第25話:一息つける拠点発見! 荒野に咲く小さな希望


 「見ろ、あそこ……人がいる?」


 俺――黒辻レイは、思わず指を差した。


 荒涼とした大地を延々と歩き続けるうちに

 遠くにわずかな灯りらしきものを見つけたんだ。


「まさか、この世界で生き残っている集落なんてあるの?」


 イリスが冷静な声でつぶやく。

 彼女――暗黒少女イリスも同じように杖を握りしめ、光の正体を注視していた。


「だとしたら助かるな……当てもなく彷徨うより

 情報を持ってる人がいるかもしれない」


「わざわざ近寄るのは危険かもよ。罠かもしれないし」

「いや、どっちにしろリスクは少ないだろ。

少なくとも寝床も欲しいし、水も補給したいし……」


 そう言い合いながら、俺たちは暗がりを進む。


 近づくにつれ、灯りの数が増えた。

 小さな家がいくつも並び、柵らしきもので囲まれている。


 確かに“集落”のようだ。



◇◇◇



 正直、こんな殺伐とした世界にも人が暮らしているなんて想像していなかった。

 柵の近くに立っているのは守衛らしき老年の男。


 俺たちに気づくと、やや警戒しつつも声をかけてくる。


「……あんたら、ここいらじゃ見かけない顔だな。何しに来た?」

「通りすがりです。もし寝床や食べ物を分けてもらえるならと思いまして……」


 敬語なんて久々だけど、こういう時は物腰やわらかくいった方が安全だ。


 イリスは警戒を解こうとせず、後ろで無言。


 睨むような目をしているのが少し心配だ。


「正直、俺たち行く当てがなくて……危険な魔物に囲まれて苦労してるんですよ」


 俺が素直に頼むと、男は少しだけ表情を和らげる。


「そうか……よく無事だったな。

 まあ、俺らも人助けを拒むほど血も涙もないわけじゃない。

 リーダーに話を通せば、宿くらいは貸してやれるかもしれん」


 ほっと胸をなでおろす。

 イリスもこっそり安堵の表情を浮かべているが、プライドのせいか無言を貫く。



◇◇◇



 集落のリーダーらしい老人――

 グラードという名らしく、何とも人の好さそうな笑みを浮かべていた。


 彼が言うには、この集落は昔から魔物の襲撃が絶えないが

 協力し合って生き延びているとのこと。


「闇の王がいるって噂は聞いたことあるが、実際に見た者はいない。

 ま、そいつが裏で魔物を操ってるのかもしれんがね」


 老人は肩をすくめながら言う。


 イリスが気まずそうに「ふん」と鼻を鳴らすが、何も言わない。


俺の推測だと、闇の王を相手にするなんて面倒、という気持ちが強いんだろう。


「とにかく助かりました。しばらくここで休ませてもらえませんか? 

 何かできる仕事があれば手伝うんで」


 俺が頭を下げると、老人グラードはニコリと笑った。


「ありがたい申し出だ。人手はいくらあっても足りんからな……

 そうだな、明日は子供たちの遊び相手でもしてくれりゃ大助かりだよ」


 こうして、俺たちは思わぬ形で“一息つける拠点”を得ることになった。


 宿屋のような施設はないが

 使っていない納屋を貸してくれて、敷布団と最低限の食糧を分けてもらえる。



◇◇◇



 夜。


 納屋で横になりながら、イリスが小声で言う。


「……変わった集落ね。

 こんな危険な世界で、よくもまあ協力し合って生きていけるものだわ」


「いい人たちじゃないか。

 昨日まで荒野を放浪してた俺らにとっちゃ天国みたいなもんだ」


「確かに……ただ、こういう幸せが長く続くとは思わないで。

 いつ魔物が襲うかもわからないのに、よく笑顔でいられるわ」


「彼らにとっては当たり前なんだろ。

 危険が日常みたいなもんで、それでも生きていくしかない」


 イリスは少し考え込み、頷くようなしぐさをしてから、すぐに背を向ける。


「……あんた、変な奴ね」

「またそれかよ」


 そんな他愛もない会話が続き、やがて二人とも眠りに落ちる。


 周囲の静寂が心地よい。


 久々に心から安らげる寝床だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る