。

 そもそも、瀬良の内部事情を多少なりとも知ってる彩花が味方に回れば、役立つ情報を得られるかもしれない。とはいえ、俺も真琴も彼女を簡単には信用できないのが本音だ。


「…わかった。けど、無理はしないで。あんまりあいつらを刺激すると、お前が危険になるかも」

「うん、それでもいいの。こんなままじゃ耐えられないから」

 彩花はそう言って大きく息をつく。今まで見たことのないほど切実な表情だった。


 昼休みが終わる寸前、俺は一旦教室へ戻ろうとするが、背後から彩花が「ありがとう……」と小さく呟く声が聞こえた。どんな気持ちで言っているのかはわからないが、少なくとも以前のように“敵”ではないのかもしれない。


 午後の授業中、俺は鳳 真琴にだけ彩花の話をそれとなく伝えた。彼女は最初驚いていたが、少し考え込んでから、

「もし彩花さんが本気で協力したいなら、瀬良たちの内部から情報を得られるチャンスがあるかもね」と囁く。

 もちろん、簡単に信用していい相手じゃない。けれど、この学園で瀬良の素行を知る“内部の人間”は限られている。

「…ただ、裏切られる可能性もあるんじゃない?」

「確かに。それは覚悟しとくけど、同じクラスだし、私たちも上手く付き合わないと」

 真琴の冷静な視線が、微かに覚悟を宿している。俺も複雑だが、藁にもすがる思いで進むしかない。瀬良への対抗策は多いほどいいのだ。


 そんなこんなで放課後、クラスメイト数名が「鳳さん、阿久津くん、話あるんだけど…」と声をかけてきた。どうやら噂が一人歩きしている中で、具体的に何が起きてるか知りたいらしい。

 これが俺たちに対する興味なのか、それとも瀬良への不信なのかはわからない。

 でも、着実に周囲の意識が変わり始めているのは間違いない。今なら、情報を表に出しやすいかもしれないし、瀬良たちの工作を逆手に取ることもできそうだ。


 「明日はちょっと、みんなに協力を仰ぐかも。USBのデータを一気に見せるタイミングを考えよう」

 真琴が控えめな声でそう提案し、俺は小さく頷く。

「そうだな。下手に匂わせるより、一気に爆発させたほうがインパクトが大きいはずだし」


 夜が更けていく校舎を後にしながら、俺たちは今後の展開を思い描く。瀬良と取り巻きの焦りは確実に高まっている。元彼女・彩花の動向も含め、動く駒は増えてきた。

 どこで仕掛けるか、どう一気に叩き込むか。そんな考えを巡らせるたび、胸の奥が熱くなる。

 (次の一手で、瀬良を追い詰められるかもしれない。俺たちの長い苦しみも、そろそろ終わらせる時が来るんだ……)

 沈む夕日を横目に、俺は強い意志を胸に抱いたまま下校した。

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