第137話本物のドラゴン
その時は突然訪れた。
先程まで砂漠を煌々と照りつけていた太陽の光が遮られ辺りは一瞬のうちに暗くなった。激しい地響きと共にテーブルが激しく揺れ、風が吹いているわけでもないのに、硬く地面に固定された仮設テントが浮き上がり始めた。
地震、そう思う者はいなかった。恐ろしい異星からの処刑人が到着したのだ。
やがてテントがあっけなく弾き飛ばされ、上空があらわになった。空には漆黒の巨大宇宙戦艦ウィガニス。それは大気圏突入の工程さえ省いて僅か500m上空に突如姿を現した。
テーブルにしがみついて震えていた各国首脳が恐る恐る空を見上げ、そしてその威容にその場の全員がへたり込む。
形容し難い重低音を響かせる船体のハッチが開き、丸みを帯びた数百機の小型宇宙戦闘機が次々に飛び立った。それらは攻撃することなく、ウィガニスの周囲を威圧するように旋回している。
続いて姿を現したのは、戦闘機ではなく、黒と白、2頭の巨大な生物であった。遠目にもわかるその巨体は翼を広げ、身体をうねらせながら首脳たちの元へ降下してくる。
「ドラゴン……」
何人かが同時に呟いた。人生において、本物のドラゴンを目撃することになるとは……そしてそれが自らの最後になろうとは……。
黒い巨龍は口から炎を溢れさせ、白い巨龍は口から白銀に煌めく冷気を迸らせている。
人間は本来、丸腰では体長数mの肉食動物にさえ、捕食されてしまう弱い生物である。原始の頃からDNAに刻まれた恐怖が強制的に目覚めた。
「あぁあぁ、あぁーー!」
「ひぃぃ、ひゃあぁーー!」
頭を抱え、四つん這いになって逃げまどう首脳たち、日頃の威厳や死への覚悟も吹き飛んでしまっていた。
固く目を瞑る中、猛烈な風圧と熱気と冷気、そして恐ろしい咆哮とともに巨龍が頭上すれすれを通過していった。
「あぁ恐ろしい! これが本当の終末というものか!」
E国首相は巨龍が過ぎ去ってもなお、頭を上げられずにいた。既に失禁していたが、そんなことはどうでも良かった。
この少し前、食事を終えたロキは黒龍ノアと白龍エルザに、こう頼んでいた。
「この船を突然地上に転移させて集まった政治家連中をびっくりさせようと思う。戦闘機が出た後、2人には続いて出陣してちょっと脅かして欲しいんだ。でも殺しちゃだめよ?」
「ふん、このままの姿でいいのか?」
スーパー黒龍状態のノアが聞いた。
「いや、初期の龍でいこう。本物のドラゴンをアイツらに見せてやろう」
映画でしか龍を見たことない彼らはさぞや驚くことだろう。感動すら与えるかも、とロキは思った。
「ロキちゃんの頼みなら怪我明けでも頑張らせてもらうよ」
ユーベの治癒により、ほぼ傷の癒えたエルザがロキにウィンクして快諾した。
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