2章:地球は平和です?

第11話:家族会議



 リビングに通されると、父さんと母さん

 そして家政婦のヒメさんが待ち構えていた。


 母さんがエプロン姿のまま、腕を組んで俺を睨む。


「ちょっと! いったいどこに行ってたの? ずっと心配したんだから!」

「ご、ごめんって……正直、自分でもよくわからないんだよ……」


 とにかく俺は異世界での出来事をかいつまんで話す。


 もっとも、“謎の力”とか“魔物撃退”とか、どこまで信じてもらえるか微妙だが。


 家族は最初「嘘ばっかり!」と疑いの目を向けてくる。

 だけど、ずいぶん慌てた様子で父さんが口を挟んだ。


「で、お前とハルじいさんは一緒に消えたんじゃなかったのか? 」

「え? じいちゃんも失踪してるの?」


 俺は思わず声を張り上げる。


 どうやら、じいちゃんは俺とほぼ同時期にいなくなったらしく

 家族は俺と一緒に旅立ったんだろうと推測していたらしい。


 だが実際には、異世界でじいちゃんの姿なんて一度も見ていない。


「マジか……じいちゃん……。

 もしかしたら、俺に襲いかかってきた変なの男と関係あるかもしれない」


 俺は襲撃者の印象的なローブ姿や不気味な魔法陣の話を伝える。


 父さんと母さんの表情が曇る。

 けれども彼らは「うーん……」と曖昧な反応しか返してこない。


「とりあえず、ハルじいさんの件はこっちでも手を尽くして探すよ。

 でも警察も動いてくれなくてね……」


 父さんが悔しそうに吐き捨てる。


 母さんも「そうなの。家族が海外旅行にでも行ったんじゃないかって

 扱いされちゃって……」と力なく微笑む。



◇◇◇



 そして話題は自然と、俺の隣にいる少女に移った。


 父さんや母さんが上目遣いで「この子は……?」という視線を送ってくる。


 俺は緊張しながら説明する。


「い、一緒に異世界から来ちゃって……実は名前もよくわかんないらしいんだ」


 家族は「えぇ……」と戸惑いを隠せない。

 すると少女が意を決したように口を開いた。


「その……私は自分の本当の名を覚えていません。

 ただ“モモ”って呼ばれていたことがあります。

 岸辺 モモ……が名前だと思います。」


「岸辺?」


 母さんがピクッと反応し、父さんと顔を見合わせている。


「……“岸辺”って苗字なら、じいちゃんと同じじゃないか?」


 思わぬ共通点に、家族中がざわつく。


 少女――便宜上、俺は今後“モモ”と呼ぶことにしたが

 モモ自身も話が見えずに混乱している。


「まあ、細かいことはともかく行くあてがないならしばらくウチにいればいい。どうせレイが連れてきたんだろ?」


 父さんは照れくさそうに鼻をこする。案外、優しい。

 母さんも「そうね、困ったときはお互い様」とうなずいた。


ヒメさんも「やった! 新しい仲間っスね!」とはしゃいでいる。


 こうして“家族会議”はひとまず円満(?)に終了。


 じいちゃん失踪の件がある以上、安心とは言えないけれど

 モモの居場所は確保できたというわけだ。


◇◇◇


 夜、俺は自分の部屋でひとり、ベッドに寝転がりながら考える。


 じいちゃんと俺が一緒に消えたと思ってた家族。


 実際は全然別事件で、じいちゃんはいまだ行方不明。


 モモの“岸辺”という苗字、じいちゃんとの奇妙な縁。

 そして、謎の襲撃者に関する手がかりは無し……。


「これからどうなるんだろうな……」


 不安は尽きないけど、俺はここまで生き延びてきた。


 例えどんな厄介ごとがあろうと

 大切な人や家族を守るためにこの“謎の力”を使ってみせる。


 そう決意して、目を閉じた。


 ――次の日から、新たなドタバタが待ち受けているとも知らずに。

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