第35話 ランクⅤ帯へ

   ▽第三十五話 ランクⅤ帯へ


 休憩の後。

 ぼくはランクⅤ帯にやって来ていた。アンデッドドラゴン戦で体力も減少していた。が、ずっと格下ランクにいるわけにもいかない。


 装備までつけたぼくは、かなり強い部類だと思う。


 まず魔法の火力。

 これが前よりも段違いだ。これを所持した状態でアンデッドドラゴンと戦えば、ハッキリ言ってぼくは負ける要因がない。

 MPが増大したことにより、魔法だって好き勝手に使える。


 理想を言えばスタミナを補助する何かがほしかったけれど。


 体感で体力は満ちている。

 レベルも上昇した。装備もある。技能も【踏ん張り】というものが増えた。HPが5割以上の時、攻撃で一撃死することがなくなるらしい。

 リスク対策にはありがたい。

 が、数少ない技能枠を使うのはしんどいかもしれない。一度、死のリスクを回避したとして、勝つために役立つかは不明瞭。

 あって嬉しい技能ではあるけれど。


「にゃあん」

 

 新天地にやって来た。

 ランクⅤ帯は今までの土地よりも、ハッキリと広大だと言えた。広さで言えばひとつの県くらいはあるんじゃないかな。


 それゆえに生態系も複雑。

 ランクⅤ帯の魔物はわりと多いようだ。まずは観察から入る。数日ほどは見ること、知ることに時間を掛けて……それから戦いに参加しよう。

 そう判断した時。

 ぼくの【本能探知】が危険を知らせてくる。咄嗟に【猫のない笑い】を起動しようとして――不発に終わる。


 妨害された?


 全身に凄まじい衝撃が走る。骨こそ無事だが大ダメージを受ける。地面を転がる。ぼくを見下ろしていたのは……二足歩行する兎だった。

 手には角で作ったらしきナイフが握られている。

 アサシン・ラビット、とぼくは勝手に名付けた。


 ファンシーな見た目に反して、その兎から迸る殺意は尋常ではない。


「にゃあああああああああああ!」

『!』


 ぼくが使ったのは【テラー・ハウル】である。兎がわずかに動きを鈍らせた瞬間、ぼくは【アナザーポイント】と【サンダー・ボルト】の組み合わせを叩き込む。

 アサシン・ラビットが痺れる。

 そのうちに駆け寄って首に噛み付く。ぼくの毒は強力だ。兎くらいはあっさりと殺してしまえる……と思っていた。


 効かない。

 毒無効。アサシンっぽいからといって、まさか毒まで無効化してくるとは予想外。これだから、まずは適応せねばならないのだ。


 ――アサシン・ラビットが消える。


 くんくん、と鼻を動かす。

 毒こそ与えられなかったが、アサシン・ラビットには確実に傷を与えた。血の匂いを嗅覚で辿る。


 いた。

 ぼくの後ろだ。今度こそぼくは【猫のない笑い】を使った。首があった位置を角ナイフが通り過ぎていく。


 兎が驚く様子が【サーチ】に映っている。


 もう終わりだ。

 振り返り様の【雷爪斬】を叩き込んだ。ぐしゃり、と兎は死体になった。


 強い敵だった。

 というか厄介。今のアサシン・ラビットの厳密な強さは解らないけれど、このレベルがウジャウジャいるのならば、今までの場所よりもよほど魔境じみている。


 戦々恐々としながら、ぼくは適応を開始した。


       ▽

 三日を観察に費やした。

 ハッキリ言って今までのランクⅣ帯とは次元が違う。出現する魔物の数が数種類では収まらない。


 また魔物だけではなく、植物といったレベルから問題だ。

 周囲に混乱をもたらす樹木。体内で発芽する木の実。自力で動いて獲物を探すキノコ。踏むと爆発する草。猛毒のタンポポの綿毛みたいなやつ。


 攻略を拒むような難易度だ。


 ここ以外の場所も軽く見てきたけれど、どこもかしこも魔境である。

 最初に踏み入れた場所が、結果として特殊な体質が不要な分、ぼくでも適応可能というレベル。

 他の場所では、雨のように溶岩が降り注ぐ土地、酸が地中から急に噴き出してくる土地、毒虫ばかりの土地、飛行できねば話にならない土地、毒沼しかない土地、などがあった。


 戦う、戦わぬの次元じゃない。

 そもそも生存できない。そんな場所ばかりだった。このランクⅤ帯が広大でいて、なおかつ大量の魔物がいる理由が解る。


 生きるので精一杯。

 こんなところで進化なんてしている暇がない。変な進化をすれば、すぐに環境に適応できずに死んでいく未来が見えちゃうな。


 戦えば、強いのはぼくだと思う。


 けれど、ちょっとだけ不安だ。戦って勝てるから安心、という場所ではない。一刻も早く適応せねばならないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る