第9話 三つの刃
「避難地域で運用されている家電型バレットが二台破壊されました」
「ふむ、そうか」
ビルの一角に位置する豪勢な部屋。いかにも偉そうな高齢男性が、部下からの報告を受けている。
「社長、いいのですか? このままだと計画に支障が出るのでは……?」
「もう量産しているものを一台や二台破壊されたところで、そこまでの痛手にはならん。我社はシェア一番の『ホワイトラベル』だからな」
「では、この件はこれにて終了ということで──」
「アホか。会社の備品を破壊されたのだぞ? 償いはしっかり受けてもらう」
「であれば、賠償請求をしましょう」
「いや、貰うのは『命』だ。相手は暴走吸血鬼だろう? ならばそいつを確実に殺せ」
「承知しました」
「ボディカメラの映像は残っているのか?」
「いえ、データ保存域が破壊されているうえ、サーバーへのアップロードは二十分ごとに行われる関係で残っていません」
「──愚か」
「えっ……?」
「愚かだと言っている。常時アップロードは技術的に可能だろう」
「それは技術部に確認を取らなくては……」
「ならば取れ」
「し、承知しました」
そう言って、部下は社長室から出ていった。
「このペースでは、
社長はそう言ってため息をついた。
◆ ◆ ◆
十五年前に事件を起こしたピンク髪の少女、高巻ノノカは、赤髪の男、ラクという吸血鬼に連れ去られ、多くの吸血鬼たちと共に生活をしていた。
「ノノカさま、新たな参加希望者が現れました」
「──私はわかんないってば」
「それでも、承認はしていただかなくては」
「──勝手にして」
「はい、仰せのままに」
ラクではない金髪の男が、ノノカの承認を雑に得る。そんな男に、ラクが声をかける。
「それで、キドリ。新人はどうなんだ?」
キドリという名で呼ばれている男は、どうやらこのチームのリーダー格らしかった。ラクはそのNo.2であり、キドリのサポートをしているようだった。
「知らない。薬を飲ませてみないことにはね」
「──まあ、そうだよな」
「なあマシロ。薬はあるのか?」
緑にピンクの差し色が入ったマシロという女は、目を擦りながらビンをラクとキドリに渡した。
「この中の錠剤を五錠、三時間開けて三回飲ませて」
「はいよ。てか、面倒なクスリだよな。何とかなんねーの?」
「なるならとっとと改良しとるわ」
マシロは目付き鋭く、牙を煌めかせながら反論した。
「まあ、それで能力が発現するならいいじゃないか。オレたちがバレットにやられずに済んでるのは、このクスリのおかげなんだしさ」
ラクの声に、キドリが「それもそうか」と納得する。
「さ、新人はどんな人なのかな?」
ラクがそう言うと、その『新人』らしき者がふたり入ってきた。
「失礼します!」
「はじめまして!」
片方はとても肥えた男、もう一人は逆に異様なまでに痩せた女だった。
「ボクちん、人間の血を吸い尽くすために来ましたっ! 頑張るので、よろしくお願いします!」
そんな男の様子に、ラクはにこやかに対応する。
「へぇー、面白いじゃん? 何人も殺して血を吸ったから太ってるってこと?」
「その通りです!」
「ははっ、面白いね」
ラクはそう言って、薬を男に下手投げで渡した。
「ラベルに書いてあるとおりに飲んでね。さて、君たちにはどんな『
◆ ◆ ◆
そんなことが行われているだなんて露知らずのユウガたち三人のもとに、一般的な朝がやってきた。
「あ゛ー、なんかめっちゃ身体痛い」
「オーナー、昨日あれだけ血を出していたのですから当たり前でしょう? 今日こそは無理をしないでください」
「いや、なんか筋肉痛っていうか、痺れるっていうか」
ユウガが肩をグルグルと回すと、リーゼが眠い目をこすりながら言った。
「あー、もしかしたらそれ、グローブのせいかも」
「なんだー、そういうことかー……とはならないんだよな」
「え? そう? 身体の動きが向上するなら、なんとなく筋肉痛にでもなりそうな感じしない?」
「筋肉痛ってことは、どっかしらで慣れるってことか」
「そうなんじゃない?」
無責任だ、とイムクは思った。なんというか、昨日あれだけのことが起きながら、何も無かったかのように過ごす二人が不思議で仕方なかった。まるで、あの吸血が普通であるかのような感じだ。
「今日は部品調達に行くよ〜」
「部品調達……? リーゼはいつもどこで調達してんだ?」
「工場」
「直売所的なやつ?」
「いや、廃材をもらうの」
「──いいのか、そういうの」
「バレットなんて廃棄するだけで結構なお値段するんだよ。だから、廃棄するものを貰えたらもらう」
「貰えなかったら?」
「盗む」
「……倫理観がおかしいな」
「まあいいじゃんいいじゃん。こんな治安な街なんだから、倫理観なんて最初からあってないようなものだしねー」
リーゼという吸血鬼はつくづく無責任だ。イムクは二人のやり取りを見ながら、それを再確認した。しかし、自分のアップグレードもリーゼがしているので、なんとなく強く言う気になれないし、オーナーであるユウガがこんな感じなので強くも出れない。完全にドツボにハマっていた。
「さ、行くよー。ジャンク品漁りに、ね」
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