第22話:危険地帯を行く!
翌朝。
荒野の地面で仮眠をとったせいで、体がバキバキに痛む。
暖をとれずまともな食料もなし。
俺は起き抜けに「あー、腹減った……」とぼやく。
「甘えすぎ。まだ動けるでしょ」
少女は平然とした顔で杖を握っている。
昨夜、魔物の血が飛び散ったせいか
服の裾が少し汚れているが本人は気にしていないようだ。
何なんだ、このタフな人……まあ、俺も相当だけど。
◇◇◇
しばらく歩いていると、大きな裂け目みたいな渓谷に突き当たった。
中からは熱波のような空気が吹き上がってくる。
地面が黒く焦げているあたり、火山か何かに近いのかもしれない。
「どうする? 迂回する?」
「いや、回り道がどこまで続くか分からないし、下を通れるなら行くべきでしょ」
少女は迷わず断言する。
怖いもの知らずめ……
でも、俺だって冒険者みたいに道なき道を選ぶのはキライじゃない。
「じゃあ行くか。魔物が出てもまとめて倒せばいいんだろ」
「……調子いいこと言うわね。でも、強い敵に当たったらどうする?」
「その時は“チート能力”で圧倒してやるさ。
あんたも派手に魔法ぶっ放せるだろ?」
少女は「ふん」と鼻で笑う。
「まあいいわ。足だけ引っ張らないで」
◇◇◇
渓谷の底を歩き始めると、すぐさま嫌な気配が漂ってきた。
壁面には無数の穴が空いていて、その中から奇怪な虫型モンスターが顔を出す。
「うわ……想像してたより気持ち悪いな」
巨大な甲殻虫のような奴らが、チラチラとこっちを見ている。
群れで襲われたら面倒そうだ。
「来るならまとめてかかってこい……!」
俺は右手に光のエネルギーを溜める。
砲撃のように一掃できる技が頭に浮かぶ。
少女も構えを取り、黒い雷撃を杖の先にまとわせている。
◇◇◇
案の定、甲殻虫たちはバサバサと壁を駆け降りながら一斉に飛びかかってきた。
その様子に「うひー、ゾッとする」と思いながらも
すかさず俺は光の衝撃波を放つ。
「喰らえ……!」
ズドン、と爆音が響き、虫の群れが一瞬で吹き飛ぶ。
数十匹はいただろうに、大半は砕け散って壁際に転がった。
「けっこうやるじゃないの」
少女は続けて雷の鞭のような魔法を振り回し
残った奴らをズバズバ焼き尽くしていく。
あまりの連携の良さに、自分で言うのもなんだけど笑えてくる。
「意外と息が合うな、俺たち」
「うるさい。あんたの動きに合わせただけよ」
ツンツンしながらも、彼女は満更でもなさそうだ。
◇◇◇
虫を殲滅し、しばらく進むと渓谷の終点が見えてきた。
そこには、まるで倒壊しかけの石門のような建造物がぽつんと建っている。
ここを抜ければ何かしらの痕跡
もしくは拠点みたいな場所があるかもしれない。
「ちょっと休憩する? 結構疲れたろ」
「…………、まあいいわ、少しだけ」
少女は無言でうなずく。
さすがに連戦で息が上がっているらしい。
地面に腰を下ろし、わき水を口にする。
ここで死んだら元も子もない。
いまは体力回復が先だ。
◇◇◇
何もしゃべらず、ただ静かに呼吸を整える。
この妙な二人旅、どう考えても長続きはしなさそうだが
今は協力するしか道がない。
少女と視線が合うと、彼女はフイッとそっぽを向く。
「……いいわ。そろそろ行きましょう」
「よし、任せとけ。俺が前を進んで、敵が出たらガンガン倒すからさ」
傍目から見れば強気な態度かもしれない。
でも、この世界で迷ってるうちは弱気になれないんだ。
俺は再び光の力を手に意識し、少女は杖を握りしめる。
そして、倒れかけた石門をくぐり、未知の地へ足を踏み入れた。
ドキドキする反面、どこかワクワクしている自分がいる。
……この戦いが終わったら、ちゃんと家に帰れるよな?
そんな不安を抱えつつ
俺は胸の奥で燃える“やれる”という根拠のない自信を信じて
次なるステージへと足を進めるのだった。
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