第31話

「ごめん、なさい…」




ぽろ、と堪えきれなかった涙が一粒落ちる。わたしが泣くなんてお門違いだ。だって理由はどうであれわたしが篠津さんを切り離したのは事実だ。なのにわたしが泣くのは卑怯だと、頭ではわかっている。



けど頭で理解しているのと心は別物で、わたしを好きでもないのに引き留めようとする彼が恨めしかった。卑怯だと、ずるいとなじらずにはいられなかった。



きっとこのままわたしが理由を言わずに逃げても篠津さんはわたしを見捨てることはできないだろう。最初からそれができるなら今こんなことにはなっていない。



あぁなんて。その優しさは残酷なのだろう。




「もう、いらないとおもったの」




もう、わたしは必要ない。篠津さんはあの雨の日の傷ついた彼じゃない。前を向いて歩いている、慰めなんかいらない人だ。それなのにこの関係を続けてしまったのはわたしのせいだ。彼の足を引っ張っているのはわたし。



だからこれ以上、篠津さんの足かせにはなりたくなかった。好きな人がいて、その人と一緒にいる将来を、篠津さんの幸せをわたしが壊したくなかった。




「あなたに、わたしはもう必要ないでしょう…?」

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