第8話:少女の秘密と儀式? もう一度地球へ戻れるかも!」


 翌朝、いつも通り治療所の部屋で目を覚ますと

 ドタバタと騒がしい気配が聞こえてきた。


 外から町の人の声がする。


 何か揉め事でも起きたかと思って飛び出すと

 そこに少女と青年が困惑して立ち尽くしていた。


「ど、どうしたんだ?」


 少女は少し頬を赤らめながら、恥ずかしそうに視線をそらす。

 一方、青年は興奮気味に俺に説明してくる。


「聞いてくださいよ、この娘さん……本当は有名な勇者の家系らしいんです!」

「はあ? 勇者の家系?」


 あまりに突拍子もない話に、俺は口をぽかんと開ける。

 しかし、少女は小さくうなずく。


「私の家、昔から“異世界渡りをした勇者”の血を継いでるらしくて……。

 でも、私自身は詳しいことを知らないんです」


 でも、どうして今になってそんな話が浮上したのか。


 どうやら治療所の先生が、彼女のケガの状態や体質などを調べたら

 普通の人間とは違う“何か”を感じたらしい。


 それで問い詰めたら、彼女が“勇者の末裔”だと打ち明けたんだとか。


「しかも、そのご先祖さまが昔

 “次元渡り”で異世界を行き来してたって言うんだよ!」


 青年が食いつき気味に話す。


 次元渡り……?

 それって、俺が帰る手段として絶対必要なワードじゃないか!


「ねえ、それって本当なの? 

 そのご先祖さまの方法がわかったら、俺、地球に戻れるかもしれないよね?」


 思わず、少女の肩を掴んで問いかける。

 彼女は驚いた顔で小さくうなずいた。


「はい。たぶん“伝承”がどこかに残っているはずなんです。

 私もまだ詳しくは知らないんですけど、父が昔、どこかの遺跡の話を……」


「遺跡!? いや、それ怪しい響きしかしないけど……

とにかくやってみる価値はある!」


 今まで閉塞感しかなかったけど、ここにきて一筋の光が差し込んだ気がする。



◇◇◇



 その遺跡は、この町から少し離れた森の奥にあるらしい。


 この世界では“伝説の勇者が封印を解いて旅立った場所”として

 半ば観光名所みたいになっているとか。


 しかし最近は魔物が出るし、道も崩れていて近づく人がほとんどいないらしい。


「そりゃもう、行くしかないだろ!」


 俺は意気込むが、少女はまだケガが完全には治っていない。

 でも、彼女も強い意志を持って言う。


「私も行かせてください。家の秘密かもしれないし……

 なにより、あなたを助けるきっかけにもなると思うから」


 しかも、青年まで張り切っている。


「僕も一緒に行きますよ! 道案内は任せてください!」


 コメディみたいに勢いだけでどんどん話が進んでいくけど

 個人的にはありがたい。


 仲間が増えれば心強いし、ここで断る理由もない。



◇◇◇



 準備を整えて、いざ出発となった。


 町の人たちには「勇者様が旅に出るらしい!」と噂が広がり

 「気をつけてね!」と手を振って見送られる。


 恥ずかしいけど、これもまあ悪くない気分だ。


 道中はさっそくコメディのようなドタバタがあった。


 青年が張り切りすぎて、ザックにいろんな荷物を詰め込み、重さで転びまくる。


 少女が「ごめんなさい、私も少しを持ちます……」と申し出るんだけど


 青年は「いえ、女性にそんなことは!」と変に気を使っている。

 俺は呆れながら「どっちでもいいけど、先急ごうよ!」とツッコむ。


「ふふ……あなた、意外と面倒見がいいんですね」


 少女にそう言われると、俺は「別に、普通でしょ」とごまかす。


 こうして、面白おかしくのまま森の奥へ進んでいくと

 やがて古びた石造りの門が見えてきた。


 苔まみれの石碑には、おどろおどろしい文字が刻まれている。


 青年がすかさず唸る。


「ここが例の遺跡ですね。伝承によると、“勇者の儀式”とやらを行う場所……」

「よし、この中に“次元渡り”の方法があるかもしれない。行こう!」


 胸が高鳴る。


 もしこの遺跡を進めば、本当に地球に戻れるかもしれない。


 けど、同時に嫌な予感もする。遺跡には魔物とかトラップが付き物だ。

 それでも、ここで立ち止まるわけにはいかない。


 大きく深呼吸して、少女と青年を振り返る。


「ここから先は危険かもしれない。

 でも、みんなで力を合わせればきっと行けるはずだ」


「はい!」

「もちろんです!」


 それぞれが頷き合い、足を踏み出す。


 扉の奥に待つのは謎か、それとも冒険か。

 俺の心は高鳴りっぱなしだ。


 ――あの時、転生?してきた時は絶望しかなかったけど、今は違う。


 たとえ失敗しても、仲間がいてくれる。

 そして、帰れる可能性が1%でもあるなら、迷ってる場合じゃない。


「よし、行こう!」


 こうして俺たちは、薄暗い遺跡の中へ勇気を振り絞って踏み込んだ。


 次回、どんな運命が待ち受けているのか……それは、俺にもわからない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る