第86話臨界
地獄の井戸そのものを揺るがす白龍と黒龍の夫婦喧嘩。
周囲の温度を奪い尽くす氷結ブレスと、反対に対象を焼き尽くす熱線、その衝突点に出来上がった球体は既に臨界に達しようとしていた。
(この閉ざされた空間で大爆発を起こせば地獄の井戸自体が保たない……)
スーパー黒龍は背中から無数に生えた鋭利な棘を無言の気合いと共に射出し、周囲に展開させた!
棘は黒龍の周りを浮遊し、先端を白龍に向けた。
次の瞬間、無数の棘がまるでそれぞれが意思を持つかのように高速で白龍に襲い掛かる!
と見えたが、それは白龍の頭上を通過し背後に回り込む。
そして、全ての棘が一斉に向きを変え、再び白龍を正面に据えた。
その刹那、棘の先端に光の塊が生まれ、そこから対象を穿つ熱線が一斉に放たれた。
無防備な背後から、無数の熱線を浴びる白龍。
美しく硬質だった鱗が、焼けただれては剥がれ落ち、空中に舞う。
白龍の巨体がぐらりと揺れるが、何とか踏み止まる。
(かなりのダメージのはずだが、尚も攻撃をやめないとは……。一体俺はどれほど我が妻を怒らせたのだ?)
その時だった。
遥か高い天井から魔法陣が出現し、ハッシュがついに姿を現す。
「こりゃ、凄い戦いだね! 直に観戦しないと後悔するよ……」
「そうだ……な!」
ハッシュが顔を出したとほぼ同時にロキが空中に現れてハッシュの顔をむんずと掴み、魔法陣から引っこ抜いた。
ロキは自邸でこの時を待っていた。ハッシュの気配を探る事に集中し、現れた瞬間に転移したのだ。
「ちょ、ロキ! やめてーー!」
「やっと見つけたんだ、やめないね。お前も、ローズマリーとか言うストーカー女も、いい加減ぶっ殺すことにしたわ」
ロキはハッシュの顔を掴んだまま落下し、臨界寸前の球状の衝突点に向かう。
そして、何とハッシュをその中に投げ込んだ!
「嗚呼ぁぁぁ!」
最大級の冷気と熱線に挟まれて、さすがのハッシュも悲鳴を上げる。
「黒龍、もういいよ」
黒龍は熱線の放出を止め、白龍も突然現れた感じたことも無い魔力を漲らせた2人の男に警戒しながらも、攻撃を止めた。
身体から煙を上げながら地面に崩れ落ちるハッシュ。
「イーミン、トゥ、ナラフィ……」
ロキが次元の書を開き呪文を唱える。
断頭台が現れ、ロキはハッシュの頭を掴みそれに固定する。
「いやいや、ロキさん? 冗談だよね? ね? ね?」
ロキは答えず、即座に冷酷なギロチンが落ちる。
ズバンッ
血飛沫が舞い、ハッシュの首が跳ね飛ぶ。
ロキは黙ってそれを拾って床に置く。
「痛てて!いやいや、首落とすなんて酷いよロキ……」
首が胴体から離れたのにも関わらず、普通に話すハッシュ。
ロキは答えず、首が離れた胴体に向かい、その胸に手を突き入れた。そして、静かに心臓が抜き出される。
それをハッシュの首の前に無造作に放り投げた。
続けてトールハンマーを取り出して構える。ここまで待ったく躊躇がない。まるで手慣れた猟師が獲物を捌くようだ。
以前、ハッシュがレイスに言ったように、彼らを殺すには頭と心臓を潰し、地獄の業火で灰にしなければならない。
「わかった、わかったよ……全部話すから」
ハッシュが命乞いするが、ロキは構わずハンマーを振り下ろす。
が、それは地面を派手に砕いただけだった。
「ひぃぃっ!」
「おい、どうだ?死ぬって実感は」
「こ、怖かったよ……」
「おい、お前ら……」
白龍が人語を発した。ロキがハッシュを捌いている間に、第二形態に変異していたのだ。
「挿絵_白龍第二形態」
https://kakuyomu.jp/users/tukigimenori/news/16818792435821497614
「それが白龍、あんたの第二形態か。悪いけどこっちはコイツらのせいで一つの星が消えて何十億って命が失われる危機なんだ。夫婦喧嘩は後にしてもらっていいかい?」
「星が消えるか……犬も食わない夫婦喧嘩でそいつを釣ったな?」
白龍は、姿を見せなかった黒龍が突然現れた事から今に至るまでのだいたいの事情を理解した。
「まぁ、そういうこと。旦那の黒龍は後でしばいて良いから」
ロキがハッシュの首の前にしゃがんだ。
「さぁ、首チョンパくんにインタビューだ。洗いざらい話してもらおうじゃねぇか」
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