第15話:岸辺モモ、初めての学校体験で大パニック!?



 朝、俺――黒辻レイは、焦りながら下駄箱へ急ぎ足。


 理由はひとつ。


 今日はついに“岸辺モモ”を学校に連れてくることになったからだ。


 もとは留学生設定で後日……と思っていたけど


 母さんやヒメさんたちが書類をあれこれ誤魔化し(?)てくれたおかげで

 意外とあっさり転入が認められたのだ。


「ほんとに大丈夫か……? 言葉とか色々、まだ不安だろ」


「大丈夫です! レイさんのおかげで

 地球の文字も少し読めるようになりましたから!」


 モモは目を輝かせている。やっぱり好奇心旺盛な子だな。



◇◇◇



 ホームルーム前、担任の先生がモモを軽く紹介してくれた。


「えー、今日から留学生という形で転入してきた岸辺モモさんだ。

 黒辻の……なんだ、親戚の親戚くらいって話だな」


 曖昧すぎる説明に教室中が「はあ?」とざわつく。


 でも先生は気にせず「みんな協力してやれよ」と言い残し、早々に退場。


「よ、よろしくお願いします……」


 モモが控えめにお辞儀をする。


クラスメイトはなんだか戸惑いつつも「お、おう」「よろしくー」と拍手を送る。


 その中で、一番の騒ぎを起こしたのは案の定、俺の友人たちだった。


「なあ、レイ。マジで親戚なの? めちゃくちゃ美人じゃん!」

「同居してるとか、うらやましすぎるだろ!」

「海外育ちってホント!? 何語が話せるの?」


 質問攻めにあいながら、俺は必死に「まぁまあ…」と取り繕う。


 モモは緊張しつつも笑顔で「よろしくお願いします」と頭を下げていた。


 こうして、彼女の“地球の学校生活”が始まる。



◇◇◇



 初めての授業。


 国語や数学、理科など、モモにとっては未知の領域だ。

 俺が隣の席でサポートしようとするけど、授業が進む速度に追いつかない。


「レ、レイさん……この漢字って何ですか?」

「うーん、“熱帯低気圧”…?」

「ねったいていきあ……? 難しい……」


 挙句の果てには先生が当ててきたりして


「海外育ちだし無理しなくていいぞ」と声をかけてもらうと

 モモは素直に安堵している。


 クラスメイトの何人かはクスクス笑うけど、嫌な感じではない。


 むしろ興味津々の様子だ。



◇◇◇



 昼休みは大騒ぎだった。


 モモを連れて学食へ行けば

 「これがうわさの転校生?」「可愛い!」と周囲の注目を浴びる。


 モモは半分パニックで、初めて見るメニュー表に驚きまくり。


「レイさん、この“うどん”って何ですか?」

「温かい麺類だよ。まぁラーメンに似たようなもんだ……とりあえず食ってみ」

「は、はい!」


 トレーを持つ手がプルプルしてる。列に並ぶだけで精一杯だろう。


 その姿が微笑ましく

 クラスの女子たちが「守ってあげたい~」と大盛り上がり。


 わかるよ、その気持ち。


 俺も日々そう思ってるから。



◇◇◇



 さらに放課後、俺は例の友人たちに捕まる。


「なあ、レイ。あの子、ほんとに外国人なの? 

 なんか妙に漢字に興味持ってるけど」


「そ、そうそう。ハーフとかって感じでもないし……」

「あんま根掘り葉掘り聞くなって。モモも大変なんだから……」


 俺がやんわり断ると、友人たちは「ま、まぁそうだな」と引き下がる。


 クラスの女子勢も「明日から一緒にお昼食べよ」と誘ってくれてるみたいだし

 思ったよりモモは順応できそうだ。


 何より、俺が彼女をそばでサポートできるのは嬉しい。


 もっとも、その裏で

 「レイ、なんだかんだ言ってイチャイチャしてるんじゃねぇの?」

 と冷やかされるのも想定内だ。


 俺は否定したいけど、内心じゃその光景を想像して照れてしまう。



◇◇◇



 下校時、校門を出るとモモが深いため息をついた。


「はあ……すごく楽しかったけど、とても疲れました……」

「だよな。お疲れさん、よく頑張ったよ」

「はい。クラスの皆さんも優しくて……ほんとに安心しました!」


 モモが笑顔を向けてくる。


 俺はその笑顔を見て

 「ああ、この子が学校に馴染めるようになって良かったな」と心底思う。


 ただ、一方で俺の背後にはまだ影が迫ってくるような不安がよぎる。


「何かあったら、俺が守るから。安心して地球ライフを楽しめばいいさ」

「……はい、ありがとうございます!」


 モモは微笑みながら頷く。


 こうして彼女の地球での新鮮体験は幕を下ろし


明日からまた別の騒動が待ち受けている……そんな予感がしなくもない。

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