3章:今度の異世界はハードモード?
第21話:絶望の荒野
「……ここ、どこだよ……」
むせ返るほどの乾いた空気と
ぶつぶつと小さな火柱があちこちで吹き上がる荒れ地。
俺――黒辻レイは、頭の中で回転する思考を必死にまとめようとしていた。
そもそも、あの夜。
謎の少女と交戦中に転移魔法っぽい暴走に巻き込まれ
気づけばこの場所にぶっ飛ばされたわけだ。
横を見ると、同じくぐったりと倒れている黒い服の少女がいる。
杖を握ったまま、やっと意識を取り戻したみたいだが
相変わらずツンとした顔でこちらをにらんでくる。
「ちょ、ちょっと……あんた、無事なの?」
「……何とか。にしても、どうして俺を巻き込みやがるんだ!」
「私だって知らないわよ! 勝手にあんたが巻き込まれたのよ!」
お互い非難し合いながら立ち上がると
周囲に生い茂るわけでもない雑草のようなものが灰色に枯れていて
全体的に生気がない。
地面はところどころひび割れ、時折小さな爆ぜる音が鳴っている。
普通のファンタジー世界よりも殺伐とした印象を受ける。
「……くそ、どうやって帰るんだ?
俺、また地球に戻れなくなっちまったのかよ」
思わずため息が漏れる。
地球に残したモモや家族が、心配する顔が目に浮かんで胸が痛い。
「わざわざ来たくて来たわけじゃないわよ……こっちだって困ってるんだから」
少女は杖を軽く振ってみせるが、うまく魔力が働かないのか
火花が散るだけで転移の気配はない。
「はいはい。お互い様、だな……でも、ここで言い争っても仕方ない。
とりあえず、どこか安全な場所を探そうぜ」
◇◇◇
そうは言っても、見渡す限り荒野の地平線が続くだけだ。
がれきの山や、謎の黒い岩肌が点在し
不気味な影がうごめいているようにも見える。
緊張感が増していく中、少女が低く呟く。
「……あれ、あそこに人影が動いてる? いや、違う……」
視線の先にいたのは、人形のようにガリガリの体をした“魔物”らしき存在。
四つ足で地面を這うように動いている。
「まずはあいつを倒すか、それともやり過ごすか……」
俺が問いかけると、少女が不敵に杖を構える。
「正面突破よ。あんたには“勇者の力”があるでしょ?」
苦笑しながらも、右手に“謎の力”を集中させる。
「ほんと便利な呼び方だな……でも、やるか!」
◇◇◇
魔物がこっちの存在に気づき、低い唸り声とともに駆け寄ってくる。
俺は瞬時に光の衝撃波を放ち、先頭のやつをまとめて弾き飛ばす。
少女も黒い電撃をほとばしらせ、一斉に焼き焦がすような攻撃を見舞う。
「やっぱりあんた、妙に強いわね」
「そっちだって派手にやってるじゃんか!」
乱戦の中、俺の拳に宿る光が一気に爆発し、雑魚魔物を一掃する。
すっきりとした爽快感があるのは不謹慎かもしれないが
やはり“チート能力”は心強い。
魔物たちが呻き声を上げて崩れ落ちると、辺りは再び静寂に包まれた。
少女が肩で息をしながら俺を見下ろす。
「ふん……こんな雑魚に手間取ってたら命がいくつあっても足りない。
早く行くわよ」
相変わらず素直じゃないが、彼女なりに俺を認めているような口調だ。
◇◇◇
“とりあえず安全地帯を探す”のが先決。
そう言い合った俺たちは不機嫌さをかみ殺し、二人で進み始める。
この荒野はどこへ続いているのか、魔物がどれほどいるのか
何もわからないままだ。
「なんか先が思いやられるな……」
「言っとくけど、私はあんたと協力するつもりはない。
仕方なく一緒にいるだけだからね」
「はいはい。じゃあ、協力しないで一人で死ぬか?
どうせお互い生き延びるため、協力するしかないっしょ」
「……うるさいわね」
そんな押し問答をしながら、俺たちは荒地を踏みしめる。
嫌でも分かる、ここはまともな世界じゃない。
だけど、どんな絶望でも“俺がやるしかない”。
変に自信はあるし
そうじゃなくても心を強く保たないと不安で死んじゃいそうだ。
大きく息をついて、最初の一歩を踏み出す。
生き抜いて、いつか絶対に地球へ戻る。
その強い決意が、鈍い空気を切り裂いていく。
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