第138話人間と怪物
バラバラバラバラ……
テレビ中継のヘリコプターは、巨大宇宙戦艦から出撃した小型戦闘機に囲まれていた。ダークグレーのボディを鈍く光らせたそれは、高速で飛行しながら、好き勝手に空中を旋回している。そして、その後に現れた2体の巨大なドラゴン。地上を這うように掠め飛んだあと、上昇してこちらに向かってきた時、パイロット、中継スタッフの全員が死を覚悟した。
黒い重厚なヘルメットに『PRESS』と書かれた防弾ベストを着た報道記者が恐怖に目を見開き、唇を振るわせながらリポートする。
『中継をご覧の皆さん、正直に言います。我々はなぜ撃墜されずに生きているのでしょうか? 周りは多数の戦闘機に囲まれ、2体の巨大なドラゴンがヘリの鼻先を掠めて飛んでいきました。ともかく、撃ち落とされる前に着陸して、可能な限りこの歴史的な光景を中継したいと思います……。おい、何をしている、早く着陸しろ!』
パイロットが後部座席へプルプルと震える手でサムズアップした。
⸻
あの個人用地下シェルターの4人家族。子供達はお菓子の取り合いを止め、テレビを見て口をあんぐりと開けている。今にも涎が垂れてきそうだ。
バリ、バリバリ
40代の夫は力が入るあまり、手に持つビールの缶が潰れた。
妻はワイングラスを口に押し当てたまま呟く。
「こんな映画あったかしら……」
「異星人とドラゴンが一緒に襲来する映画か? あるわけないだろ、ドラゴンは大抵主人公の味方なんだ、クソッ! おいジェニファー」
「な、何? パパ……」
「胸にSって書いた全身タイツの男か、赤いマシンを着込んだ男はいつ来るんだ!?」
⸻
膝をつき、放心状態の首脳達。次に何が起こるのか、まったく予測できない彼らの前に、10mを超える光り輝く巨大な転移魔法陣が現れた。実物の魔法陣など見たことがない彼らだが、何かが現れる前触れなのは知っている。
ウフフッ
アハハッ
砂があるよ
サラサラだよ
早く登ろうよ
魔法陣から聞こえる子供のような笑い声や話し声。
魔法陣の縁に手をかけ、次から次へと登ってきたのは、体高30cmほどのミニゴーレムであった。
数百体のミニゴーレムは首脳達に笑いながらまとわりつく。平時なら可愛いと思えたかもしれないが、今は恐怖でしかない。全身岩石に見える人形が生きて、笑って、話すのだ。
ミニゴーレムの1体がU国大統領に話しかけた。
「ねぇ、怖い?」
世界最強の国の大統領は悲しみを含んだ何とも言えない哀れな表情で小さく頷いた。
それを見たミニゴーレムは、驚いたように細かく瞬きをして、満面の笑顔から真顔になった。
そして、上目使いで睨みながら、ドスの効いた低い声で言った。
「可愛い、だろ?」
ミニゴーレムの長、ジョージィだった。
「ひぃぃっ!」
U国大統領は悲鳴をあげて仰け反った。
「アッハハハッ、人間弱い、人間弱い、キャハハハッ」
ジョージィは仰け反った大統領の身体に飛び乗ってジャンプしながら狂気を含んだ笑い声を上げた。
ズゴゴゴッ、ズゴォーーンッ
咆哮をあげながら、次に転移魔法陣から勢いよく飛び出してきたのは伝説の巨大モグラ、ゴーズ。
飛び出したゴーズは周りを見て歓喜した。美味そうな砂がたくさんあったからである。
ザザッ、ゴップ、ゴップ、ゴップ……
首脳達を驚かせる役目も忘れ、辺りにある砂を貪り始めた。砂を巨大な手で掬い、口に運ぶ。口から滴り落ちる大量の砂。その巨体と砂を貪る異様な姿は、それだけでそこにいる人間を驚愕させるに十分だった。
ゴーズは手で掬うのは面倒になったか、地中に潜り始め、辺り一面にゴーズが掘り進んだ跡ができた。
虎やライオンではない、紛れもない本物の怪物を前にして、人間達は何もできない。小さなミニゴーレムでさえ不気味で、怖くて怖くて仕方がない。上空にはドラゴン、異星人の乗る戦闘機、地中には砂を食べる巨大モグラ。すでに数名が意識を失いかけていた。
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