第46話:共感と決意


 「暗黒王国に着く前から、こんな苦労するなんてね……」


 翌日、まだ霧が立ち込める山道を歩きながらイリスがつぶやく。

 昨夜の戦闘と告白を経て、俺たちの絆は一段と強まった。


 「でも、イリスが一緒にいてくれて本当に助かるよ。

 闇の魔力って、俺たちじゃなかなか真似できないしさ」


 俺が素直にそう言うと、イリスは照れ隠しか、少しぷいっと顔を背ける。


 「ふん、あんたがそう言うなら悪い気はしないわ」


 モモはそんなやりとりを見て目を細め、安心したように笑っている。

 じいちゃんは先頭を歩きながら警戒を怠らない様子だ。


 「ここを越えれば、山道も後半じゃ。

 国境付近には検問所があるが、ちゃんと通れるかのう……」


 イリスが小さく息をつく。


 「ねえ、レイ。あんた、今度暗黒王国の奴らが襲ってきても、本当に私をかばってくれるの?」


 その問いに、俺は即答した。


 「もちろん。イリスは仲間だし、もし危険があるなら俺が守る。

 モモだって、じいちゃんだって、同じ気持ちだと思う」


 「そっか……。あの組織が私を連れ戻そうとしたら、面倒なことになるから

 ――正直、不安なのよ」


 イリスの声は弱々しいが、瞳にわずかな決意が宿っている。


 俺はそっと右腕の光の紋様に触れる。

この力がまだ制御しきれないとしても、大切な仲間を守る覚悟だけは揺らがない。


 「不安でも、一緒に越えていこう。暗黒王国がどうなってるかはわからないけど、イリスが怖がるなら、俺は徹底的に戦うよ。もう逃げないから」


 「それは……ありがたいわ。ほんと、馬鹿な優しさね」


 イリスが少しだけ笑い、モモは「私もレイさんに負けないように頑張ります!」と張り切っている。


 じいちゃんはその様子を見て、小さくうなずいた。


 ――しかし、そのタイミングで、またもや大きな影が視界に入ってきた。


 「ん? あれは……」


 木々の先に、不審な人影が動いている。

 三、四人……いや、それ以上のグループらしい。


 俺たちに気づくと同時に、そいつらは鋭い眼差しを向けてきた。

 どうやら山賊か、あるいは賞金稼ぎかもしれない。


 「よう、おまえら。この先は“通行料”を払ってからだぜ?」


 無精ひげの男がニヤニヤしながら剣を構え、こちらに迫ってくる。

 周囲にも仲間が配置されているようだ。


 「金目のものがあるなら置いていきな。なけりゃあ、体で払ってもらうぜ?」


 下品な笑みが、苛立ちを誘う。

 戦闘は避けられないだろう。


 「じいちゃん、どうする?」

 「ふむ、こんなチンピラ共に譲歩は要らん。ささっと片付けるかのう」


 男たちが一斉に襲いかかる。数が多い分、雑魚でも油断はできない。


 「モモ、イリス、俺たちで挟み撃ちしよう!」

 「わかりました!」

 「了解!」


 モモは驚異的なスピードで前衛に飛び込み、二人の山賊をあっという間に斬り伏せる。

 声にならない悲鳴が上がり、残党が慌てて後退。


 イリスは闇の魔弾を連発し、遠距離の狙撃を封じる。

 火の玉のような漆黒エネルギーが、矢やボウガンを弾き飛ばす。


 「な、なんなんだこいつら……ただの通りすがりじゃないのか?」


 山賊のリーダーが焦ったように振りかぶるが、そこに俺が右腕の光の刃を叩き込む。


 「うおおっ!」


 閃光とともに男の剣が弾かれ、リーダーは地面へ叩きつけられる。


 「……ぐああ! く、くそっ!」


 怒りに震えるリーダーが再び剣を握ろうとした瞬間、イリスの闇弾が背後から炸裂する。


 「悪いけど、こっちも暇じゃないのよ」


 イリスが冷徹な声で言い放つと、男はそのまま沈黙した。


 数分後、山賊たちは完全に散り散りになって逃げていった。


 「あー、意外と苦戦しなかったな。モモの攻撃がめちゃくちゃ速いから、敵がパニックになったみたいだね」


 俺が肩を回しながら言うと、モモは「えへへ」と照れながら武器を収める。


 イリスは一瞬だけ視線を落として、小声で言った。


 「また誰かを傷つけてしまった……。でも、しかたないわよね。私たちがやらなきゃ逆にやられるし」

 「うん。自分の身を守るのにためらう必要はないと思う。

 ……でも、今は俺たちを助けてくれてありがとう、イリス」


 イリスは少しふくれっ面をしながら、「別に」とそっぽを向く。


 だけど、その横顔には確かな信頼の色が見えた。俺は思わず笑みがこぼれる。


 「じゃあ行こうか、じいちゃん」

 「ああ。もうすぐ山道の終わりだからのう。今夜中には国境近くまで行けるじゃろう」


 こうして山賊を撃退した俺たちは、再び足を進める。

 イリスの秘密を知り、思いを共有した今、彼女が少しだけ肩の荷を降ろせたことが嬉しい。


 モモもますます頼もしくなるし、じいちゃんもいつものように冷静だ。


  ――誰かを守りたい、誰かと共に戦いたい。


 その気持ちがこのパーティを結びつけている。

 危険だらけの道だけど、絶対に諦めたくない。


 “暗黒王国”に向かう覚悟を新たにしながら、俺はイリスの横を歩く。

 お互いの苦しみを分かち合い、前に進むために。


 次に何が待ち受けようとも、きっと俺たちなら乗り越えられる――

 そう強く信じて。

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