第30話

苦しいぐらい、なんなら体に痛みが走るぐらいに強く抱きしめられて反射的に逃れようと腕を突っぱねるけど逆にさらに強く抱きしめられる。




「篠津さん、やめてっ、どうして、こんな…っ」




聞きたくない、知ったら離れた意味がなくなる。そうわかっているのに思わず聞いてしまったことに浅ましさを感じて、そんな自分が嫌になった。




「それを君が言うの?俺はずっとキョウカを…君を待ってたのに…」




腕の力が緩んで顔を上げると泣きそうに顔を歪めた篠津さんがわたしをのぞき込むように見ていてわたしまで泣きたくなってしまった。



あぁやっぱり、わたしがキョウカだと気づいていたのかと嬉しくなったと同時に、それ以上に自分の感情を優先させて繋がりを絶たなかったことに対して後悔した。



あのまま会うことがなければ篠津さんはわたしのことなんて忘れて好きな人と一緒になれただろうに、わたしが同じ職場で近い場所にいたから彼はわたしを惜しんでしまった。



普段の姿や夜に会うとき、いつだって篠津さんは優しかった。それはもう、単なる体だけの関係でしかないわたしに対してまるで大切な人を相手にするかのようにそのすべては優しくて甘かった。



そう、勘違いだとわかっていても溺れてしまうぐらいに。好きになってしまうぐらいに。

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