1ー②

「涼加(すずか)いる?」


扉を開けると同時にこの言葉。

何度注意しても直らない、これが彼なりのノックの代わりなのだと言う。


「涼加なら、今、体育館の裏」

「えっ何?不良に呼び出されたとか?」

笑いを少しにじませて。

「あはは。まぁ、“いつもの”だよ」

「あっ…そう…」

空気を含んだため息のような声、少しだけ伏せた目線。

「…」

多分、私だから気がついた。

それくらい些細な仕草。


「カズちゃん、涼加に用なの?ここで待ってれば?」

「え、あ、いや、これ…出しに来ただけだし2人に預けて…」

ペラペラと彼がかざすのは、涼加が各クラスから集めていたアンケート用紙だ。

「あーそれは書記に直接提出だわ。うちらは預かれない」

「マジ?そんなんあるの?」

「あるある。超機密事項」


そんなのないよ。預かれるよ。

って、そもそも朝日は関係ないじゃん。


「すぐに戻って来るって。待ってなよ」

「…えー?」


困ってるな。

でも、できればもう少しいて欲しい。

彼の待ち人が、涼加だとしても。


「だって涼加の答えはいつも決まってるもん。ね、結子(ゆうこ)」

「えっ?あ、うん。そうだね、待っ…てたら?」

朝日(あさひ)の言葉に慌てて返事を返す。


上手く笑えない。


「マジか…。じゃ、そーする、か。あんま時間ないんだけどな」

そう言って彼が隣に座った時は、さすがに意識全開モードに突入。

ぶわっと体温が上がっていく。


「結子ちゃんってさ、いっつも何か仕事してるよな。休まねーの?」

そう言いながら彼が手元をのぞき込む。

字が震える。

計算が狂う。

どうしよう、爪くらい整えておけば良かった。

「忙しいんだよ、副会長って。全校生徒何人いるか知ってるの?724人だよ!?その生徒を仕切る生徒会だもん。カズちゃん、邪魔すんじゃないよ?」

言葉の出てこない私をフォローするように、背後から声がする。

私の気持ちを知ってか知らないでか、朝日の無邪気な声。

「そういう朝日ちゃんは、何やってんの?」

「あたしは、明日の委員会のプリント作成。生徒会室のパソコン借りてちゃちゃっと作っちゃおうと思ってね」

「はぁ。そちらもお忙しいようで」

「まぁ一応、HR委員会の委員長ですからね。委員会出てくださいよ、林一葉くん?」

「……」

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